朋有り、遠方より来たる。亦た楽しからずや。第65話
「教皇猊下におかれましては――」
ジャリリとシュシュトリが着任の挨拶をしている。俺が就任して急ピッチで作られた謁見の間である。外国からの賓客を迎えるのにも礼儀と格がある。
「大儀である。ジャリリ補佐官殿、シュシュトリ補佐官殿、長旅ご苦労であった。休息室を用意してある。そこにてゆっくり体を休められよ。よいかな?」
「は、ありがたき幸せにて」
「では、これまでとする。みな、下がってよい」
俺は謁見を打ち切った。両国の外交官や官僚たちは分かったような顔をして下がっていく。残されるのはジャリリとシュシュトリ。当然、イル教国側も魔国側も今の儀礼上の謁見であることもわかっているし、これから俺達が旧交を温めることもわかっている。
だが、国と国の付き合いである以上、儀礼的茶番は必要だ。
「さ、先輩方、どうぞこちらへ」
俺は教皇の座から立ち上がり、奥の部屋に通した。
「お、すまない、猊下」
「猊下ぁ、お菓子ある?」
2人とも途端に言葉が砕ける。俺はありますよ、と言いながら迎え入れた。
「お二人とも久しぶりです!」
プララが笑顔で迎える。横にはやや緊張気味のエミーと、不敵な笑みを浮かべるジャロロ=ジャロが座っている。
「俺の嫁さんたちだ。アッティラ帝国第二皇女エミーと伝説の大魔王ジャロロ=ジャロだ」
俺が紹介する。エミーは立って緊張した面持ちで一礼、ジャロロは軽く手をあげた。
「魔国外交補佐官、ジャリリ=ジャロであります。閣下にお会いできたことは我がジャロ家の誉れと――」
「ジャリリよ。いささか、運命を感じるの。だがな、わしは旦那様の妻じゃ。それも3番目の妻じゃ。序列を間違えるでない」
そう、分からないでもないが、エミーに先に挨拶をしなければ彼女にも立場がある。
「は、失礼しました。エミー様、魔国外交補佐官ジャリリ=ジャロであります」
「同じくシュシュトリです」
「丁寧なごあいさつをありがとうございます。エミー=アッティラです」
俺は苦笑いをしながら席に着いた。メイドのイクナさんが素早くお茶を入れる。
「もう、堅苦しい挨拶をやめましょうよ」
「あ、ああ。でもですね、ライト君、今、俺の目の前にジャロロ様がいるんですよ、緊張をするなという方が――」
「無理よ。全魔族の憧れにして、永遠のヒーローなんだから」
ジャロロも苦笑して、「はよう座れ」といった。
「二人ともよく来てくれました!シュシュもジャリリさんも宿泊はどちらに?大使館?」
「やめてよ、プララ。冗談じゃないわよ。なんでそんな堅苦しいところに――」
「あら、よかった!ジャリリさんはともかく、シュシュは後宮の離れに部屋が用意してあるから、そっちで暮らしたら?後宮差配のエミーも快諾してましたし――」
快諾するしかなかったという感じだろうか。
エミーは皇女であるが、普通の人族である。ラミアのシュシュトリは怖く思えるに違いない。
「エミー、大丈夫。シュシュトリはこう見えて樹海龍ラトーガにボッコボコにされて生き残った唯一の人だからな」
「ライトくん、その言い方では皇女様は余計怖がると思うわ――」
「いえ、そんな、シュシュトリさんごめんなさい。ほんとはとっても怖いんですけど、ジャロロ様にも慣れましたから大丈夫ですよ」
エミーは無理に笑顔を作った。こういうところは、本当にかわいいと思う。シュシュトリももろもろを飲み込んで「ありがとうございます、お世話になります」と言った。
「ジャリリもリャララ様と師匠の別宅新居があるから、そこの一部屋を――」
「なんで、私にはそんな怖いところを紹介するんですか!」
「ふふふ、我が直系にして弟弟子よ、プラローロには会話が筒抜けであるぞ。お主は勇気のある男よ」
喉の奥でヒッと音が鳴る。
「まぁ、何れわしが稽古をつけてやろう。旦那様の学友だからのう、特別じゃ――」
「いいのですか!ありがとうございます――」
ジャリリはコロッと態度を変えて喜んだ。ジャロロの直系と名乗ってはいるが、実は直系でないことはジャロ家の人間なら誰でも知っている。異父弟の傍流でしかないのだから。それゆえにジャロロとの接点をジャロ家の人間が持つことは一族の悲願でもある。
「ジャロロ様、私も――」
「お主はだめじゃ。体を大事にせい――お子が一番じゃ」
ジャロロの言葉にシュシュトリが反応した。
「え?なに!?プララ、妊娠してるの?」
「してますよ。発表もしてますから――魔国にだって報告が上がっているはずです」
「はい、入ってます」
ジャリリはすまし顔だ。
なんでも王族にして禁忌の姫君と呼ばれるようになったプララの妊娠はもともと大きなニュースであり、相手は教皇にして樹海龍ラトーガを倒した英雄ライト=サリスときたら大きく取り上げられないわけがなかった。
シュシュトリに入っていないのは住んでいた場所の問題であろう。
「ラミア社会は卵生だから、妊娠とかに社会があまり共感できないのよね。でも、おめでとう、プララ、それからライト」
「ありがとう」
積もる話はディナーを食べながら続けられた。肉を焼いた話、修行の話、学校運営の話、俺たちが話す話は、なぜかテムジンが生きていたころの話ばかりだ。数カ月しか、それはなかったはずなのに、俺たちはテムジンのいない数年の話をあまりしたがらなかった。その理由は分かっているけれど、誰も口にしない。
「なるほどのう。狂乱熊を素手で殺したとはのう。猛者よの」
「ええ、テムジンは打ち抜いていたんですよ。あの分厚い胸を――」
ジャロロも話を聞きながら、上手に雰囲気に合わせてくれている。
「我々のここにいない友に――」
最後はジャリリが音頭を取って杯を掲げて献杯をする。ここにいたらいいのに、と思う。俺はあんな悲劇は二度とごめんだ。俺は出会った頃にプララに言われた言葉を思い出す。
『ライトさんはこの世界を良くするためにいる』
肝に銘じよう。テムジンのためにも、プララのためにも。
――生まれてくる子のためにも。
会の終わりにプララが不思議そうな顔で聞いた。
「ライトが神託の御子であったことを2人とも聞かないのですね」
「樹海龍ラトーガを倒す奴が普通の人間でなくてよかったと思っているよ。4人の勇者の1人として――」
どうやら魔国のある程度のラインの人は、むしろホッとしたらしい。『当たり前であろう』と。『そりゃそうだろう』と。だから不思議でも意外でもない、と。
「それより教皇ライト=サリスと4人の勇者で私だけ『胸の大きい囚われ役のシュシュトリ』って何よ。あの絵本、見るたびに悲しくなるんだけど。私が一番怖くて大変で苦しかったのに」
「え?私、『知恵と勇気のジャリリ』に全く文句はありません」
そりゃそうだろ、とみんなからジャリリに突っ込みが入って、また笑った。
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俺が部屋を訪れると、すでに身支度を終えており、下着に薄衣をまとっただけのエミーが待っていた。
「へえ、とっても奇麗だな」
俺はソファーに腰を掛けて、エミーを手招きをする。エミーは炭酸水の入った冷えたコップを目の前のテーブルにおいて俺の隣に腰を掛けた。
エミーは普段本当におとなしい服装をしている。本人が容姿にコンプレックスをもっているために、あまり派手に着飾ったりはしない。
だが、俺といるときは別だ。
俺がエミーの前世の日本人然とした容姿がとても好きであることは伝えてある。最初は戸惑っていた彼女も、最近は積極的に服装のアプローチを変えてきている。
俺は彼女の肩を左手で抱いた。エミーはゆっくりと体重を俺の肩にかけてくる。
「みんな、いい人ですね――」
「ああ、あの中に人族は俺達しかいなかったけれど、最後には怖さを感じなかっただろう」
「ええ。みな同じように苦しみや悲しみを抱えているのですね。それは人族に限ったことではなく、皆同じ。それが分かったら、私、少し怖くなくなりました」
でんでんむしのかなしみ、だと思う。新美南吉がかいた絵本で、俺は前世ではあの本を児童に読み聞かせをするのが好きだった。でんでんむしが自分の殻に悲しみが詰まっていることに絶望しかけるが、結局どのでんでんむしにもみんな悲しみが詰まっているので、心が軽くなる、という話。
「俺は魔族の友人にいつも言っていた。飯を食って恋バナをしたらそれは友達だってね」
「では、一緒にご飯を食べて、一緒にソファーに腰をかけて、左手で肩を抱き、右手で太ももを触っているとしたらそれは――」
「恋人か夫婦、だろ?俺達は、恋人で夫婦、だけれどな」
「ええ」
頬を染めるエミーの腿に手を這わせ、薄くて面積の小さい布切れの間に指を滑り込ませる。しっとりとした間に指を差し込むと小さく声を出してエミーが仰け反った。
そしていつものように俺自身にエミーの手が伸びる。布地の中に手を差し込まれて、優しく包むように先端を軽くマッサージされる。俺の口からも息が漏れる。
「また、俺の負け」
エミーとしているキス我慢選手権はいつも俺の負けになる。俺はかぶさるようにエミーに抱き着くと左手でしっかりと肩をホールドし荒々しく唇を奪い、舌を差し入れる。
あふぅ、と甘い吐息が漏れるのを見て俺は満足する。
キス我慢選手権を負けるのは楽しい。そもそも俺が勝てようのない戦いだ。負けることが礼儀であるとすら俺は思っている。
俺は彼女を抱き上げると、天蓋付きのベッドにゆっくりと寝かした。
また、キス。
「勝ってうれしいはないちもんめ――」
前に花いちもんめの歌を歌っていたら、エミーも気に入ったらしく、覚えていつも歌っている。
エミーの薄衣をとり、面積の少ない布地も外した。もちろん下着は前世の方が優れているが、俺は無茶を言ってフロントホックの開発をお願いした。興奮するのである。外しやすいのである。
彼女の全身を右手でマッサージしながら、彼女の口に左手の中指を差し込むと、彼女は夢中になってそれを舐めた。
ゾクゾクとした刺激が中指を伝わって、俺自身に血液となって注ぎ込まれる。
「うん、じゃ、入れるね――」
俺はたまらなくなって、彼女の足を開いて、そこに割入り――
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しずかに、寝ていたら起こさないように。俺は0時10分前に教皇の寝室にたどり着いた。部屋に滑り込むと、プララが椅子に座って待っていた。
――といっても、彼女はまだ安定期にないので、薄衣に下着一枚ということもなく、ちゃんとナイトウェアを着込んでいた。しかし、あれだけダボっとした福なのに、めっちゃ大きな胸が強調されていて、すごく不思議。
「楽しかった、ですか?」
「いや、ああ、そうだな――」
俺はいつもここで返事に困る。難しすぎるやろ。
「私も安定期に入ったらたくさん可愛がってくださいね?」
「ああ、もちろん――ただ、お腹の子には優しく――ね」
助かった。今、オレ、助かった。うちのプララさんは嫉妬深いが、俺を追い詰めすぎないいい女である。
「じゃ、第一回会議を行います――」
なぜか一方的に宣言された。
なんの会議かと聞くと、「第一回赤ちゃんの名前決め会議ですよ」と帰ってきた。
それは楽しそうだと思う。
そうして、夜遅くまで第一回赤ちゃんの名前決め会議」は続けられた。
まぁ、これも、旦那の大切な仕事である。
読んでいただきありがとうございます。
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