酒を飲んで暴れて後悔する。第63話
プララと一緒に購入し、学生時代に使い込んだアイテム袋120㎏を肩に引っ掛けて、俺はオゴタ=ハン国の西岸に1人降り立った。真っ暗な闇の中である。
腰には愛刀、物干し竿。普通の刀よりも剛性と粘性の高いオリハルコンをベースに作られたドワーフ大公エンリケの大業物である。
「じゃぁ、ご武運を――」
サンの丘と言われる聖地扱いされる島に魔道船で降ろされて、そこから小舟で乗り付けた。まぁ、別に何か刺激をしたいわけではないので、俺一人で十分だし、俺一人が安全面でもよい。もっとも、戻る分ならば転移の短刀で召喚されればいい話であり、通信機があれば、いろいろな情勢がすぐにわかる。
アイテム袋の中には転移魔法陣がいれてあり、もう一方の魔法陣は聖都に置かれている。今回の目的はマクダウェルに会えないまでも攻略拠点づくりというのが主な目的だ。それというのも師匠とマクダウェルについて話したら「私?あったことないよ。シルフの森ってなんか難しいんだよね」と返ってきた。どうも俺はマクダウェル妖精王に会うために、シルフの森の攻略をしなくてはならないようだ。
闇に紛れて近くの港町に入る。門番2人はさほど注意深い人間ではないようで、多少の陽動をしたものの、比較的簡単に入ることができた。
酒場に入る。この世界での成人年齢に達しており、アルコールは飲める年になっているが、実のところアルコールは苦手だ。軽く一杯程度なら飲めないことはないが、無理に飲むものでもない。
「エールをミルクで割ってくれ」
「お、兄ちゃん、ガタイのわりに幼えんだな」
いいじゃないか、と思っても絡んでくる奴はやっぱり絡んでくる。俺は絡んできた男をみる。剥げていて、体は俺よりも大きい。腕の筋肉のつき方や拳のタコからみるに格闘系か。評価する。特技は体当たりからのマウント――ってめっちゃ単純。
「ああ、酒は嫌いなんだ。ついでにハゲも嫌いでね」
「なんだとっ!」
男が俺に向かって拳を振るう。俺はその拳を軽く受け止めた。
「すぐ暴力を振るう人間も嫌いなんだ――」
どの口が、と言われるが、ほんと嫌い。短絡的に暴力に訴える奴!そう思いながら、俺は男の拳を合気道の小手返しの要領でひねり倒す。まぁ、小手返しほど筋力が関係のない技というのも珍しい。男はころん、と酒場の床に転がされる。
「お、ガント、転がされてざまあねえなあ!ぎゃはは」
酒場の仲間に笑われて、ガントという男は顔を真っ赤にして立ち上がった。ゆらり、と構えをとった。とても低い。まるで野獣が獲物にとびかかる前のような、体勢。
そして2,3回息を吐くと、体を低くして俺の腰あたりに向かってタックルを仕掛けてくる。なかなかに速い。
だが。
「なんで息を吐くんだ、バカがッ」
俺はガントの呼吸に合わせて、タイミングを計っていた。俺の腰をめがけて突っ込んでくる相手に右ひざを突き出す。正確に顎を跳ね上げること狙ったものだ。
ゴウンッとクリーンヒットする。タイミングもスピードも位置も正確に測られているのだから、当たらない方がおかしい。「げあぁッ」と鈍い声がする。
「いけガント、ここからだぞ!!」
周りが声をかける。そう、ガントと言われた男はそこからだった。明らかにクリーンヒットしているにもかかわらず、倒れない。そればかりか、俺に組み付いて倒そうとする。
ナイス根性。
だが、こんなことは戦場の組み打ちなら日常茶飯事だ。俺はカチあげられた顎の下に腕を入れ、右手は組み付いてきた腕をとらえて、自分の体を横に捌いた。そのまま足を差し入れて、体落としの要領で床にたたきつける。
もう一回起き上がってこられてもめんどくさいので、立ち上がると同時にガンツの咽頭へ足刀による打撃を加える。
うん、撃沈。対して強い相手じゃない。
「さて、まだやるかい?」
「い、いや、無理だ、ガントよりも強い奴はこの酒場にはおらん。あんた、ホントにつええな……他部族か?」
「いや、流れのもんだ。今日の宿屋を、探している」
俺は銅貨を10枚ほどじゃらりとして見せた。
「ああ、女はいるか?」
「いや、怖い妻がいる身でね――素泊まりで」
俺は性欲が強いが、さすがにあの三人以外とするつもりはない。正直、どこから浮気がばれるかわからない。ぶるるっと体が震える。
「マスター、ならここに止めてやればいいじゃねえか」
「泊っていくかい?」
酒場のマスターがじろりとこちらを見た。
「一泊頼むよ。朝食も欲しい」
「銅貨13枚だ」
「ふふん、相場よりも高いがまあいい。マスター、銀貨2枚で宿泊と、みんなの酒代に足りるかい?」
俺は銀貨を放り投げた。マスターは目を剥いてその銀貨に手を伸ばした。
「ああ、十分だ。いいのかい?」
「騒がしたお詫びだ」
「気前のいいことだ。この馬鹿どもは碌に金も持っていねえからな。上等なお客は大歓迎だ。おおい、馬鹿ども、このご大人が酒奢ってくれるとよ。しっかり飲めよ!!」
うぉぉぉい、と盛り上がった声がして、宴会が始まった。俺はガントとかいう男を治療してやって、起き上がらせた。
目覚めた瞬間、また壊れたロボットのように襲い掛かってきたので、酒を前に突き出して黙らせた。仕方がないので、俺も少し酒に付き合うことにした。
ああ、まずい。
そうしてバカ騒ぎをして夜は更けていった。
★
――どうしてこうなった。
目の前に男たちが傅いていた。朝、朝食を食べに宿から降りてくると、見慣れない長髪の男たちが片膝をついて頭を下げていた。
教皇であることがばれたか、と思ったがそうではない。
ガントだった。
「ライさん、いやライ兄!昨日はごちそうさまでした」
「あれ、ガントさん?髪が伸びてない?」
「なにいっているんですか、兄いが昨日『俺はハゲの専門医でな』とか言いながら、ハゲの奴を片っ端から治していかれたじゃないですか!昨日の夜は最高だったな、と思いまして、こうして挨拶に伺った次第」
そういって、ガントは髪を撫でて照れながら笑った。
「それから昨日は申し訳ありませんでした。兄いのようなおそらく高名なお医者様に喧嘩を仕掛けたりして――」
「まぁいいいさ。そういう夜もあったんだろうよ」
俺にあまり記憶がない。これだから酒はだめだ。変なことを口走らなくてよかった。
「それで、町の人間に声をかけたのですが――」
「なんでそんなことをしたんだ」
俺は驚いた。なにを勝手なことをしてくれたんだ。
「いや兄いが『何人でも呼んで来い!ただし銅貨2枚だ!』といっとったじゃないですか」
「まじか……わかった。銅貨2枚で受けてやるよ」
「よかった――」
と言って外の人間を招き入れた。
同時に俺は後悔する。この街でそこそこ有名なハゲが、一夜にして長髪になったのである。その姿を見た人間は是が非でも、と思うに違いない。
宿屋兼酒場の周りを取り囲む人の群れ。元ハゲで昨日治したらしい男たちが、きれいに整列をさせている。
「先生を困らすんじゃないぞ!見る、直してもらう、金を箱に入れる、の順番だ!直したら先生の手を握ったり、感謝したりしないこと。先生は昨日、ハゲを治すと感謝でめんどくさいとおっしゃられていた。金を払ったら外に出て、邪魔にならないところからお礼を述べるくらいにしておけよ。あと、目の前で拝むなよ!俺は昨日拝んだら、死ぬほど殴られたぞ!」
なんでハゲを直してくれる相手にみんなすごく礼儀正しいんだろうな。
1人1人はめんどくさかったが、あまり派手にやるわけにもいかず――今更な感もあったが――コツコツとハゲを直していった。
そうしながら、俺は少しずつ情報を集めた。シルフの森はあまりになぞが多い。師匠もシルフの森は攻略できなかったという。あの魔国の大樹海よりも大きいと言われており、冒険者ギルドも近くの市町で活発に活動しているらしい。
俺は情報を集めながら、シルフの森について、聞き捨てならない噂を耳にする。
――あの森は、時が狂っている。
時狂いの森とは――俺は、なんとなく、嫌な予感がしていた。
冒険話は書いていて楽しいです。まだ冒険してませんが。
さて、娘の中学校の期末テスト週間で計画的にできない娘の尻を叩いて無理やり計画的に学習させています。途端に自分の更新速度がおちるのは情けないですが、致し方ありません。
娘の前で物語の中にトリップするのって少し恥ずかしいんですよね。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
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一歩一歩進んでいきますので、今後ともよろしくお願いいたします。




