運命の歯車に喧嘩を売っている妹の第34話
プララが閣僚や官僚の前で近衛兵を圧倒し、ミド21世を恐怖に陥れたことは、そこそこのレベルでの箝口令が敷かれた。
その後、その日のうちに、神託の御子がアッティラ帝国出身であることが発表された。さらには、それに伴い功績があった3家の陞爵と叙爵、第3王女エンデの神託の御子に降嫁が決まったことも併せて発表された。
その中で、神託の御子の許嫁でもある魔国とエルフの王女であるプララ妃と、アッティラ帝との歴史的な会談が成功裏に終わったことも発表されたため、キエサル大陸の真の平和はなされた、と帝都ララミスは盛り上がった。
これらはその魔国の王女のプララの力に肝を冷やした閣僚や官僚が、一斉に情報を流したためである。レティ曰く「これなら偉い人たちで父さんの叙爵に反対する人もいないでしょ」とのことだった。
帝都2日目の朝、俺とプララは帝都のそこそこ大きなカフェで朝食を食べていた。ホテルはスウィートを用意されたが、なんとなくホテルの従業員からも監視されている気配を感じて、ホテルを飛び出してきた。今日一日、観光をした後、明日の朝一番で帰路に就こうと考えている。
日陰にはなっているが、オープンカフェは少し暑い。だが、俺は違う汗をかいていた。
「しかし、本当に王女を紹介されたな――」
「ええ、いやですけど、仕方ないです」
「謝ることでもないんだけれど、すまないって思いはあるんだよ」
プララは、そう言った俺に、にっこりとした表情を向ける。でも笑顔の中のプララの瞳は笑っていない。
くどい、とでも言いたげな視線だ。彼女は言わないけれど。
「俺、そんなこんなで侯爵か」
「まあ、他国の王に位を与えるのはマナー違反ですけど、出身国からの栄誉称号ですから、いいんじゃないですか」
――うん、と呟いて俺はコーヒーを啜った。
昨日からプララの機嫌が悪い。ほんとに機嫌が悪い。ここは耐えるしかない。プララにしてみたら、師匠から覚悟を決めておけとは言われたが、寝耳に水に近い話。
ごく一般的な男としては、エンデ王女に興味がないわけじゃないが、恋人の機嫌は何にもまして大切。特にプララはただの恋人ではない。戦友であり、相方であり、運命をともにしている相手だ。
うん、一言でいえば、機嫌が悪いと居心地が悪いのだ。
「お兄ちゃん!プララもおはよう!」
「おはようございます。レティ」
オープンカフェの俺たちの座席にレティがやってきて腰を掛ける。
「奢ってよ、侯爵様」
「はいはい、好きなもの食べろよ」
「ありがと、紅茶とサンドイッチをお願い!」
面倒くさそうな顔をしてみせたが、レティがいればプララは不機嫌なオーラを出すわけにはいかないだろうと俺はもくろんだ。
「レティ、不機嫌になってもいいんだよ?」
「え?なんです?プララ」
「プララのことだから、お兄ちゃんの新しい婚約について文句も言わずにがまんしているんじゃない?」
いや、さっき言ってましたけれど。めんどくさく蒸し返す奴が現れた。完全に当てが外れた。
「ええ、でも仕方ない、というか」
「あのね、正直、お兄ちゃんの価値が分からない奴を義姉さんとは言いたくないのよね」
レティは出されたアイスティーをグッと呷って机にドンっと置いた。
「だからちょっと怖がらせて降嫁をやめさせようと思ったんだけど、プララを本気で怖がってしまって、こんなに発表が早くなるとは思わなかったわ」
「あのプララの魔法1つで数万の大軍に匹敵するからな」
「誰でも使えるの?」
「いや、膨大な魔法力、つまりプララくらいの魔法の総量がなければ、数万を相手にするのは無理。通常はせいぜい1人か2人程度だろうな」
俺はちらっとレティを評価した――相変わらず読み取れない。
「ありがとう、レティ。でも仕方ない。仕方ないと割り切ろうとしているところだから、大丈夫よ」
「ん、そうね。人生は割り切ることが必要ね――ん?」
プララが顔をしかめる。
「お兄ちゃん、今スキルを使った?」
「――ああ、使った」
俺はギョッとしたが、正直に答えた。
「やめて。チカチカするのよ、それ」
「わかった。すまない」
チカチカしているという表現はされたことがないが、そういえばイルのお婆様に同じようにたしなめられたことがあったな。
「で、何か見えたの?」
「見えない。8カ月からお前の評価を見ているが、見えたことがないな」
「え?――8カ月?」
――と、失言だったかもしれない。
「ああ、実のところ、俺がスキルを使えるようになったのは8カ月くらいだったからな。ハイハイができるようになったのがそのくらいだから、間違いないだろ」
「変でしょ?それ」
「――ライト」
プララが居ても立っても居られないかのように声をかけてきた。
「なるほど、お兄ちゃんの天才性はそこにあるのね」
「――レティ、失言だった」
「ふうん、まあいいわ」
レティはそういって考えこむように黙った。
レティの評価が見られないのはなぜだろうか。幼いころも同じように感じたが、それは幼さによるものであろうと思っていが、そうでないことは今ならわかる。
今の世界で読み取れないのはイル教主のお婆様、プラローロ師匠にプララ。あとはジャロロ=ジャロ、そしてレティ。お婆様はサンスースの加護、師匠とプララはアイテム、ジャロロ=ジャロは不明だが、自分の意志で行っているようだ。
レティはパッシブ。生まれたころから、読み取れない。
「おかしい」
つい言葉が漏れた。
「それはあたしのセリフだけど」
「いや、レティ、やっぱりお前、おかしい」
俺は覚悟を決めた。やはり気になる。
いや、人外という言葉を借りるならば、レティのそれはまさしく人外の能力だ。神聖魔法という攻撃的でない魔法適正のために見逃されているが――ん、見逃されている?
もっともレア系の魔法適正のSランクが、見逃されるってなんだ?
「は?なにそれ?」
「ちょっとライト、唐突ですよ?」
「お前はなんで見逃されているんだ」
そうだ。見逃されている。世界から。運命から。
世界とは運命の歯車を回転させて動いている。
今、こうして、ここにいるのも、努力もしたが、運命の導きによるものが多い。それは運命がすべてというわけではなく、「力が強ければ人に頼られる。その力が大きければ、頼られる数も多くなる」という原理原則は間違いなく存在する。結果、それは運命と言われたり、使命と言われたりするものになる。
「その力が強いほど、その者に役割を与えるのが世界だ。俺も、プララも、師匠も、アッティラ帝も、リャララ様もそこから外れていない。ただ人たる父さんですら、その運命の中で生きている。お前に何も与えられていないのはなぜだ?」
「なによそれ。お兄ちゃん、あたしに喧嘩売っている?」
俺は頭を振った。
「ちがう。お前ほどの人間が、なぜ何もなく生きているんだ?」
「言っている意味が分からないんだけど」
「なぜおまえは何も与えられていないのだ?」
「スクールの生徒会長だけど?」
お前は何もやっていない、と俺の言にやや膨れた顔をしてレティが答えた。
「――なるほど、わかります。なぜそれだけで済んでいるんですか、ってことですね」
「プララまで、なにがいいたいの?」
俺がもったのは7歳までだった。どうしても隠せなくなる瞬間がやってくるものだ。その力が強大であればあるほど。
「つまりだ。お前は神聖魔法Sランクで、このライト=サリスの妹だ」
「そうね。それが?」
「なのになぜ、誰もお前に触れてこない?なぜサザーリン伯の3男の許嫁で、スクールの生徒会長程度ですんでいるんだ。能力がある。主張もする。コネはある。表舞台にも出ている。なのに、なぜだ?」
世界を変える力を持っているのではないか?
「昨日だって、レティの言葉にみんなが従っていたのに、なぜレティはそれだけですんでいるの?ってことですね、ライト」
「ああ。圧倒的な才覚を示しているのに、だ」
「お兄ちゃんとプララが人外だからじゃないの?」
レティは俺たちを交互に指し示しながら続ける。
「お兄ちゃんのインパクトはとんでもないわ。イル教のできた理由とか、もうなんていうかとんでもないじゃない。レティにしてもジャロロ=ジャロの再来にして、極大消滅魔法を発現させるのよ。インパクト勝負であったら、完敗よ、あたしなんて」
そう、その路線も考えられる。しかし、だ。
「でもな、たとえば、お前は今すぐにでも後宮入りが検討されてもおかしくない。パリスも悪い奴ではないが、そことくっつけておくよりも後宮に入れた方が安泰だ。だが、全くそんな話はなかった。さらにいうならばイル教はなぜ、お前に手を出さない?」
「それはプラローロさんが、いってたじゃん。お兄ちゃんに怒られたくない――って」
確かに言っている。俺が師匠を最初に召還した時の話だ。
「それだけか?師匠がそんなことで奇貨たるレティを捨て置くか?通りすがりのオーガを弟子にしてしまうほどの人だぜ?」
うーん、と俺は頭をひねる。なにかある。だが、真相に届くにはいくつかピースが足りない気がする。
「妄想よ、それら。自分が運命に翻弄されているからって、あたしまで翻弄させる必要はないと思うのよ。まぁ、あたしはいいわよ。考えてみれば、うちも準男爵家となったわけだから、パリスをうちに婿入りさせて、後を継がせれば問題ないでしょ?豪商の準男爵家の女将、ってくらいが、あたしにはちょうどいいのよ。のんびりした人生最高」
「そうか。そういうものか――」
妄想、と言われればそうかもしれない。
――それだけでは語れないことがある気がするんだよなぁ。
「運命とか思い始めたら心が病むわよ。これでも、まぁ、そこそこブラコンだとは思っているんだけれど――」
そこそこ、であるといいなぁ。
「そのブラコンの対象である兄は、突然、なんかすごいことになっているし、恋人がすぐにできるし、ついにはこの国の侯爵位なのよ。お貴族様の中のお貴族様。帝の娘がさらに降嫁してくるなんてありあえないほどよね。運命?そんなもの、あたしがお兄ちゃんの双子の妹である時点で、ぶっ殺したいわよ」
ふっと唇の片端を持ち上げて力なく笑う。さすがにプララも俺も居心地が悪い。
「だからね、いい、お兄ちゃんにプララ。あたしはいくらすごくても、どんな人物でも、自分は生まれの時点で運命に喧嘩を売られている存在なのよ。だから、気にしないで、私はこの運命を睨みつけながら生きていくから」
レティはそう言って、ふっふっふとすごい顔で笑った。
黒を語りたいときは白を語れ、という物語の原則は難しいです。
ゴールデンウイーク、楽しんでますか?
私はなろう小説を書く、という最もお金のかからない趣味に時間を費やしています。
さいこうだ!
後半は子供たちを別荘にジジババが連れて行ってくれるので、今から書くぞーって思っています。
さて、ここまでお読みいただきありがとうございました。
よろしけばブクマとか評価とか感想がいただけたら嬉しく思います。




