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舎弟ガントの妹は料理上手で。第69話

 オゴタ=ハンの部族ハプーナとの話し合いが決着した後、宴会となった。宴会場はハナハプーナの酒場だ。


 これはガントの提案で、表向きは幹部連に毛が生えたお祝いだ。そこにはハッサム=ハプーナや幹部連中も当然参加していた。さらには酒場の周囲もオープンカフェ状態になり、出入り自由のお祭り騒ぎとなった。


 町の老若男女問わず参加しての大騒ぎ。町中の酒屋から酒が消えた。酒場の料理だけではもちろん追っつかないので、各食堂などにも出してもらい、それを普段よりも割増の料金で買い取っていった。


 会計は俺持ち。俺がガントに金を渡しておいてその場で支払っていく。金貨銀貨がバンバン飛んでいったが、みんな満足してくれたようで良かった。


「兄ぃ!この後、どうされます?」

「ああ、まぁ、教会で休もうかと思っているんだが――」

「そうか、兄ぃのホームみたいなもんですからねえ」


 ヒップス助祭が寝所を用意してくれている。


「なんかようか?」

「俺の家で飲みなおしませんか。兄ぃが酒を苦手なのは分かっているんですが、俺の妹に料理作らせていますんで」

「へえ、ガントの妹か。世話になっているから挨拶がてら寄らせてもらおうか」


 ガントには世話になっている。そして、これからはもっと世話になる。長との連絡役、公共事業の差配、この地における足掛かりだ。


 俺たちは連れ立って歩く。ハナハプーナの街の喧騒を割けるように裏道を進む。


「あんまり綺麗じゃないんで兄ぃに来てもらうのは悪いかと思ったんですけどね。知ってほしいんですよ。自分を」

「問題ないさ。俺もガントという男をもっと知っておきたい」

「嬉しいっす」


 ニヒっと笑って見せるガントに、俺も笑い返した。


「帰ったぞ!」


 ガントの家は確かにボロかった。なんというか、ここは明らかにスラムの入り口だ。


「ガンちゃん、遅い」

「カンナ、飯できている?」

「もっちろん」


 ガントの掘っ立て小屋は1Kで、入り口で中がすべて見渡せた。この亜寒帯の地域に住むには若干苦しいだろう。ガントの経済状況もなんとなく分かった。


「お邪魔します」

「いらっしゃい!ライ先生ですね!ガンちゃんの妹のカンナです」

「こんにちは、ライです。こりゃガントには似合わない可愛い妹だな」

「かわいいとか、うちのほうが絶対に年上ですよ!でも、ありがと」


 にはは、と笑うガントの妹はお世辞抜きに可愛かった。金髪ショートに背は160前後、顔のそばかすは愛嬌を感じる。年のころは20前後か。


 俺は靴を脱いで家に上がり込む。四角い座卓に料理が並べてあった。ジャガイモや野菜を煮込んだポトフみたいな料理や卵とチーズを使ったリゾットのような食事。体が温まりそうだ。


「ん、ガント、ご両親は?」

「ああ、兄ぃ、気を使う必要はありません。俺と妹しか住んでいません。こいつが小さい頃に死にました」

「そうか」


 このカンナが小さい頃はお前も小さかったろうに、という言葉は飲み込んだ。なかなかの苦労人である。


「飯、貰っていいか?」

「お、乾杯しましょう!カンナ、あの酒だしてくれ、兄ぃにはミルク割で」

「いいよ!奮発しちゃおう!」


 カンナがごそごそと箱の中から酒を引っ張り出した。エールとは違う酒だ。若干蒸留酒のような香りがする。


「じゃあ、カンナさんとの出会いに」

「おお!兄ぃとカンナの出会いに!」

「私との出会い?やめてよ!恥ずかしいじゃん」


 若干、癖はあるが、悪くない酒だ。


「ライ先生、ガンちゃん、迷惑かけてませんか?」


 心配そうにカンナは言った。


「なんでだ?」

「ガンちゃん、けんかっ早いし、いい格好しいだし、厄介ごとを簡単に引き受けちゃう。その巻き沿い食ってない?」

「やめろよ、兄ぃになに言ってんだよ」


 ガントがブスっとした顔で止めた。ガントとは喧嘩はしたし、禿げの治療させられたし、俺の頼みも簡単に引き受けてもらった。


「全部あったが、トータルでプラス。これから俺の相棒として働いてもらうから」

「え!?ガンちゃんを雇ってくれるの?」

「マジっすか。兄ぃ!?」

「あれ?言ってなかったっけ?俺がここを選んだのはガントが居たからだって」


 伝えたつもりだった。ガントには、俺のこの地の秘書のような仕事をしてもらう予定である。いなくては困る。


「いいだろ?もちろん給金は弾むぞ」

「マジかー。いや、少し期待してたんすけど、お願いします」

「ガンちゃん、やったな!」


 兄妹は手を取り合って喜んでいる。


 どうやらこの二人は何でも屋みたいなことをして、この町で生活していたらしい。人のいい男である。お金の面で依頼を断ったりはしていなかったようで、いつも家計は火の車だったらしい。


「ああ、まぁ、雇ってもらえなくても、なんつうか、こいつを嫁に貰ってくれねえかな、とか思ってたんだ」

「ば、なにいってんの?馬鹿なの?ガンちゃん?」


 カンナは顔を真っ赤にしている。


「兄ぃは金も持っているしな。強い男だし、信頼もできる」

「ああ、いや、俺は嫁、もう3人いるぞ?」


 俺は本当のことを言った。後宮も作っているから別にいいのだが、さすがにほいほいと側室に向かえます、とは言えない。


「まじ?!まだ、兄ぃ若いじゃんか」

「いや、知ってるだろ。ニュースになったはずだぞ。俺、それの尻ぬぐいっちゅうか、そのためにここに来てんだし」

「――すまん、兄ぃ、忘れとった。どうしても教皇と兄ぃが一致しなくて」

「え?!」


 カンナが驚いたように声を上げる。

 まぁ、いいか。ガントの妹のカンナには知る権利があろう。


「す、すんません、兄ぃ!」

「ちょっと、ガンちゃん、今何言ったの?ライ先生と教皇が一致しない?」

「いや、そりゃ、聞き間違いだ、カンナ。強硬に兄ぃが一致しないんだ」

「は?」


 カンナが眉をひそめた。そして俺をちらりと見やる。


「ああ、ガントいいや。俺が説明するわ――だからそれやめろ」


 俺は頭を下げようとするガントを制止した。俺は改めて周りを評価する。人の気配はない。


「カンナさん、俺がイル教国の教皇ライト=サリスなのは秘密だから」

「は?何言ってんの?意味わかんないんですけど??」

「カンナ、事実だ。兄ぃはあの、神託の御子にして人族の英雄、樹海龍ラトーガを倒した男、エルフの女王の娘とアッティラ帝国の皇帝の娘と伝説の大魔王ジャロロと結婚した男、ライト=サリスだ」


 カンナは開いた口が塞がらないといった様子だ。


「お、しかし、このジャガイモめっちゃうまいな」

「そうでしょう、兄ぃ!こいつ料理マジ美味いんすよね。貧乏料理ですけど、ここまでうまく味を調整できるのは、こいつくらいなんすよね」

「いいねえ、嫁さんに欲しいねえ」

「いいんですか!?」

「ああ、いや、うちの嫁さんたち、みんなマジ怖いからなぁ」

「うちのカンナが殺されたりするんすか?」

「いや、俺が殺されかけるというか」

「じゃあ、いいじゃないですか!」

「よくねえよ」


 そんなふうに笑いながら飯を食っていると、机がどんっと叩かれた。


「あ、あの!ほんとに、あの、ライト=サリス、さまなの?!」

「ああ、あのライト=サリスだよ」

「すげえだろ?世界最強の男、世界の帝王となるって言われている男が今、お前のジャガイモ食ってんだぜ」

「いや、ホント、美味いな、コレ」


 俺がジャガイモを頬張りながら、酒をグビっと飲んだ。


「酒に合うなあ。あんまり酒好きじゃないけれど、これは合うわ」

「ちょ、ちょっと、ガンちゃん、教皇様に何食べさせてんのよ。やめてよ、もうなんかすっごい恥ずかしいじゃん。なんていうか貧乏人でもまごころで何とかなる、なんていってたけど、レベルが違うじゃんっ!」


 カンナの声は悲痛な叫び声に変わる。そしてハッとしたように正座に座りなおし、土下座。


「きょ、教皇様にはこのようなところに足を運んでいただいて、申し訳ありません。ぶ、無礼をしました」

「やめろ――」


 俺は静かに言った。


「俺はガントの兄貴分となった。弟分の家に来て飯を食いたかった。それだけだ」


 こういうのは最初の一回でいい。『偉い人で驚いた。わー、びっくり。すごい!』でいい。


 俺が有無を言わせない口調だったためか、カンナの喉がグっと鳴った。


「ほ、ほら、兄ぃもそう言ってくれてんだから、気にするなよ」

「で、でも――」


 だんだん面倒くさくなってきた。だが、ガントは好きな男であるので、手元に置いておきたいし、必要な人材である。


「分かった。カンナさん、ガントが心配だろうし、このライト=サリスがどういう男かわからないというのも困るだろう。うちで雇われるか?しかるべき嫁ぎ先を紹介してもいい」

「え!?」

「おお、本当か!兄ぃ!俺は、こいつのことが心配だったんだ!そうしてくれれば親代わりとしても安心だ」


 ちょうど後宮を取り仕切るエミーの雑事を、エミーが気にせずに頼める人材が欲しかった。まぁ、熱心に働く子であろう。


「う、うちみたいな、礼儀を知らない人間でも雇ってもらえるんですか!?」

「ああ、礼儀作法や一般常識なんかは学べばいい。まぁ、それに――」


 俺は後半の言葉を飲み込んだ。


「分かりますぜ。兄ぃ。俺に対する保険っすね」


 にやりとガントは笑った。その通りである。


「ああ。すまんな。信用していないわけではないが、あればもう一段深い付き合いができる」

「いいっすよ。このどこの馬の骨かわからぬ男が教皇猊下とこうしてお付き合いができるんだ。それくらいは当然のことで。これでなにがあっても裏切りませんぜ」


 ガントは酒をグビっと煽る。


「いつでも兄ぃのために死にますわ」

「死んでもらったら価値がねえから、生きてもらうけれどな」


 もちろん彼自身には言わないが、ガントはもう死ねない。


「よ、夜伽でもなんでも言ってください!一生懸命に働かせていただきますからッ」

「い、いや、そんなものは期待してないけれど――」

「いいじゃねえすか、兄ぃなら手を付けてもらっても構いませんぜ」


 お前はうちの嫁さんたちの怖さを知らないからそういうことを言うんだ。


 こうして、ガントの妹、カンナは俺の後宮で働くこととなった。



やぁ、嫁さんを増やさないといったな!あれは嘘だ!いやホントです!ごめん、わかりません!

なんだろうな、本筋はずれていないんですけど、キャラクターに変な動きをされるんですよね。


実はこの稿3回ぐらい書き直しています。なんていうか、突然、ああ、これは話が展開しないッって状況になるわけです。ということで、話が展開しやすいように動かしていったところ、こんな展開になりました。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


実のところ、先週末は心のデスマーチだったんですけど、なんとか生き抜きました。まだ忙しいですが、頑張って更新していきます。どうぞよろしくお願いします。

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