思い出を語るほどには年を取っていない第40話
樹海龍ラトーガを討滅した。
俺は通信機を使ってリャララ様に連絡を取って、樹海龍の討滅を伝えた。樹海前のベースキャンプで俺達の、いやプララの心配をしていたリャララ様は、領兵を引き連れて俺の指定した位置までやってくる。
途中で合流したであろう三百人隊長カールの姿も見える。プララは少し離れたところでシュシュトリの治療に魔力を注いでいる。
そして一同が唖然とする。
凄惨な戦いがあったように見える開けた場所。その周囲に倒れる十数頭の狂乱熊。中央で樹海龍ラトーガが確かに死に絶えている。
その前に座る俺。
「もう死んでます。復活もできないでしょう。首は王都に運んだらどうですか?ジララ=ジラ様が買い取ってくれますよね?」
「うむ――見事である」
リャララ様が唸った。
「樹海龍ラトーガを討滅するものが現れようとは、驚きでしかない」
「おとぎ話ですからね」
「いや、おとぎ話にしていたのだ――」
リャララ様は声を潜めて続けた。
樹海龍ラトーガは歴代魔王とその幹部には存在として伝えられてきていたという。しかし、幾人も討伐に向かったが、誰も成功し得た者はいなかった。魔国はおのれの中に御し得ない存在を抱えていたのである。
基本、樹海の深いところで微睡んでいるだけの龍であったので、触れずに放置することがよいという結論に達した。ただ箝口令をひいても樹海龍のことが漏れるのは仕方のないことでもあった。ゆえに魔国は物語として樹海龍ラトーガを紹介し、想像上の存在という扱いをしてきたのだ。
「それをお主は、倒した」
「完全な私怨です。テムジンを殺されましたので」
「魔帝テムジンか。良い若者だった。しかも一人での狂乱熊の討滅も完遂させた。それらをもって準男爵位が与えられるだろう」
「死んで与えられても――」
俺は黙った。テムジンの死はだれかを責める類のものではないことも理解している。叙爵させて名誉を称えることしかできないことも理解している。
ただ、俺は悲しかったのだ。悲しかったからこそ、リャララ様に文句を言いたかったのかもしれない。
治療専門の司祭も来ていたようで、シュシュトリの傷も回復したらしく、プララは俺のもとに走ってきた。
「シュシュはとにかく疲労が激しいので、そのまま病院に搬送されました。ただ、もう大丈夫だそうです」
「ありがとう――」
「いえ――」
俺たちは押し黙った。重苦しい空気。戦いで出ていたアドレナリンがすっかり引き、残されたのは言いようのない悲しみと、底知れない虚しさ。
テムジンが死んだ。全力で復讐した。
だから?
テムジンは生き返らない。ラトーガの死などに意味はない。
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俺は樹海龍ラトーガの討伐の功が認められて魔国子爵位に推挙された。ただ、俺がイル教国所属でかつ神託の御子であったため、固辞をした。
しかし魔国の上層部では、俺についてはリャララ様や師匠を通じて連絡がいっており、内密で名誉称号という形で子爵位を得た。アッティラ帝国における侯爵位と同じ扱いである。義務は発生しない。
「ライト=サリス、貴公を樹海龍ラトーガ、ならびに狂乱熊の討伐をもって魔国子爵に叙する。なお、これは名誉称号である」
俺は魔王ジララ=ジラより爵位の証たる指輪を拝領した。魔国の貴族として公の場に出るときはこれをつける必要がある。
俺の叙爵と同時に、プララが魔国の王女として正式に認められることとなった。今まではあくまでも前王の娘という扱いだったが、今回の一件をもって王家の一員であり、王女として扱われることとなった。
さらには子爵ライト=サリスに降嫁することも同時に決定される。
なんのことはない、今までと変わらないのである。ただ、公式に認めておけば樹海龍ラトーガを倒すほどのライト=サリスを王家の外戚としておくことができる。
ちなみに魔国の王は建前としては世襲制ではなく、「ふさわしさ」によって決められる。「ふさわしさ」は力であったり血筋であったりで、結局その基準は曖昧模糊としているが、長命種ゆえに長期政権となるので、正確にそこらは審査されている。そして現王ジララ=ジラは前王リャララ=リャラの娘、つまりプララの異母姉を娶ってその座についている。とどのつまり、なんだかんだ言って魔王に選ばれるにも血筋と家のつながりが重視されるということだ。
「義父上、しかし、とんでもない逸材ですね」
「そうだろう、ジララ王よ」
俺たちは叙爵後、ジララ陛下からプララとリャララ様とともにお茶の席に招かれていた。ジジラ陛下は御年いまだ80余歳。魔族の中では若造の域を出ておらず、在位して15年ほど。
しかし公爵家の当主であること、能力と世渡りの上手さ、堅実さなどが評価されて即位している。もちろんリャララの腹心として数十年仕えてきた実績も評価されている。
「私のような若造が、勇者によって樹海龍ラトーガを討滅されるような事案に関われたのは幸いで――と、すまない。御子殿にとってはラトーガよりもオーガ族のテムジン君の方が大切だったな」
俺は無言で苦笑いを返した。
「陛下、話を聞くところ、樹海龍や狂乱熊が目撃されたり、人を襲うようになったのはここ10年と聞いているのですが」
「ああ、プララ妃、そのようだな。まぁ、樹海龍の目撃情報は少ない。見間違いとして処理できるレベルだった。しかし狂乱熊とみられる被害はバカにならなくなってきていたのだ」
10年前の活性化か。頭の片隅に置いておこう。
「なんにせよ、樹海龍の首印は死海域に沈める。まあ、呪いなどというものはないと思うが、魔都に置いておくものでもあるまい。構わぬな?」
「いかようにも」
俺はジララ王の問いに答えた。どのみちあの樹海龍が復活することはないのだから。
「なんにせよ、我が治世にて樹海龍の討滅がなった。そして神託の御子殿との縁も結ばれた――」
「幸運だのう」
「ジャロロ様、義父上と歴史に名を遺す2代が続いて、次の王が暗君と言われたら立つ瀬がありませぬゆえ」
良かったと笑う。俺は無難に笑顔を作ってその場を乗り切った。
俺たちが後始末をして魔校に帰校した時には、テムジンの葬儀も終わり、遺体も故郷に戻っていった後だった。
魔校は暗い雰囲気に満ちており、ジャリリも復帰したシュシュトリも元気がなかった。唯一の明るいニュースであったはずの樹海龍討滅も、俺が取材などを断固拒否したためにほとんど盛り上がりに欠けた。
ただ冒険者ギルドから俺にSランク、プララにはAランクが与えられた。樹海龍ラトーガの討滅など、魔国であっても昔話で語られる類の話だ。ギルドのワギュウが嬉しそうにしていたが、俺の表情が冴えないのを見て気を使ってくれた。
行軍訓練についても、見直しは計られなかった。1つは死傷者の数が一人であったことと、魔帝と王が責任を果たす行動とったことで、意味のある活動とされたこと。もう1つは純粋に樹海龍が討滅されて安全性が確保されたとの観測が広がったこと。この2点でもって続行は決定されていた。
すでに魔校内での地位を確立してしまい、冒険者としてのランクも上がりきった俺たちとしては、「敬われる」「恐れられる」「慕われる」のいずれかでしか語られなくなった。
それでもまぁ、「システムの中で学ぶことがある」という師匠の教え通り、俺たちは丁寧に働いた。洗脳的な技術や根回し、教育的な指導に政治的な権力、はては貴族的な権威も使い、ありとあらゆる手段をもって同輩先輩問わず鍛えた。
もう二度とテムジンのような真似は起こさせない。執行部黒猫のメンバーにとってそれは最重要項目だった。
次の年からは学校の教育システムにも冒険者ギルドの登録を義務付け、上級生から下級生に対して冒険者の在り方などを指導させた。
生きていくことができるように。二度とあの悲劇が起こらないように。
その甲斐があって、ジャリリ、シュシュトリ、俺と引き継がれてきた魔帝での行軍訓練も3校のトップを独走した。俺が5年目の魔帝時には他校も同様の教育システムを導入していたが、実力の違いは歴然としていた。
そして俺たちは卒業を迎えた。卒業式ではリャララ様の退職も発表されたので、惜しむ声が非常に大きかったが、俺にとっては娘がいなくなったからだよな、と思う。
ジャリリはジャロロの直系として魔国の貴族官僚となっている。堅実で冷静な姿勢と、師匠の弟子として鍛えられた力をもって、活躍しているという。シュシュトリはラミアの町で公務員となっている。魔帝出身ということもあり、町長の秘書官兼ボディーガードとしているという。
シャララは卒業式に腹の膨れたピリン=ピリャが家族席に座っていて、みんなが苦笑いをしていた。シャララとピリンは卒業と同時に結婚をする、とのこと。
淫魔のミラー=キャスは、さすが淫魔、と言われるだけある女性へと変貌を遂げた。5年の月日は伊達ではなく、常時発動型の催淫魔法など発動していなくても、男なら一度は催淫されてみたいと思うほどだ。とはいっても、彼女はゴリゴリの冒険者になった。相棒の兎人ラビとの冒険者家業によって、在学中にCランクまであがり、採集に関しては魔国東地域でトップの実力を持っている。
「テムジン、無事すんだよ」
「ええ、私たちもようやく卒業しました」
俺たちはテムジンの墓に花を添えた。といっても、俺たち4人がサスティラ魔校に作った記念碑のようなものだ。
俺が15歳で、プララは17歳。この世界では大人として扱われる年齢だった。
俺は身長が180㎝を超えた。プララは町を歩けば誰もがふりかえり、次の瞬間誰もが横の俺をみて嘆息する、そんな美しい女性になった。
俺たちは実質夫婦そのものだったが、まだ最後の一線は超えていなかった。何事も結婚式を終えてから、というやつだ。
前世ではちゃんとすることはしていたから、貞操観念が強いわけではなくて、ただ単に師匠とリャララ様の監視が厳しかっただけだ。
魔国の王女として扱われるようになったこともその一因である。
――が、それも、結婚式まで。
さすがに出会って8年。ほぼ片時も離れずともに過ごしてきた。感慨深い。俺も今生では立派な童貞である。シャララにのろけられるたびにぶん殴ってやろうかと思ったが、それも結婚式まで。
「そう、結婚式まで!」
「あの、分かりますよ?ええ、私にもそういう欲求みたいなものはありますから――でももうちょっと抑えましょう、ね?」
すみません。
俺たちは魔道車をエルフ領都に走らせながら、これからの人生について思いを馳せた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
無事40話です。
次は結婚式回です。
自分も結婚式を挙げたことはあるのですが、あまり好きではありませんでした。ただ、今でもその時の写真を見ると嫁さんがとてもきれいだったことを覚えています。
自分はハゲでオーガとオークの中間みたいな体系ですが、嫁さんは結婚して10年以上たちますがいまだに美人です。
嫁さんが絶対見ないところで、全力でのろけてみました。では、また。




