抜山蓋世の第35話
それからの一週間はまさに怒涛の一週間だった。父さんは一報を受けると帝都ララミスに駆けつけ、すぐさま叙爵式に臨んだ。おじい様達の陞爵は簡略化され、俺たちが観光をしている間に行われたらしい。
俺は陞爵を終えたおじい様から侯爵の儀仗のみ渡された。栄誉称号なので、誓いの宣誓などはする必要がないらしい。おじい様はとても微妙な顔をしていたが、自身のバロンの称号を少しうれしそうにしていた。
「ミリィが嫁ぐときは反対したが、まさかその孫によって我がマリエント家が陞爵することになろうとはな」
ところで、サリス家の叙爵のみならず、他2家の陞爵はゼナの町やサザーリン領にとっては、降ってわいた慶事である。
しかし、領民にとってはよくわからないことも多いようだ。まず功績と挙げられた神託の御子とはいったい誰なのか。
サリス家の息子が攫われて戻ってきたことまでは分かる。
じゃあ、その息子が神託の御子か、というと、帽子を目深にかぶった異国の女の子と毎日遊び歩いている姿しか見ない。未来のイル教主が護衛もつけずに遊びまわれるものだろうか、という疑問がわく。
だが、なんらかの知っていることもあるだろう、と遊んでいる息子に話を聞きに行くと、「よくわかんないっすね。とにかく里帰りできてよかったですよ」と笑ってはぐらかされた。そんな噂が町に出回っている。
3家の祝賀とお披露目の会は合同で行われ、サリス家がすべての費用を持つらしい。招待客は国の中だけにとどまらず、イル教国、魔国、ドワーフ公国にまで招待がされるとのうわさされている。豪商サリス家の交友範囲の広さがうかがわれた。
事実、リャララ様とプラローロ師匠、イルのお婆様の出席は決まっていて、当然、アッティラ帝も来ざるを得ない状況。ドワーフ大公も来るらしい。5賢人のうち、4人が集まることは有史以来ない。
「んで、これだけのメンツが集まる会に招待のかからないアッティラ帝国の貴族は、とにもかくにも社交界の風下に追いやられるのではないか、という話らしくて、みんな必死に売り込みをしてくるらしいんだよな」
俺たち2人とレティ、それからパリスは4人でゼナの町のカフェに来ていた。パリスの落ち着きのなさは半端ない。
「あのさ、ライト――なんでこんな事態に?」
「サザーリン卿から説明受けた通り。それ以上でもそれ以下でもないし、内容はここで話せる内容じゃないこともわかるだろ」
人通りのある場で話す話でもない。ただでさえ、ゼナの町の人たちの好奇な目が痛いのだから。
「まあ、わかんない場合は受け入れるだけにしておけばいいのよ。パリスに言ってきたでしょ?お兄ちゃんは規格外だ――って」
「レティ、そんなレベルじゃないじゃん」
パリスが困った顔をして、あたりを見回す。
「じゃあ、人外。それでいいのよ」
「パリスさん、私たちは義理とはいえ兄弟になる身です。ライトのことは、人外、という理解で間違っていないから――そのまま受け入れるべきだと思います」
プララは涼しい顔をして、レモンティに口をつける。
「は、はい、プララ、さん」
「あのさ、さっきから妙にプララに丁寧だけど――もしかして、怖いの?」
「いや、そんなこと、ない――エルフの子に会うのははじめてだから緊張しているけど」
かぶりを振るパリスに、プララはフフッと笑った。
「じゃあ、今日はどうしましょう。私はこうしてお茶を飲んでいるのも楽しいのだけれど」
「そうだな――じゃあ、少し冒険しようか」
俺はちょっと前から考えていた場所に行ってみたかったのだ。そこはこのゼナの町の北東の海岸にある。イル教暗部によって報告されたところによると、俺をさらう計画を立てていた盗賊たちはそこを根城にしていたこともあるという。
「え?」
「ああ、心配はいらない。俺とプララがいれば死なないから、付き合うだろ?」
「どこにいくのさ」
「北東海岸の海鳴りの洞窟」
「海鳴りの――って盗賊たちの巣窟じゃないか、どうする気なのさ、殺されるよ?」
有名どころだが、今まで官憲の手が入らなかった洞窟だ。洞窟だから大軍を展開することもできず、詳しい地図も入らない。どこまで広がっているのかもわからず、中に魔物がいる場合もある。
もっとも盗賊の類にしてもそこそこ命がけで、誰もがそこで生きられるわけではなく、徒党を組まざるを得ない状況らしい。
「だから、死なないんだわ。俺は物理的に殺せないからな」
「――え?ほんとなの?」
「そうよ、死なないし傷つかない。だから観光気分でいいのよ」
レティがパリスの肩をたたいた。
「僕たちも?」
「大丈夫ですよ。基本的に盗賊たちは私を傷つけられませんし、私の精神魔法をレジストできる方が盗賊ごときにいるとは思えません」
ちょっとダンジョンへ。それが今の俺たちには可能だ。
「じゃ、じゃあ、行ってみようかな!」
パリス君の初めてのお使いならぬ、はじめての洞窟探検である。
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浜辺を1時間ほど歩いていくと岩場があり、そこに入り口はあった。
海鳴りの洞窟は、洞窟内から吹いてくる風が笛の役割を果たし、その洞窟の周りでは年がら年中ヒューヒューと音を立てている。
俺は腰にモノホシを差している。プララはいつものように指に魔道具、レティは刺突剣。パリスは不安がるのでラウンドシールドとタガーを持たせた。
「連携の確認な。洞窟の中では俺のそばが一番安全。オフェンスはプララ。ディフェンスは俺。戦ってみたかったら前に出てもいいけど、慣れない殺しはお勧めしない」
「殺し?!」
「まあ、なるべく殺さないようにプララのホウオウゲンマケンで精神をボロボロにするだけの簡単なお仕事をしていく予定。それでもいざとなったら俺は躊躇なく盗賊を殺す」
でも、慣れてないと心に来るから、見学程度にしておくといいぞ、と俺は付け加えた。
「そういいながら、ライトはザックザク殺しちゃうので、ホントに自重しましょうね」
「あーい」
答えて俺は笑う。
洞窟の入り口は閉鎖されていない。さらには人工的な階段までつくってあり、海底下の洞窟まで続いている。幅はすれ違いが義理可能なレベル。
前にプララとレティが並んで歩き、間はパリス、最後尾を俺が警戒していく形をとった。これなら万が一にも人質に取られたり、連れ去られたりすることがない。
パリスが、「なんでプララさんが前で、ライトが後ろなの?」と純粋で率直な疑問をはさんだ。「殺さなくて済むからだ」と、俺は答えた。
俺は基本あまり容赦ができない。その点プララのホウオウゲンマケンは多対戦に極めて向いており、敵を出合い頭に昏倒させることが可能だ。
さらには一番不意を撃たれる可能性があるのは後ろだ。俺ならそれに対応できる。
洞窟を評価しながらそこそこ慎重に降りて行った。。
岩肌はぬめりとしており、湿気がある。しかし、風が通っているために湿度はあまり高くない。
薄い暗闇はプララが作り出した淡い光に頼って進んでいく。あまり大きな光は敵に先手を許すから、小さいが指向性の高いライトにしてもらっている。
人工的に作られた階段を下りていくと、少し広いところに出た。若干高さもあり、4人が並んで歩いても余裕だ。学校の廊下程度の幅、と言ったらわかりがいいだろうか。
なおも進んでいくと、道が二手に分かれていた。
「右。そちらに人がいる。行ってみよう」
俺はぼそり、と呟いた。
「なんで人がいる方に行くの?」
「「「面白そうだから」」」」「だ」「ですよ」「だと思うわよ」
パリスの言葉に3人の言葉がハモった。
「あ、3m先に罠。左壁に沿って行けば大丈夫――」
俺は評価して発見した罠を一つ一つ攻略していく。もちろん発動させても全くダメージはないが、無駄はいらない。
さらに分岐を右、右、左――と進んでいく。
「ダンジョンだな、これは」
俺はつぶやいた。俺にとってはまったく迷宮にはなっていないが、全くわからない人が入るのは確かに二の足を踏むだろう。
「次30mいくと前室がある。そこに6人ほど詰めている」
光を消してなるべく足音を立てないように歩いていくが、パリスの足がガタガタと震えているのが分かる。
まぁ、いいか。楽しい演出をしていこう。
「こんにちは!」
のこり15mになったところで俺は奥に向かって怒鳴った。
「え?」といった顔をしてパリスは振り返る。俺はニヤッと笑って見せる。
奥では突然かかった声にガタガタっと音がする。
「誰だ!」
「通りすがりの正義の味方です!」
俺は後方を評価して人がいないことを確かめると、「ライティング頼む」とプララに言った。
ライティングの魔法によって作られた光の玉が男たちの真ん中より上に発現し、そのまま止まる。評価通り6人。詰め所は10m×10mのほぼほぼ正方形の室内だった。
「なっ」
「通りがかりの正義の味方はいりませんか?」
男たちは一瞬怯んだが、俺たちの姿を認めると安堵の表情を見せた。
「んだ、ガキかよ。おっほ、お前、めっちゃ可愛い女の子連れとるなあ!」
「いや、それは認めるけれど、俺は正義の味方なので、盗賊のみなさん投降してくれませんか?」
俺は笑いながら一歩前に出た。手にはモノホシをもう抜いている。どうしようっかなぁ。
「投降?なんでだよ。女の子二人を手に入れて売り払えば大儲けじゃねえか?お前も奴隷としてキプチャにでも売り払えば一石二鳥じゃねえの?」
「そうですねえ。今、投降すればとりあえず今の命は保証します。捕まった後もなるべく恩赦が出るように、縛り首は待ってもらい、労働奴隷くらいで生かしてあげないこともありません。これでもそこそこ顔が利きますから」
俺は少し前に出てモノホシを突き出して「まぁ、でも死にたければ、前に出ていただければ――」と言った。
「ああ?!前に出たら何だってん――」
はい一人。一歩前に出たので、素早く距離を詰めて頸動脈を切り飛ばして絶命させる。
「なっ――」
「あ、やっぱり殺しちゃった。パリス、怖い?」
俺がふりかえってパリスを見ると真っ青な顔してこちらを見ている。
「でも、ほら俺優しいから警告したでしょ?前に出たら殺すって。無視してきたら殺すしかないよねえ」
「仕方ないですよねえ」
と同調したのはプララ。レティですら息を飲んでいる。
「さて、ここに残るのは5人だけどどうします?俺、正義の味方ですが、皆殺しにすることを厭いません。ああ、どうぞ、お味方さんをお呼びいただいていいですよ。プララ! 1人!」
「はい!」
一番手前の男がプララの返事と同時にその場に倒れる。ホウオウゲンマケン炸裂である。
「どれくらい?」
「目覚めれますかねえ。50%程度ですけど、魔国の皆さんに比べて耐性が弱くて、魔法がすっと入っていきましたし」
これで4人だ。慌てて一番後ろの男が奥の部屋のドアをあけてそこに続く道を走っていく。
あら、3人に減った。
「お前らっ!何しやがった!?」
「悪者退治。正義の味方って言ったじゃん」
俺は剣先をそちらに向けて牽制しつつ、洞窟の周囲をもう一度評価する。というか、ほんとに広いな。サスティラの森よりもはるかに広く、続いている。
なかに住んでいると思しき盗賊は100組以上。ゆうに1000人を超している。しかし、隣の大陸や中洲にある島まで続いているため、そこそこ広めの領土にいるレベル。ゆえにぶつかることもなく、そこそこ平和裏に暮らしていけそうだ。
俺がここを選んだのは、まぁ、一番直近の盗賊の巣がここだったというだけだ。
俺はもう少し様子を見るつもりだった。目の前の3人は突然の暴力の嵐に戸惑いを隠せない様子だし、どうせやるならまとめた方が楽だ。
「お前、今、お頭がこっちに向かってるからな、お頭にかかったら一撃だからな!!」
「へえ、強いの?」
「生贄のブンド、って知ってるか?」
知らん。聞いたこともない。
「ひっ!!」
「どうしたの?パリス、知っているの?」
「さ、生贄のブンドって、あの、ザーリスの領兵10人を相手にして一歩も引かず、城壁を破壊して仲間を逃がし、領都の人たちを恐怖に陥れたあの――?!」
おお、パリス君、説明をありがとう。
「それがうちのお頭よ!」
盗賊は誇らしげに言った。
「ちょ、ライト!?大丈夫!?ブンドって、今スクールでもザーリスでも最も怖い盗賊って言われているんだよ!捕まったら奴隷商人に売り渡されるって、みんなビビってる!」
「へえ、名前付きの犯罪者なんやな。いいよいいよ、そういう方がやりがいがある」
俺はにこにこしていった。
「んだと!?お前、ブンドのお頭が切れたら、お前の命はねえからな!」
「いや、もう切れなきゃだめだろ。俺たちもう二人やってるぜ?」
言って笑う。
と、同じくらいでガチャガチャと音が近づいてくる。評価で探る。18人か。あら、これでフルメンバーか。合計22人。二人やっているから24人。
ずらっと並ぶザ・盗賊の皆さん。急いで駆けつけてきたためか、みな軽装備。
まあ最も、重装備であろうと、軽装備であろうとあまり関係はない。俺の刀“モノホシ”はプレートメイルを両断することができるし、プララのホウオウゲンマケンは装備は関係ない。
――そして姿を見せるブンド。
でかい。
2mを超える巨体。魔国の学校の先輩、オーガのテムジンのような肉体だ。左右の手にフランチェスカを持っている。筋肉がオーガのように膨れ上がり、たしかに強い力を感じる。
――人間にしては。
「殴りこみにきたガキというの――」
「俺だよ!」
俺はその声に全力で評価:恐怖を乗せる。対象は盗賊。ブンドを除いて。
生々しい恐怖をダイレクトで叩きこまれた盗賊の皆さんは、お頭であるブンドを残して全員がその場に崩れ落ちて蹲り体を震わせた。戦意喪失だ。
「で、ブンド。言い残すことはあるか?」
答えは聞いてないよ。
続きました。
7歳のころは領主の息子であるパリスに、友人だけれど分をわきまえて「パリス様」と言っていた主人公ですが、今や階級も社会的な立場も上になったので、今後は普通の友人というか普通の義兄弟になっていきます。
さて、第35話。思ったよりも続いているのは自分が楽しいからですね。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマークが増えると、なんて素敵なの!と叫びたくなります。ありがてえ、ありがてえ。。。




