エルフの師匠が前魔王にプロポーズしたりする第36話
いつだってやりすぎた後に悔やむ。まさに後悔だ。俺は船に向かいながら、やりすぎたことを後悔していた。
「お兄ちゃん、パリスにちょっといいところ、見せたかったんでしょ?」
「そう言うなよ。まぁ、後のフォローよろしく頼むわ」
「いいよ。わかった」
パリスは叙勲を終え、そのままザーリスで休暇に入り、レティはゼナの町に戻って休暇に入った。俺は魔校の開始を考えるとそろそろ帰寮しなくてはならなかった。
「ん、師匠は?」
俺はゼナの町を出立する魔道船の看板でレティに手を振りながら、おそらく一緒に帰るであろう師匠の行方について尋ねた。
「ほら、あそこで手を振ってますよ」
プララが指した先はゼナ港だった。レティの後ろの方でニヤニヤしながら手を振っている。
「へ?」
「3週間後に叙爵と陞爵のパーティがあるのでそれに出席したら帰るとのことですよ」
ああ、なるほど。
「例の短剣を預かっていますので、連絡後に召喚しろ、とのことです」
「――なるほど」
ここからヘムヘースまでは三週間弱。ついたら呼び出せってことか。まぁ、いろいろお世話になったし、呼びつけたのは俺の家だからそれくらいはさせてもらおう。
船がゆっくりと港を離れる。ボォォォっと汽笛が鳴らされ出発の合図がなされている。とは言っても魔道で動いているので、本物の汽笛ではなく、魔道で鳴らしている音だ。
暑い日差しが魔道船の甲板を照らしていた。
一応この船で最も優遇されるべき2人であり、帰省とは言え、碌に休むこともできなかった身である。ゆっくりさせてもらいたい。
<><><><><><><><><><><>
ヘムヘースの港が近づく。海流の関係もあって、2週間と3日で着いた。
俺は魔道船のクルーやサリス商会の面々に挨拶をして回った。この17日間とてもゆったりと過ごさせてもらった。
ちなみにシュラウド商会は解散させた。父さんは最も大切な相手である師匠に対して恥をかかされたこともあり、叔父の一家は商売からすべて外した。
叔母さんがやつれた顔で「うちの馬鹿が申し訳ありません」と頭を下げていた。もっとも父さんは生活の面倒はみることは継続していくとし、マリエント男爵家に住み込みで働くようにした。当然給金はサリス準男爵家から払われる。
サリス家としては親族の甘えを超えたところで働かせることができ、マリエント家としては陞爵により使用人を増やさなければならないところだったので、双方の利害が一致したのだ。
「お帰りなさいませ、お嬢様、ライト様」
船から降りると魔道車が用意されており、執事長さんによって魔道車の客車に案内される。
お礼を言って乗り込むと、魔道車はゆっくりとスタートした。
「そういえば、ライト様。従兄のシン=サリス殿ですが、なんとか生活できているようですよ」
魔道車の助手席に座りながら執事長は世間話のように言った。
「町の皆さんにご迷惑をかけていませんか?」
「いえ、さすがにこの状況でどうこうできるはずもありません」
「それはよかった。ありがとうございます」
いえ、と答えて執事長は黙った。俺はふと馬車の外に目をやった。シンではないけれど、取り巻きの1人と思しき男が荷車を押していた。なにか憑き物が落ちたような顔で働いている。
「労働に勤しむことで人は変わる、か」
「じゃあ、戻ったら私たちも冒険者業を真剣にしましょうか」
隣に乗っているプララが俺の手の上に手を重ねてフフッと笑う。
「そうだね。1回生のみんなはコツコツやっているかな」
「通信機で話している執行部黒猫の面々は元気そうですが、同級生の子たちはちゃんとやってますかねえ」
シャララとかどうなんだろう。パーティ組んで少しずついろいろな業務受けているようだったけれど、それももう2か月くらい前の話。うまく回っていることを期待したい。
俺たちはそのまま別邸で3泊ほどし、帰寮への準備を進めた。早く帰ろうかと思ったけれど、師匠を迎えなければならない。ここの方が師匠にとっても都合がよかろう。
4日目の夕方。師匠から通信が入った。久しぶりだ。
『あ、ライト?私だよ、プラローロだよ』
「師匠、お疲れさまでした。そしてパーティへの参加ありがとうございます」
『すごかったよ。まあ、その報告があるから、召喚してよ。あ、今回はしっかり状態固定してね。しないと死ぬかもよ』
「なんでですか……もう、あれくらいじゃ死なないですよ。まぁ、しますけど」
『頼んだー!』
俺は状態固定を確認した。
俺の隣にはプララが座っている。
「我が魔力でもってこの地に顕現なされませ!」
魔道具による俺の血と魔力を媒介にした召喚。だが俺の状態は固定されている。したがって供給される魔力量は無尽蔵――だろう。
だが、今回は吸い取られる魔力が膨大だった。たしかにこれは固定していなかったら、ケツの毛まで毟られていたかもしれない。
「ただいま帰ったよ!」
「お久しぶりですね、ライト」
「邪魔をする――」
プラローロ師匠、イル=サン27世のお婆様、それから前魔王リャララ=リャラ。3人が同時に召還される――。
「それで、ですか」
「お、さすが息を一つ切らしてないじゃん!成長だねえ!」
師匠が手をパチパチと叩いた。
「ふむ、たしかに凄まじい。魔道具の力を借りたとはいえ、召喚魔法の魔力の消費量は人ひとりを廃人にするほどだ。3人を同時に召還して息を切らしもせぬとは――」
「そう思うならばお母様にノらないでください、お父様!」
プララが的確に突っ込む。
「お前の旦那になる男だぞ?その程度クリアできなくてどうする」
「まぁまぁ、ライトの成長は本当にすごいのね。この婆も、少し驚きましたわ」
上品に笑うのはイルお婆様。たしかに3人そろっているのだから、同時に召喚できたらそれに越したことはない。
「転移の短剣に描かれた魔紋を持つものをアストラルサイドから検索して呼び寄せる道具だからね。2人の魔紋を魔道具でそろえてやれば、それくらいは騙せるのさ」
「だます、か。納得しました。俺の評価:固定も同じような仕組みですからね。世界をだましている」
俺はイルお婆様とリャララ=リャラ様に向き合って頭を下げた。
「父の叙爵パーティに参加していただきありがとうございました。師匠も含めて3人の賢人がご参加いただいたことで、サリス家の株は確実に上がったと思います」
そういってソファーを進める。3人は並んで座った。勧めるも何も師匠の家だけどな。
「いや、これは上がったねぇ。ライトは見てないからわからないだろうけど、すごかったさ!!ミドくんを真ん中に両脇にリャララと私。私の隣にイル。リャララの隣にはドワーフ大公。一地方貴族の叙爵や陞爵程度で絶対に集まらないメンツだよ。ミド21世の戴冠式にも集まらないメンツだからねえ」
俺は苦笑い。
「ミド陛下は怒ってませんでしたか?」
「いや、もう、終始ご満悦。まぁ、私が『戦略帝の計らいに感謝する』なんて挨拶をしたものだから、誰もがミド君のことを戦略帝と呼ぶようになってね。二つ名でしか呼ばれてないなんてかっこ悪いと思ってたら、本人は喜色満面。最高に嬉しそうだったよ」
なるほど。
「でもですね、イル教主として言わせていただければ『神託の御子』を名実ともに我が国に頂けたのですから、それくらい持ち上げてあげますわ」
イルお婆様はそういってほほほと笑う。
「わしは五賢人と言っても、すでに国の代表ではないからの。だが、わしとミド21世の握手程度でパーティの参加者が、みな滂沱の涙を流すさまは見ていて面白かったぞ。どこまで魔国を恐れておるのか」
「うちの国の悲願でしたからねえ。ほんとうにありがとうございました」
その後、パーティでは神託の御子はだれか、という話になったが、お婆様が「御子はまだ子供ですから、数年お待ちくださいね」といい、神聖魔法:神の言葉を込めたことでみなが黙ったらしい。言葉を無条件で従わせる力があるという。
代わりに注目を受けたのはパリスだ。興が乗ったミド21世によって、改めてみんなの前で叙爵式が行われた。士爵の叙爵が皇帝によって行われるのは本当に稀だが、そのパーティ自体が唯一無二の空間となったため、誰も気にしなかったという。
「まぁ、なんにせよ、この婆が元気なうちに継いでくださいね」
「お婆様は数百年は元気で生きてもらいますから、大丈夫ですよ」
「え?」
「お婆様は年をもうお取りになりません。これは強制ですから。リャララ様ももう死ねませんからね。師匠も、プララも、少なくとも俺の家族は死なせません」
若返らせることもできるはずだが、ちょっと影響が大きいのと手順が見えないのでもう少し考えている。
「そういうことなんだよ!イル!がんばろうね、あと300年!」
「プラローロ様……30年が300年になっていますわよ……なんてことでしょう……」
イルお婆様は戸惑いつつも、受け入れる。
「リャララも理解しよう!ということで正式に夫婦になろうか!」
師匠はとんでもないことを言い出した。
「いや、夫婦か――悪くはないが、これでも元魔王なのでな、側室まで含めたら10人ほどの妻がいるが――」
「じゃあ、ちょうどいいじゃん、もう一人増えても問題ないだろう?数年したら死んだふりしてエルフ自治領で永遠にくらそう!」
「相も変わらず無茶を申すな」
リャララ様は苦笑したが、次の師匠の一言でその苦笑が凍り付いた。
「ジャロロも同じように隠遁して生きているからいいんだよ」
「なんだと!?」
「あいつもハーフエルフだから長命だとは思ったけれど、生きてて良かったよ」
「ジャロロ様が生きているだと!?」
体を乗り出してくる。
「ええ、お父様、実はダークマニフェストを使った後に学園の方に来て、二度と使うなと警告をされてお帰りになりました」
「本当にあのお方が生きておられるのか。いや、そもそも本当にジャロロ様であったのか!?」
「300年前の戦争を恥じて二度と出てこない言っておられましたけどね。俺の評価で見たから間違いありません」
リャララ様は語る。
自分の先代魔王にして伝説の大魔法使い。当時は何度も会ったが、憧れしかなかったという。彼女の突然の引退をうけて、ただひたすらにジャロロに負けないようにと善政に努めた魔王時代。そしてその流れは現魔王ジララ=ジラに確実に受け継がれている。と。
「あの方に、会いたいのだが――」
「無理だよ!あいつが本気で隠れたら私だって探せないんだよ。リャララには200年早いさ」
スパンっと切って落とされる。
「厳しい話――しかし、そうか。これは生きる張り合いがある話よ。のう、イル殿、互いに引退を考えた身だが、この世界はまだまだ楽しんでいけそうだな」
「そうですね、リャララ様。私は75とはいえ、長命種のみなさんに比べたら全然生きていませんから、もう少し楽しませていただきましょうか」
「で、私との結婚はどうするんだい?」
言って師匠は少し照れたように「私がプロポーズしてるじゃないか」と笑う。
「ふふ、わかった。プララが魔校を卒業するであろう数年後、結婚しようではないか。エルフ自治領でしっかり魔の深淵を見つめてやるわい」
俺にもわかる。この話で一番うれしそうなのはプララだ。俺の手を握る力がググっと強くなっている。
今まで両親が離れて暮らしていただけに喜びもひとしおだろう。俺もプララが喜んでいるのを見るのはとてもうれしい。
ナイス師匠!
「こうなったら、エルフ自治領を禁忌の鬼子で溢れさせてやるっていうのはどうだい!?」
――それはやめませんか?
最後に投稿ボタン押さないと投稿されないって知ってました?驚きですよねー。
さて、ここまで読んでいただきありがとうございました。
GW中にあと一話くらい上げれたらいいな、と思います。
評価、ブクマ、感想、ランキングポチ―などしていただけるとテンション上がります。
まあ、読んでいただけるだけでも十分テンションが上がるのですが。




