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伝説の大魔王 vs 村のセクハラ庄屋 第71話

 さっそくではあるが、エミーがカンナを連れて後宮に向かった。まずは風呂と着替えですね、と張り切っている。一応一張羅を着てきたカンナは気まずそうな顔をしているが、エミーは意に介さない。

 その後に「こっちは、まずは基礎からだね!」と師匠がガントを連れて行った。こちらは悲痛な顔をしているが、それも含めて師匠の心の栄養だから仕方ない。


 俺達は苦笑いをして見送った。すると、ジャロロが軽い笑みを浮かべて聞いてくる。


「お前様よ、政治的な話し合いというのはどうじゃったかの?」

「難しいな。武力は表に出してはないが、結局のところ、力に任せた交渉になったわ」


 ジャロロは愉快そうに笑った。


「それでいいのじゃ。結局はそれもまた真なりでな。政治的な話し合いとは、相手との力関係も当然考慮に入れて行われるものじゃからな」

「力業をするなといっていたが?」

「それも勉強じゃ」


 うちの嫁さん(ジャロロ)は教師としても優秀だな、と思う。結局、力を誇示するにしても、話し合いの流れの中でなくてはいけない。


「ライト。確かにジャロロ様のいうことももっともです。どうしても私達は力=正義でやってきましたから――」

「ジャロロ様の在位時代は力こそ正義の人であったのだがな――丸くなられた」


 リャララがノスタルジーを感じつつも、そのジャロロの変化に驚いていた。


「リャララよ。その結果は分かっておろう」

「魔国においては、それこそ正義の象徴ゆえに」

「正義か。確かに侵略を退けた。しかし見てみろ。アッティラ帝国のわしに対する思いを。強すぎる正義とは、相手にとっては恐怖そのものじゃろうよ」


 ジャロロはリャララに厳しい顔を向けた。


「隠遁生活が送れないのならば、儂は儂よりも強い男に嫁入りしておくのがちょうどよい。儂の旦那様は短気で短絡的なところがないわけではないが、我々すべての人類種の幸せを願って居ることは確かであるし、そういう教皇(立場)にある」

「少なくとも世界征服などはするつもりもないからね。敵は排除するけど」


 マクダウェルが敵にならないのならそれでいい。しかし、その話し合いもしないというならば、それは敵であると言ってもいいだろう。


 疑心暗鬼は人を殺すからな。


「で、ジャロロ、土魔法の掘削技術について教えてもらいたいんだけど」

「お前様は神聖術しかつかえないであろう?」

「ああ。それなんだよな。プララも土系は苦手だしな」

「はい、難しいです」


 ジャロロはカカカと笑った。


「いったい、儂の数百年に及ぶ研究結果の土魔法を誰が使いこなさせるというのか。このジャロロ=サリス=ジャロの土木技術の極みを誰が使いこなすというのかの」

「そうだな――」

「人族では無理じゃ。ほれ、他におるかのう」


 冷たい紅茶を木のストローで啜りながら、ジャロロはニヤニヤ笑っている。


「いない、か」「いませんね、そんな人」「いないですね」「おらんのう」


 俺達は困った顔で見合った。プララは闇、雷、光系統。リャララ様は風と火。イル様は神聖術オンリーだ。


「お前様よ。一人おるぞ。忘れるでない」

「師匠はだめだぞ」

「当たり前じゃ。あ奴は忙しかろう」


 頭を振って否定するジャロロ。少し不機嫌そうだ。


「ああ!」


 と声をあげたのはプララだった。だが、声を上げただけで口をつぐんで、目でなにかを訴えてくる。


「プララ妃よ。お主はいい子じゃのう、しかし我らの旦那様は思いつかぬようでな」

「え、ええ。あの、ありがとうございます。ジャロロ様――」

「ほれ、妃も理解してくれたようだし、さっさと正解にたどり着かぬか。この世界で、強大な魔力を保持しており、儂の芸術的ともいえる土魔法、もはや土木魔法と言ってもいいほどの魔法を余すところなく使える人物。そしてお前様の要請なら決して断らぬ人物じゃ」


 シュシュトリとイル様が苦笑している。ジャリリも堪えてはいるが、答えにたどり着いたらしい。


「ジャリリ?」

「阿呆――そやつは雷系じゃろうが、ほれ早く」

「私はちなみに水系よ?」


 シュシュトリが何やら楽しそうだ。だが、それに反比例するかのようにジャロロの機嫌が悪くなっていく。


 そこに至って、ようやく理解した。


「あ、あの、奥さん、一緒に来てもらえますか?」

「誰に言っておるんじゃ。ここにはお主の奥さんは2人おるでの」

「ジャロロさん、どうか、一緒に来てもらえますか?」


 ジャロロは拗ねている。


「なんで儂に言わんのかのう。他人を頼るな、などとは言わんが、まず儂にさせればいいじゃろうが。そこの我が甥のような男を思いつく前に、儂に頼ってもいいと思うがの」

「はい、その通りで」

「お前様がどう思って居るかは知らんが、儂は伝説を残した大魔王である前に、お前様の嫁なんだがのう。妊娠しておるプララ妃の名前の前に、儂に頼むと言ってもいいのじゃ」


 それはその通りなんだが。どうもジャロロを使うのは気が引けるんだよな。かなり年上だし。


「今考えておることを口に出したら、儂は5年は口をきかんぞ――」

「な、何も考えてないって。ジャロロと一緒に働けるのはうれしいなあと思っていただけだ」

「ふん、まあいい。とりあえず、お前様が考えている土魔法と儂の実際の土魔法の差異があってはならぬからの。どこかで実験でもするとするか」


 ジャロロは立ち上がった。そして俺の腕をとる。


「妃よ。今日は借りていくぞ――」

「いってらっしゃいませ。ライト、ジャロロ様」


 プララは苦笑しながら言った。


「じゃ、じゃあ、いってきます」


 ★


 掘削実験の場所は決まっている。失敗や成功がばれにくく、元から狙っていた場所。


 アッティラ新帝国サリス領ダリアス。妻問い婚(よばい)の風習が残る村である。俺達はダリアスの施術院の寝室の転送魔法陣についた。


「ここからは、ライ=セローとロロ=セローで」

「ふむ、いいじゃろ」


 ジャロロは嬉しそうに腕を組んだ。久しぶりのダリアスである。ずいぶん休業が伸びてしまっている。


「ライ先生!お久しぶりです。おや、今日は奥様がご一緒ではないようで」


 施術院を出て、村に行くとニコニコとした庄屋が近づいてくる。


「ああ、庄屋さん、ちょっと忙しくてね。こっちの仕事がおろそかになってしまった」

「儂も妻じゃ」


 俺の華麗なるスルー力をジャロロがきっちりと否定する。無い胸を精一杯張って、力強くジャロロは答えた。


「お主が庄屋殿か。儂は主人の三番目の妻ロロじゃ――よろしく頼むぞ」

「……ほう!」


 庄屋がニヤニヤしている。


「なんですかな、ライ先生。バインバインのおっぱいも洗濯板も各種取り揃えて結婚してますって感じですな!」


 相変わらず流れるようなセクハラをかましてくる庄屋。


「庄屋、お前は相変わらずバカだよな」

「何をおっしゃいます。このドスケベ先生、そんな大平原の小さな胸といった娘まで妻にしているとは、この庄屋、驚きですぞ!!大きな胸に安らぎを、小さな胸にロマンを感じるんですなぁ!!」


 俺は怖くて俺の腕に腕を絡ませてくるジャロロの方を向けない。


「わかっておるではないか。こやつは夜もドスケベでのう!」

「おほ!!そうですか!やはり、ライ先生はドスケベですか!いや、しかしロロさんが3番目、ということは他にもいらっしゃるんでしょうな!」

「そうじゃ。おるぞ。エミーといってな!これがなかなか均整の取れた体じゃ。1番目と儂との中間タイプじゃ」

「おお!2人目はエミーさんとおっしゃるのか」


 庄屋はそこまで考えて、ふと、何かに思いついて、ふふっと笑った。


「何を笑って居るのじゃ」

「ああいえ、エミーといえば、ここの前領主の正妻にいまして。いや皇帝陛下のご息女様ですがね。器量は良くないものの民と領地のことを一番に考える女傑と言われてましてね。しかし、一度だけ領都でお見かけしたことがありますが、あれはあれでいい女でしたなあ」


 俺はエミーの庄屋評に純粋にうれしく思った。


「伯爵様が教皇猊下のフィアンセである三女を寝取って自裁なされた後は、どうもイル教の若き教皇猊下に嫁いだらしく、さらなる玉の輿に乗ったとか!素晴らしいですなぁ!」

「何が素晴らしいのじゃ?」

「教皇猊下はあのエミー王女のエロさを理解しているわけですわ!友達になれそうな気がするのですよね!」


 友達になりたくはないな、と思っているとジャロロはさらに嬉しそうに話した。なにが彼女の心にヒットしているのかはわからない。


「ほう、教皇と友達とな」

「ええ!さらにはあの伝説の大魔王ジャロロ=ジャロをも嫁にしたとか!わかってらっしゃいますなあ!なんでも帝都に現れたジャロロ=ジャロは背も小さくて少女のようだったとか!巨乳エルフから疲れた人妻、つるペタ大魔王とすべてが違う属性!いやぁ、教皇はホント、ドスケベですなあ!」


 酷い言われようだ。


「ああ、ライ先生も教皇と同じように巨乳エルフにエミーといわれる女性、それからその洗濯板のロロ殿と――んん?」

「ふふん、どうした!この洗濯板のロロ殿がお主に聞いてやろう!!」

「いや、あの、まさか、ねえ、ライ先生?」


 俺は首を振った。「洗濯板のロロ殿」は表現がひどい。


「教皇猊下はここのパリス=サリスの義理の兄じゃろうが。我が旦那様はどのようにここに来たのかのう?」

「パリス様の紹介です――」

「お主から見て我が旦那様はどんな男かのう?」

「凄まじい力を持った方です」

「どうじゃ、樹海龍ラトーガくらいなら倒せそうかの?」


 顔面を真っ青に染めて、庄屋は頷いた。


「ふふん、バカかと思ったら、口に出さないだけはよしとしようではないか。これまで通りライ=セローとその妻たちとでも考えておくがよい」

「は、はい。ご温情ありがとうございます。そ、それからロロ様、先程から失礼なことを申し上げましたが、私めは洗濯板のような胸も好きでございます」


 ぐっとジャロロの俺の腕を握る手が強まる。分かる。この男は一切悪気はなく、一生懸命に取り繕うとしながら、逆鱗に触れる男だ。


「うむむ、散々失礼な男よの――儂がもう百年若かったら殺しておったかもしれぬわ」

「は、す、すみません。しかし、これだけは分かってくだされ」


 庄屋はすぐに土下座姿勢を作る。しかし土下座しながらも一言述べる。


 こいつはやらかすな、たぶん。プララの時にも同じように積み重ね、切れさせた。


「なんじゃ、言ってみろ!!」

「私にとって『ジャロロが来るぞ』は、夜這いに行かなくてもあちらからきてくれるのか、と密かに期待した言葉でした」

「――痴れ者がッ」


 ぼわっと膨れ上がる膨大な殺気。ここまでの殺気をジャロロが俺の前で発したことはない。


「お、お許しを!!」


 がくがくと震えながら、頭を地面にこすりつける。


「しかし、皆はジャロロは男だと私をバカにしましたが、このような可愛らしい女性であったことを知るにあたり、我が少年時代のリビドーは一切の間違いがなく、正しかったことを今嬉しく思っております!絵本『ジャロロが来るぞ』で精通を迎えた私は間違っていなかった!!!」


 ああ、変態である。極めて変態である。


「の、のう、お前様……こやつは、殺した方がいいのではないか?なんというか、人類の尺からは離れておる……」


 ジャロロはあまりの言葉に怒りがすっかり委縮し、代わりに恐怖が込み上げてきたようだ。うん、確かに今のは気持ち悪いよな。


「お待ちください!!」


 と、出てきたのは高台集落のアシビ。この集落の女性代表である。


「やぁ、アシビ!こっちは俺の3番目の嫁さんのロロな。強力な魔法使いでな。今、ちょっと庄屋を殺そうかと」

「ああ、またライ先生の奥さんにバカなこと言ったんだね!ああ、もう!はい、みんな集合!」


 集落の向こうから出てきたのは子供たちだ。みんながジャロロの前に並ぶ。


「「「お父さんを許してください」」」


 前よりも素早い整列に驚いた。訓練されている感が半端ない。


 だが、初めて経験する子供たちの謝罪にジャロロの戸惑いは相当であった。


「いや、いや、儂は殺そうなどとはしておらぬ、大丈夫じゃ、大丈夫じゃ」


「「「ありがとう、ございます!!」」」


 子供たちはニパっと作り笑顔を見せて去っていく。


「の、のう、お前様よ。人族というのは、恐ろしいのう」

「だろ?怖いよなぁ」


 俺達はその逞しさに顔を見合わせて笑ってしまった。







セクハラおっさん再び。

もう私もおっさんですから、セクハラとかパワハラに気を付けるわけです。

いや、しませんけどね。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

少し更新が遅れていますが、まぁ、いろいろ妄想しながら進めていますので許してください。

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