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樹海龍との闘いと新たなる力の第39話

 俺たちはシュシュトリを探して樹海の中を走り回った。


 しかし手掛かりがない。樹海の中からシュシュトリをサーチできればいいが、俺の評価は検索に向いていない。


 だが、俺たちが事態を知って5日目――この地について、捜索を始めて3日目のことだった。


 空に向けて放たれたアイスジャベリン。たった一発だが、通常の飛行高度よりもはるかに高く、何らかの合図であることは見て取れた。


「あれはシュシュ、ですね――」

「ああ、あの下にシュシュトリがいる――生きている!!」


 俺はアイスジャベリンを評価し、それが放たれた理由まで読み取った。


「シュシュトリはあの一発を最後の切り札として打ち出した。俺たちならアレに気づいてくれるのではないか、という思いを託して――助ける!」

「ええ!」


 敵に対するダミーの数発とともに打ち上げられたあの一発にかけた思い。切羽詰まっているし、ぎりぎりだが――俺たちに対する信頼を感じる。


 俺たちは走った。


 樹海の木々の間をすり抜けながら、走って、走って、走った。そして徐々に見えてくる狂乱熊(カオスティックベア)の群れ。


 倒されていた狂乱熊(カオスティックベア)よりも、はるかに大きな個体がごろごろしている。


 しかし、狂乱熊(カオスティックベア)の群れはこちらに意識をむけない。何かに注視しているさまが見て取れる。


 俺たちは構わずその中心に飛び込んだ。


 ――生きている!!


 俺たちは、目の前には木の幹に貼り付けられ、満身創痍ではあるが、確かに生きているシュシュトリを見つけることができた。


 目の前の少年、と言ってもいいのだろうか。成長期にある俺よりも7,8㎝、いや10㎝くらい高いだろうか。


 その少年がこの場の主には違いなかった。狂乱熊(カオスティックベア)が従っているのは、あの少年が絶対的な力を持っているからだろう。


「あなたも龍というのなら――」


 叫ぶシュシュトリと目が合った。俺は声に出さず「大丈夫だ――」と唇で会話をして見せた。すでにシュシュトリには状態固定をかけた。満身創痍だが、死ぬことはない。


「龍というのなら?」

「そこの少年を倒してからやってよ!!!」


 龍、と言われた少年の顔がこちらをぎぎっと向いた。


 同時にシュシュトリの意識が落ちていったことも確認した。よし、ゆっくり休め。


「こんにちは、龍?」

「ごきげんよう、龍?」


 俺は挨拶をしながら相手を評価する。ありがたいことにレジストされない。


 確かに龍。


 樹海龍ラトーガ、力も、魔力も、狂乱熊(カオスティックベア)の比ではない。いやインフレがきつい。


 そもそも狂乱熊(カオスティックベア)の能力は、亜人、魔人、もちろん人族も含めて、倒せること自体が不思議なレベル。純粋に倒したテムジンに称賛を送りたい。安全に対応するなら軍隊を一個中隊規模で投入して5m級に対応するレベル。


 そしてあの樹海龍ラトーガ。


 一言でいえば伝説級。ジャロロ=ジャロが大陸の数%を消した極大消滅魔法(ダークマニフェスト)を用いれば樹海ごと葬り去れるか、どうかというレベル。


 なぜなら厄介なことにあの龍は不死属性持ちだ。樹海さえなくせば、攻略可能ではあるようだが――。


 ちなみに俺たちは評価:固定により、いうなれば完全耐性を持っている。


 千日手ではないか――。


 龍は俺たちを滅することは絶対にできない。そして俺たちも樹海龍を倒しきる有効な手立てがない。


 だが、冷静な思考とは別に、感情面での思考処理も進んでいく。


 あいつは絶対に殺す。


 俺の友人が今目の前で苦しめられている――あのシュシュトリが、涙で目をパンパンにはらして、意識を失っている。


 俺の友人が殺された――たぶん、テムジンをやったのはあの樹海龍ラトーガだ。テムジン、魔帝として一生懸命にこの半年余り、まるで兄弟のように付き合ってきた男。堂々として、責任感が強く、魔帝としての存在に説得力があった。しかし、愛嬌があって、偉ぶることがなく、下級生の信頼も厚かった。


 数千回の転生の中でも指折りの兄貴分(いいおとこ)だった。


 あいつを殺した龍。


 ――許せないよな。ああ、許さないよな。


 俺の心に膨らんだ思い。俺はありったけの思いを込めて評価:恐怖を編み上げ、樹海龍ラトーガに叩き込む。


 絶対強者であった樹海龍ラトーガに心に対する防御などあるまい。


「お前は、何者だ」


 俺はその瞬間の震えを見逃さない。声にさらなる評価:恐怖を乗せる。


「俺はライト=サリス。お前を殺すものだ」


 その瞬間、地を切り裂くような、唸りにも似た咆哮が樹海龍ラトーガによってなされた。咆哮は天地を裂くような光線となり、天に向かって灼熱の光が伸びる。


 そして、俺たちの前に、巨大で強大な龍――高さにして40m級の漆黒の龍、樹海龍ラトーガがその姿を現した。


「大きい――」


 プララが驚きの声を上げた。


「ああ、サラマンダーより大きいな」

「サラマンダーって精霊じゃないですか。当たり前ですよ」


 俺たちに危機感はなかった。


 俺とプララとシュシュトリは、今現在、状態が固定されている。


「ライト=サリスに問う」


 樹海龍ラトーガが口を開いた。


「小さきお前がこの樹海龍ラトーガをどう殺すというのか!」

「あーそうだな。切って切って切りまくって――殺そうと思う」


 俺はやはりそれしかない、と感じている。評価をしているが、弱点はあまりなさそうだ。なら切り刻んで復活できないところまで細かくするしかないのではないか――。


「ふふふ、はははははは、バカな話!いいかよく聞け、ライト=サリス!この樹海龍ラトーガは樹海においては無敵!死ぬこともない!!」


 山のような龍が笑うと、地面が揺れるからやめてほしい。


「ふーん、なあ、プララ、樹海龍ラトーガって知っている?」

「私、エルフ領育ちなので、あまり聞いたことはありませんが、絵本でよく倒されている龍ですね。本当にいたんですねえ」

「へえ、弱いんだな――」


 俺は樹海龍ラトーガの方を向いて唇の片端を上げて笑って見せた。俺が小ばかにしていることが伝わってくれると嬉しいが、その心配は杞憂だった。


「……身の程――しらずが!!」


 俺の頭の上に樹海龍ラトーガの15mにもなる腕が振り下ろされる。


 だが、何も起こらなかった。


 音もせず、衝撃もなく、振動すらない。一撃の破壊力も何もかも完全無効化されている。


「身の程、しらなかったか?」


 俺は頭上で止まっている樹海龍ラトーガの(こぶし)を、ドワーフ大公エンリケが鍛えた大業物モノサシで一閃する。

 そして納刀。時代劇だと、鞘にパチンッと収めるのだが、そんなことで鞘が痛むのは嫌なのでゆっくりと納める。


 次の瞬間、(こぶし)の半分がちぎれ飛び、血が噴き出した。


「ぐぎゃああああああああああああ」


 樹海龍ラトーガがみっともない声を上げた。


「良かった。痛覚あるらしいぞ」

「ほんとですねえ」


 俺とプララは手を叩きあった。痛覚がない相手に戦うとしたら倒すしかない。瞬殺しかない。傷をつけることに意味がないからだ。


 それは、つまらない。


「テムジンを殺し、シュシュトリを弄ったお前を俺は楽にしてやらない――」

「私の大切な友人を殺したあなたを、そして傷つけたあなたを、私は許さない――」


 ゆっくりと痛めつけてやるよ。


「この、神代の時代からの大樹海の支配者たるラトーガを許さないだ、と――」


 樹海龍ラトーガは切れた左手に力を籠める。ずるるるっと音がして、切れた先がすぐさま盛り上がる。


「ふふふふ、この樹海龍ラトーガが人ごときに、傷つけられると思ったか!!」

「いや、いま傷ついて痛がってたろ?」


 俺の至極もっともな問いに樹海龍ラトーガは答えなかった。その代わり胴体ほどもある長い尻尾を地面にたたきつけた。


「生意気なガキが――」


 樹海龍ラトーガは、そういうなり口を大きく開けてブレスを吐いた。俺はすぐさま評価して確かめる。


 ――酸の息(アッシドブレス)


 放たれた酸の息(アッシドブレス)により、周りの木々が一瞬にして立ち枯れていく。


 我々の周りの緑が一瞬にして茶色の死の森と化した。


 さらには、樹海龍がたまたま向いた角度にいた狂乱熊(カオスティックベア)酸の息(アッシドブレス)に巻き込まれ――瞬時に死亡する。


 シュシュトリを縫い付けていた大木まで酸の息(アッシドブレス)によって枯れ、ボロボロになる。


 ただ、シュシュトリを含めた俺たち3人は状態固定をしている。酸の息(アッシドブレス)の威力がいかにすごかろうが、俺たちまで届かない。


「――なッ」

「生意気なクソガキだろ、俺」


 俺は鼻で笑って見せた。俺はモノサシを抜刀すると、だらりとしたに下げた。そしてゆっくりと樹海龍に向かって歩を進める。プララも指につけた魔道具を確認しながら、魔力を込めていく。


 俺たちの無防備びで有無を言わせぬ歩みに、ラトーガは気圧されたのか、じりじりと後退する。


 とにかく近づいて切り刻み、そこにプララの魔法を叩き込む――復活するであろう。俺の評価に現れている樹海龍ラトーガの『不死属性』も伊達ではなかろう。でも、俺たちはぶん殴ってやらないと気が済まない。


 その時だ。


 酸の息(アッシドブレス)によってできた空間の周囲の森の中から矢とマジックアローが一斉に射出された。その数は1000を超える。それらはほぼ狂いなく、ラトーガの頭に命中する。


「学生!さがりたまえ!」


 俺たちの頭上で声が響いた。俺が気配をもとに相手を評価する。残念ながら、相手を見ることはできない。少しでも気を抜いたら、樹海龍ラトーガと攻守を交代しなくてはならない。


 ――領兵の三百人長カールか。


 彼は後方上空50mの地点でホバリングしているようだ。


「あれは、君たちが叶う相手ではない。太古から生き続ける――樹海龍だ!」


 いや、知ってますけれど。

 あなた方はもっと無理でしょう?そう思いながら、俺は健在である樹海龍ラトーガをにらみつける。


 俺と対峙しているためにマジックアローと矢に対する防御がおろそかになったかもしれない。樹海龍ラトーガの顔面に若干の爛れ(ただれ)がみれた。。


 だが、次の瞬間。


「痴れ者がぁぁあぁぁあぁああああ!」


 樹海龍ラトーガが咆哮とともに口から炎を吐き出し――むしろこのレベルだと熱線に近い――周囲の木々を薙ぎ払う。


 同時に着弾した地点に大量の火炎が発生し、燃え上がる。森に隠れていた領兵は阿鼻叫喚の地獄絵図だろう。


 俺たちのところまで火は迫っているが、状態固定がかかっているので、苦しくもない。領兵の状態を固定してやりたいのは山々だが、量と範囲と確認が仕切れない。


「退避!総員退避!!」


 三百人隊長のカールの声が響く。判断が早いのは素晴らしいことだ。しかし、明らかに多くの魔族の命が失われた。


 俺にとって、知らない人間の命はさほど問題ではなかった。できれば助けるが、助けられないものは仕方ない。気分は良くないが、あくまでも俺に大切なのは仲間だ。


 俺は樹海龍ラトーガが領兵に注意を向けているその瞬間に、素早くシュシュトリまで近づくと、プララにシュシュトリを解放させ、離脱させる。


「逃がすかぁぁぁぁ」


 それを見咎めた樹海龍ラトーガが無属性のブレスを吐いた。俺は素早くラトーガのプララへの射線上に入ると、その無属性のブレスをモノサシで薙いだ。


 術式解体。修行時代に、散々練習させられたので、評価による分析と評価による解体にタイムラグはない。


 とどのつまり、無属性のブレスは俺の一振りによって消え失せる。


 状態固定しているプララとシュシュトリに意味がある攻撃でないことは理解している。しかし当たり前だが、無害だからと言って攻撃をさせるわけにはいかない。そして、もう一つ、格の違いを見せること。


「なっ――」

「お前の相手は俺のはずだが?」


 驚く樹海龍ラトーガ。俺はモノサシを担いでゆっくりと歩を進める。俺に向かって放たれる数種のブレス。それらは息という体をとっているが、実のところスキルに近い。いうなれば樹海龍ラトーガの固有スキルだ。


「まぁ、だからといって、俺には効かん」


 モノサシを振りつつ術式解体。


 樹海龍ラトーガの意を受けた狂乱熊(カオスティックベア)の数頭がこちらに迫る。すべて体を固定、動けなくしたところを据え物斬り的に切り飛ばす。


「そうか、それもいいな――」


 俺は樹海龍ラトーガの体を固定した。


「う、動かぬ!!何をした――」

「へえ、しゃべられるのか――さすが樹海龍を名乗るだけはある」


 面倒くさい。とりあえず周りの狂乱熊(カオスティックベア)も固定。すべて斬り殺す。頭をすべて落としておく。


「大きいだけだな。まぁ、最も大きい奴がここにいるが」

「貴様、いったい何者だ……」

「俺の名前はライト=サリスだと先程名乗った。そうだな、樹海龍、お前は今から死ぬ。だから知っておけ」

「この樹海龍ラトーガが死ぬ?この樹海の瘴気とともに生まれ、この星とともにある存在ぞ。この星の瘴気からエネルギーを得る存在、この星の一部のこの樹海龍が死ぬだと?」

「うるせえ!!!」


 俺は樹海龍ラトーガの懐に素早く走りこむと左足を落とした。


 動くことができない樹海龍はゆっくりと倒れる。ぐぎゃあぁああと叫び声がするが、身動き一つとれずに、苦痛に顔をゆがめている。


「あー、お前は今から死ぬ。だから知っておけ。先程、先生はここまで話しました。聞いていますか?」

「なにを……言っている……」

「しゃべるなと言っただろう!!!」


 俺は倒れた樹海龍ラトーガの鼻先をモノサシで切った。噴き出す体液。


「先生はとても面倒くさがり屋です。質問は後で受け付けますから、黙って聞いてくださいね」


 俺はラトーガの眼前で講義を始める。横たわった頭の高さが5m近くあり、なかなかの迫力ではあるが、動けないものは怖くはない。


「実は先生はこの世界の人間ではないのです。ライト=サリスは間違いなくこの世界の人間ですが、私は幾千もの世界も渡り歩いてきました。まぁ、いわゆるここが安住の地となるわけです。で、ひどい訓練に耐えたり、暗殺者に襲われたりしながら、少しずつ仲間を増やして、そして地位を確立してきたわけです」


 俺は樹海龍ラトーガの左目の下にモノサシを刺した。


 ごぉっぉぉぉ、と叫び声にも似た声がする。


「先日、あなたが首をはねた緑色のオーガは私の友人なんですよ。なかなかいい奴でしてね。私にとっては大切な男だったわけです」


 刀を抉るようにぐりっと回す。


「それを、あなたは、殺したのです。許せませんねえ。ここまでで何か質問はありますか?」

「……バケモノめ……」

「そうですね、そうかもしれません。誰しも心にバケモノを飼っている。しょうがありません。でも、今はプララも誰も見ていませんから、おのれのほんの少しの嗜虐心を満たしてもいいじゃないですか。あなたもシュシュトリに対して、そんな思いがあったのでしょう?さて、先生は自分のことを話したい衝動を満足させてもらいましたので、あなたを殺したいと思います」


 俺は久しぶりに先生口調で話した。憎しみを込めて。


「……この樹海龍ラトーガ、樹海の瘴気で不死の肉体を持つものだ。必ずや復活してお前を殺す――」


 苦しそうにつぶやくラトーガの言葉に俺は少し考える。


 そうだよなぁ。不死属性だから、何から復活するかわからないのは面倒くさい。


 ――ん。


 ふと、思いつく。


 俺のスキル評価の応用編だ。さっそくスキル評価を発動しできるかどうかやってみる。


 ――ん、んんん?


 ちょっとした試行錯誤が必要だったが、できた。


 アストロン、自分の体を鉄であると評価して攻撃を受け付けないもの。入学試験の時にシャララを倒した評価スキルの応用だ。


 俺のスキル評価で樹海龍ラトーガの『属性:不死』を『属性:不死ではない』と書き換えた。評価を修正したのだ。


「よし。これで不死属性は消えたな」

「――なッ」

「自分ではわからないだろうなぁ。でもお前から不死属性は消えた。うん、これが俺の固有スキル:評価だよ」


 途端に――樹海龍ラトーガが怯えた目でこちらを見る。


「まさか――お前、無茶苦茶ではないか。それでは、神ではないか」

「うーん、覚えていないんだけれどね。その(たぐい)かもしれない」

「……死にたくない……」

「ああ?」


 ぼそりと呟いた樹海龍ラトーガの言葉を聞き返した。

「死にたくない――死にたくありません。助けてください。もう出てきません――」

「いやだ。お前は俺の大切なものを奪った。許さない」


 俺はそういって、樹海龍ラトーガの喉をつぶした。吹き出る大量の体液。血液なのかわからない。


「さて、ラトーガ君、君は優秀な生徒だった。先生は嬉しく思う。泣いて贖罪を乞うまで成長できるとは先生は満足しました。だから死ね」


 樹海龍ラトーガの首を刎ねた。

難儀しました。

もう少し展開を速めていきたいと思います。


ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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