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新たなる旅立ち。第62話

「じゃぁ、今度は母さんが出産間近になったら呼び出してくれよ」


 母さんは臨月なので、いつ生まれてもおかしくはない状況だ。弟の誕生くらいは立ち会いたい。


 ――ちなみに俺が評価したところによると男、と出ている。健康そのものなのでホッとした。


 俺とジャロロは一泊した後、転移の短剣で呼び戻されることになった。俺の分はともかく、ジャロロの分は、師匠が逃亡除けに用意しあったものらしい。


 まぁ、もっともジャロロに限っては師匠が呼び出しのトリガーで、魔力も師匠供給なので同意なく強引に運ばれる。ジャロロレベルになれば抵抗も可能であろうが、今回は抵抗する気もなくなっているので、大丈夫である。


「昨日はさすがにお楽しみじゃなかったようね」

「いや、隣がお主で、反対側が義祖父殿達であろう。息を殺しているのも感じられてな」


 ジャロロはそりゃ無理だ、という顔でため息をついた。


「おかしいわ。その動じない感じ――何かしてもらっているわね!」

「一晩中抱きしめられていただけじゃ」

「――ムカつく!」


 これでも妻じゃからのう、と嘯くジャロロ。彼女とレティとの相性がプララとは違った意味でよいようだ。


「お兄ちゃん、ありがとうね、助かったわ。あと、領内の整備よろしく」

「まかせとけ。しっかり富ましてやるから、安心してゆっくりしろよ」


 レティにはとにかく健やかに子供を育ててほしい。残念ながら母親と同じく、評価のできない相手である。様子が分からない。


「じゃぁ、とにもかくにも――また」


 俺達は聖都イルスに呼び出しを受けた。


 ★


 いつものメンツ――。いや、何気にこの面子がそろうのは初めてか。


「お待ちしておりましたぞ、ジャロロ様」

「ひさしいな、リャララ」


 ここはかつての上司と部下である。リャララ様の喜色が凄い。


 聖都イルスに呼び出しを受けたのは、教主イル=サン27世の部屋である。


 もちろん部屋の主であるイル様はいる。あとはプラローロ様、現在内縁の夫であるリャララ様、俺の妻のプララとエミーがいた。この中では、特にエミーのひきつらせた顔が凄い。


「ふふ、エミー殿、父上はお元気であられたぞ」

「ひゃっはい、父は、ジャロロ様になんと……」

「友誼を結ぶことができた。ありがたいことじゃ」

「ほら、言ったじゃないか!キミはいつもちょっと考えすぎなんだよ」


 プラローロは嬉しそうに言った。ジャロロの表情から暗いところがなくなったことを彼女なりに理解しているからだろう。


 しかし、俺には乗り越えねばならない問題がある。目の前で不機嫌を隠そうとしない皇妃のプララさんである。


「あら、ずいぶん、ジャロロ様と仲が良くなったようで、よろしいことですね。猊下」

「プララ、仲良くなることは良いことではあるだろう?」

「ええ、ですからよろしいことと――言っているのですけど」


 ドンっと机が叩かれ、瞬間的に場が冷える。現代日本ではモラハラとか言われかねない事案ではあるけれど、今のプララは妊娠初期のとても不安定な時期である。ここは旦那としてドンっと構えたところを見せてやらなければならない。


 俺は素早く彼女(プララ)のとなりに腰を掛けると背中に手を回した。


「まぁまぁ、そういえば、寒くなってきたけれど、体を冷やしてないか?」

「冷やしてません――けど」

「良かった、大事にしてくれよ。俺とプララの子供なんだから」


 ゆっくりと腰のあたりをさする。


「ええ、大事にしてます――」


 プララの張り詰めていた心が解けていくのを感じる。


「のう、プララ妃よ。そんな心配をせんでもいいじゃろ。わしはお主とエミー殿の後でいいのだ。お主が序列でも寵愛でも一番であると思うぞ、のう、エミー殿」

「あ、ええ、はい。ジャロロ様のいう通りですね」

「もう、エミーもジャロロ様も――」


 そう言って顔を真っ赤にして下を向く。2人の嫁に助けられた。


「ジャロロ様、アッティラ新帝国は如何でしたか?」

「イル殿、人族の寿命を考えさせられたわ。ライト殿のような特殊例はともかくとしてだがな」

「そうですね、人族は魔族やエルフに比べれば命は短いです。それゆえに新しい気風も生まれるし、変化をすることができる――ジャロロ様がご自身への怨嗟が全くと言っていいほどないと感じたように」

「ああ、その通りだ――」


 そんな話が世間話の中に、一つの便りが届いたことをイル様が伝えた。


「そういえば、魔国から新しい外交補佐官が着任するんですよ」

「そうなんですか、お知合いですか?」

「シュシュトリちゃんとジャリリくんですよ」


 プララの顔がぱぁっと輝く。


「あの二人が!うれしいです!」

「ああ、うれしいな――」

「ご友人ですか?」


 エミーが聞いてくる。


「そうですね、私たちにとって魔国で最も濃密な時間を過ごした人達、です。ジャリリはジャロロ様の直系ですけど……」

「わしは、実は先日まで未通女(おぼこ)でな。まぁ異父弟の家系を直系と言えば、そこしか系統が残っていないから、そういっても間違いではないんだが……」


 俺は固まる。変な空気にしてはいけない。せっかくの和らいだ空気だ。


「そうでしたか――でもジャリリさんは本当にジャロロ様のことを慕っていましたので、うれしいと思いますよ」


 セーフ。


「慕われるのも、敬われるのも、めんどくさい――」

「そうだね!魔国の外交はどうせここと仲良くしろってことだろうから、仲良くする意味もかねて、久しぶりに修行の日々と行こうかな!それなら楽しく付き合えるだろ?ジャロロ」

「姉弟子としては弟弟子たちを地獄の訓練につき落とすのは、少々気が引けるが――まぁ、魔国にも少しは貢献してやらんとな」


 俺はちなみにもう修行としては物理は超えている。今、師匠としているのは、瞑想を中心とした修行だ。


 しかしジャリリやシュシュトリが来るというのは楽しいものだ。


 ★


 数日が立った。俺はフリーの立場を与えられているので、少し思い立って俺の周りの諸問題を少しずつ解決していこうと考えていた。


「ああ、バファ=ローズ枢機卿」


 獣人族のチャガタ国の枢機卿ローズに声をかけた。ワギュウと同じ牛魔系の獣人である。こちらに枢機卿会議で来ていたので、1人になる時を狙って話しかけた。


 獣人族は魔族に分類されるが、チャガタ国は魔国から千数百年前に独立した勢力である。人族の国ほどの多様性はなく、魔国ほど力で押せるほどでもない。エルフのように長命と知性で勝負もしていない。だからといって特別劣っているわけでもない。


「教皇猊下、この度は我が国の――」

「いやいや、そんなことは仕方ないことだと俺は思うよ」


 5賢人の1人、妖精王マクダウェルは変わり者だ。基本シルフの森の奥深くで実体化するほどに力を蓄えた妖精らとともに過ごす。ガンダヴィラ大陸というキエサル大陸の北方に位置し、寒帯に属する大陸の盟主として東のチャガタ国、西のオゴタ=ハン国をその庇護の下に置いている。


 ただし、マクダウェルは引きこもりである。シルフの森からは出てこない。かといって東西の国とは明確な力の差があるらしいので、両国がシルフの森に朝貢をやめるとか、反乱をするといったことはありえないという。


 そんなマクダウェルに連名での抗議を迫られて断ることができないのは想像に難くない。


「は、寛大なる御心に感謝を申し上げます」

「まぁ、それはいいんだ。ただ、精霊王マクダウェルには一度会いに行きたいんだが――伝手はあるか?」

「マクダウェル様にですか――正直、マクダウェル様には私もお会いしたことがなく、プラローロ様ならば……」


 嫁さんのことを話に行くのに、師匠に出てもらうというのもなんだよな、という思いがある。


「あぁ、じゃあ、獣王殿に『どうやら教皇は単身でマクダウェル様に会いに行くようだ』という情報を流しておいてくれ。それで伝わるだろう」

「猊下――流しておいてくれ、の下りもお伝えしてよろしいでしょうか」


 ローズ卿は計略を好まないのだろう。


「ああ、もちろん。基本、俺のスタンドアローンの話なので、卿に迷惑をかけたくはないのでな。伝える伝えない――そうよな。うん、邪魔する邪魔しないまで含めて、判断は獣王殿にさせればいい」

「は――」


 ローズ卿は、一礼をして去っていく。邪魔しようが何しようが勝手だが、突き進むことができる相手にどこまで抵抗するのか、それを考えるのは相手だ。


 俺はそのまま妻たち3人が茶話会をしているラウンジに向かった。


「ちょっと数日、席を外すわ」

「あら、何かありますか?」


 プララが探るような目をしてくる。


「ちょっとガンダヴィラ大陸まで行ってくる。どうも少し誤解があるようなのでね」

「マクダウェルか。曲者ぞ」

「マクダウェル妖精王って太古の昔からいらっしゃるあの、マクダウェル妖精王ですか?本当にいらっしゃるんですね」


 ジャロロが少し嫌な顔を、エミーは疑問符のついた顔で聞く。


「伝説の魔王のジャロロ様が生きている世界ですから」

「そうですね、プララ。人を若返らせることができる人が目の前にいるのに、妖精王がいないってこともありませんね」

「お前様よ、気を付けなされよ。わしがついていっても足手まといにしかならぬ相手であるしな」

「ジャロロ様が?足手まとい?」


 プララが怪訝そうな顔をする。


「ああ、プララ妃。基本はシルフの森の結界で生きているような奴じゃからな。ただの魔法では相手になるまいて。そうじゃな。手段を問わず、ならば、何とかなるやもしれぬ。シルフの森ごと、例の魔法で包んでしまえば、やれるだろうよ」


 ん?どこかで聞いたような話だ。


「じゃが、お前様はそれを望んでいまい?」

「ああ。友好的に、俺とプララ、エミー、そしてジャロロとの結婚を認めさせておきたいだけだからな。相手方の安全保障を脅かすつもりはない、と宣言しておきたいだけだ」


 太古から生きているような者に恨みを買っておくのはよくない。


「ふふ、お前様よ。わしとエミー殿は、お前様と打算で結婚し、愛をはぐくもうと考えている身。マクダウェル妖精王には率直に経緯を話せばいい」

「ああ。やらんぞ、と話してこればいいんだな」


 少し照れた顔をする二人。


「プララとのことは幼馴染と恋愛して結婚した。めぐりあわせのことはプラローロ様に聞いてくれ、で押し通したい」

「そうですね、そうなりますよねえ」


 そう言ったプララはなぜかドヤ顔だ。ジャロロは少し苦笑い。エミーの顔はすまし顔だ。


 ところで、エミーとジャロロは仲がいい。エミーにとって当初はジャロロとの付き合いは苦しいのではないかと思われたが、ジャロロの元引きこもりらしいのんびりした性格に怖がっても仕方ないという思いが現れたようだ。寝室も近いことがあって急速に仲が良くなっていった。


「2人ともプララを頼む。まだ安定期にも入ってないからな――」


 そうしてお姉さんズにプララを任せ、俺はガンダヴィラ大陸に向かった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

少し設定回ですが、次回からはガンダヴィラ大陸編です。

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