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時狂いの森と。第66話

 俺とジャロロは冒険者ギルドに赴いた。ジャロロの冒険者登録のためである。


「ロロ=セロー。魔導士じゃ」

「おい、あんたの妹さんか?」


 登録所で書類を出すと対応する職員が声をかけた。ジャロロは見た目美少女なので、姓が一緒であることから、そう考えたのだろう。


「妻じゃ」


 ジャロロがそう答えた瞬間、周囲の空気がざわついた。


「ロリコンかよ、あいつ」「真正の変態野郎だな」と、ジャロロの言葉を聞いて、途端に職員から変態を見るような目を向けられた。


 うむ、否定をすることができない。だが、俺は基本年上趣味の人間だ。忸怩たる思いを感じていると、その空気を感じ取ったようにジャロロが言った。


「わしはこう見えても100才を超えるハーフエルフでの。旦那様は16であるから、どちらかというと、わしの方が変態じゃ」

「そ、そうでありますか――いや、失礼をしました。よく見るとお似合いの夫婦ですね」


 という窓口の人は立派だ。後ろの職員たちは一様に俯いて笑いをこらえている。


 俺の評価によると、俺は結局、年上ロリコン趣味の変態野郎に変わっただけである。ついでにジャロロは若い燕を囲った熟年美少女というわけのわからない評価だ。そういう意味では確かにお似合いだ。


「はっはっは、そうであろう。お似合いであろう!」


 ジャロロはご満悦である。俺の腕をとると、「お前様よ、わしらはお似合いの夫婦じゃ」ともう一回つぶやいた。


 ★


 あらためて、俺たちはシルフの森の前に立った。サスティラの森林レベルにはなく、確かに大樹海レベルの広さを持っている。ただしその質は違う。瘴気の吹き溜まりであった大樹海にくらべ、こちらは瘴気ではなく聖気が中心から湧き出ている。


「中心にあるのがここからでも一本だけ見上げることができるほどの大樹、聖樹コンプリメントスじゃ。奇妙なことに聖気を出し続けておる。中心にいけば妖精らもその聖気で実体化するというがのう。だが未だ中心までたどり着いた者がおらぬ」


 なるほど。


 会えない賢人。賢人にして、明確な人以外の存在。それが妖精王マクダウェル。


「聖気を出しているのに魔物が出るというのはどういう理屈なんだろうな?」


 シルフの森には魔物が出る。その産出量は中々のものであり、浅い地域であれば人々はその天然資源(まもの)の恩恵を受ける。したがって、シルフの森の(きわ)にあたるところでは、この森林都市シルフィーユと同じような都市がたくさんある。


「聖気も瘴気と対を成すものじゃろうからな。ただ人にとって害を与えるものを瘴気、与えないものを聖気と呼ぶのじゃろ」

「ほぅ」

「この森には毒系の生物や植物などがいない。空気が澱んでおらず、森林浴に適しておる。まぁ、聖気であろうよ」


 なるほど、と思う。大樹海には毒系腐敗系が確かに多い。


「町の人たちの妖精王マクダウェルに対する評価は『畏れ』。明確な天罰めいたことはないのだけれど、手が出せない相手であることは確かなようだね。魔国の樹海龍は『恐れ』だったけれどね」

「会ったことのない相手じゃ。気を引き締めていかねばならんが、無駄に畏れずにまいろうかの、お前様よ」


 俺は「ああ」と返事をして森への一歩を踏み出した。


 森とそうでない場所の境界をまたぐ――。


「見られておるの」

「ああ、今俺も感じたところ。直接というよりは魔法経由か――」


 視線。森の際に至るまであらゆる存在を監視する視線がこの森にはある。むやみに害を及ぼすようなことはしないが、だが、確かにすべてを監視していそうだ。


 挨拶しておくか。


「イル教、教皇のライト=サリスだ。マクダウェル妖精王に会いに来たんだけど」


 俺は独り言のようにつぶやいた。


 途端に森がざわざわし始める。何もないが、気配が伝わってくる。はっきりと。


「おもしろいの。我が名は、ジャロロ=ジャロ。我らの結婚に異議を唱えるマクダウェルに話を聞きに来てやったが、姿を現さぬのか?」


 俺は周囲を評価する。丁寧に防護が張られていて、すべてを見通すことができない。


「見通せないが――見えるものがある!!いかん、出るぞ、ジャロロ!」


 俺はジャロロの手を引いて、森の境界を飛び越えた――。


「なんじゃ、お前様――」

「時狂いの森だよ。今の一瞬、いや、俺が名乗った瞬間から時が急進し始めていた」


 俺はジャロロの手を引いて、拠点の魔法陣をくぐる。俺の推測が当たっているとしたら、教皇庁は今頃パニックの一歩手前だ。


「ライト!」「猊下!」


 プララとエミーが駆け寄ってくる。


「なんじゃ、お前らは――」

「ジャロロ様!2週間も連絡がないことを心配してなぜおかしいのです!転移の短剣も反応しませんし、通信機すら届かない――」

「これが時狂いの森、か――」


 俺は居並ぶプララとエミー、師匠とリャララ様にイル様に説明をした。時狂いの森は、入ったものの時を狂わせる森だということ、を。


「俺達がシルフの森に入っていたのはほんの数分。だが、外の世界では2週間がたっていた」

「なんじゃと――?あれから2週間がたっているじゃと?」


 担いではおるまいな、という言葉をジャロロは飲み込んだようだった。周りの面々が眉をひそめているからだ。


「この2週間、2人が生きているのは分かりました。私達にかけられた状態固定が解けてなかったからです。でもそれ以外は全く分からず――」


 プララが言葉を詰まらせる。


「ライトもジャロロもマクダウェルに見事にやられたね!!ああ、それから、ライトに弟が産まれたよ!安産だった。よかったね!」


 師匠。それは大問題だ。きっとレティがすごく怒っている。


 だが、今はことの説明が先である。


「俺が名乗ったら時間の進みが早くなりはじめた。つまり、あの妖精王マクダウェルは森の中に限って自在に時を狂わせることができる。それ以外には害はなさそうだが――」

「害は大有りじゃぞ」


 ジャロロが渋い顔をして、俺の言葉を遮った。


「俺たちはピンピンしているじゃないか」

「お前様は阿呆か。数千年の時を狂わせられたらどうする。わしらは数日でも、外の世界の人間には数千年。仮にお前様のスキルで全員生きていたとしよう。だが、お前様はいないなどという事態が千年続くことに、残されたものはたまったものではない――」

「耐えられません!」


 プララが叫ぶ。


「ジャロロ様、もはやあの森の害悪は決しました。我が魔力(ダークマニフェスト)でもって葬り去らねばなりません――」

「させぬわ。馬鹿者が。そなたの危険思想は何とかならぬか」


 大陸の5%を消滅させたジャロロに言われたくはないだろうが、プララの考えは俺に近い。子供のころから一緒にいた影響だろうか。俺が言うのもなんだが、話が早いというか、短気である。できる力の範囲で、最大限にできることをしたい、というか。


「わしは放置を推奨する。別にこちらに何かしてくるわけでもなかろう。下らぬことでまさに時を消費させられるくらいならば、無視をしようではないか」

「私もジャロロ様の案に賛成する。あの森は樹海龍と同じ扱いでよいわ」


 リャララ様がジャロロに同調する。手を出さなければ被害がないのなら、手を出さなければいいという至極まっとうな意見だ。


「すべてを思いのままにコントロールしたいというのは思い上がりか――」

「そうですね、ライト、それは思い上がりかもしれません。ですが――」


 ずっと考え事をしていたイル様がゆっくりと口を開いた。


「――それとこれとは話が別です。あのシルフの森が我が教団の至高の存在に喧嘩を売ったことは事実です。プララかジャロロ様の魔法で消滅させるレベルの話」

「イル殿も――」

「わかっております。ジャロロ様、あの魔法(ダークマニフェスト)は最後の手段。マクダウェル殿が森から出てこないというのならば――」


 イル様はドン、っと机をたたいた。


「周りを徹底的に削いで行きましょう。手始めにオゴタ=ハンの各部族を切り崩していきます。とくに西部部族はシルフの森の恩恵も受けていないはず。切り崩しますよ」


 地理的にシルフの森の恩恵を受けている部族は経済力があり、力が強い。ハンと言われる王を輩出することも多く、東部部族が5、中部部族が3、北部、南部、西部の各部族が合わせて2といった輩出比である。西部に限っては150年以上出していない。

 東部部族は切り崩すことは難しそうだが、西部は離反させやすいだろう。


「教皇猊下には、ライト=サリスの名のもとに布教活動をしていただきます」


 布教か。ちょうどいい。いろいろ考えていたことをやってみようじゃないか。


「少々、ごつい効果をもたらしていいですかね」

「全力でもたらしてください。オゴタ西部地域が神の国と言われるレベルで結構です。そうですね、今回の効果を神意発現とでも称しましょうか。」


 イル様は攻撃的だった。誰が守りの教主だ。


「イル!発想が若いね!!」

「プラローロ様、ふふふ、肉体が若い、というのは素晴らしいことです。チャレンジしたくなります」


 イル様はベルを鳴らした。すぐさま執事長が飛び込んでくる。


「枢機卿会議、大司祭会、に通達。教皇猊下による神意が発現される、と」

「神意、発現――はっ!」

「場所はオゴタ=ハン!期日は一月後。理由を問うならば破門である、と告げよ。なぜならば、それこそが神意だからである」


 執事長は青ざめて、そして走った。各枢機卿、それから各主要教会には通信機がすでに置かれている。手紙も遅れるし、音声通話も可能。世界中の情報ネットワークの中でもっとも強固なのが、イル教国のネットワークである。


「さて、お手並み拝見としようかね!」


 師匠が本当にうれしそうに言うので、いくつか宿題を師匠に出した。師匠はその量にさすがに言葉を詰まらせていたが、了承させた。他人事じゃないんだぜ?


 シルフの森もしかりであるが、俺はそれ以上にこの世界に対してやりたいことができている。それを遠慮会釈なく実験する。今回の神意発現とは、そういう俺の意志の表れである、と考えている。


 全力でぶちかます。


 と、その前に。


 とりあえず、生まれた弟の顔を見るために、俺はゼナの街に召喚された。父さんに頼みたいこともあったのでちょうどよかった。


 ただ、とりあえず、目の前にいる俺を召喚した人物、レティがまさに怒髪天状態だったので、俺はすごく怖かった。

仕事がかなり切羽詰まっていたり、低気圧のおかげで死ぬほど頭が痛かったり、いろいろ世の中には苦しいことがありますね。


ということで、ここまで読んでいただいてありがとうございます。

評価とブクマ、ありがとうございます。少しずつ、前に進めていてありがたいです。

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