もつ鍋パーティは恋を育むか?な18話
俺は、集めた調味料を眺めてどうやってもつ鍋を作ろうか考えていた。
塩、胡椒、山椒はある。ワサビは見たことがない。唐辛子系もある。醤油、味噌といった麹菌を利用した発酵食品はない。チーズなどは当然ある。
味噌系のもつ鍋のおいしさは筆舌に尽くしがたいものがあるが、ないものは仕方ない。麹をどこかで見つけたら作成したい。
モツのトマトスープ煮かなぁ。
「トマト鍋にしようかな」
「トマトですか。私好きですよ。でもあれってサラダとかじゃないんですか?」
「いや、煮込むとこれはまた上手いよ」
料理の味が追及されない世界。変わったモノよりも「いつもの」が大切にされる世界がこの魔王国である。エルフ自治領もさほど変わらない。
俺も基本的には料理の味とかに拘りはない。出されたものは食べる。安全なものは食べる派である。
ただ、美味しいものは人を幸せにする。幸い、相当量のモツや内臓部位が入ったので、食べ方のレクチャーも兼ねて親睦会を考えていた。
参加は自由。黒猫のメンバーや友人くらいにしか告知はしないが、別に来るものを拒むつもりもない。
男子寮と女子寮は向かい合って立っているが、その間には広場がある。俺はここに簡易のバーベキューコンロを作成した。レンガで囲って鉄板を乗せただけのものだ。
ここに寮の食堂から寸胴鍋を借りてきて、ワイルドボアの腱をざく切りにしてぐつぐつと煮込んでいく。
「浮いてきたなんか脂身みたいなものは掬ってとっていいんです?」
「ああ、とって。基本灰汁やそう言ったものはしっかりと取るんだけど、まあ、取れる範囲でいいよ」
そんな指示を出しながら野菜をザックザックと切って突っ込んでいく。まあ、そんなにむきにならなくても、いい加減にやってもおいしいものができるのが鍋のいいところだ。
モツもさらに洗ってぶつ切りして放り込む。脂がグッと浮いてくるのでそれも丁寧にとる。塩と胡椒とざく切りトマトをさらにぶち込んでコトコトコトコト。火から離して少し落ち着かせる。
空いた時間で脇で腸以外の内臓を塩と胡椒で簡単に焼いていくと、辺りに何とも言えない香りが立ち込めてくる。
「これは美味しそうな匂いだな」
と、体をゆすりながらやってきたのは魔帝ことテムジン。
「テムジンさん、なかなか美味いと思いますよ」
「内臓か。珍しいものを調理するんだな。いや、俺たちオーガは内臓も食べるが、好んでは食べないもんだぞ?」
「血とか失った後にこの部位なんていいですよ」
と俺はちょうど焼けたレバーを差し出した。
「やめろ、少しトラウマになってんだから」
といってレバーを受け取って口に放り込む。
「うまいな――臭みがない」
「ああ、下処理しっかりやってますから。なあプララ」
俺は下処理をやってもらったプララに話を振った。
「ミルクで臭みが取れるなんて、私は知りませんでした」
「いや、これはいい」
満足そうにテムジンはレバー食べる。
満足してもらえたようでなにより。
その後、ワラワラと人が集まってくる。
「どなたもどうぞ。そこそこ量はありますから」
黒猫のメンバーはもちろん、俺が独自に呼んだ知り合い、友人たちも来ている。
お、野盗まがいなことをして俺たちに殺されかけたバッツ達7人も来ているじゃないか。
「やあ、バッツ達も来てくれたのか」
「はい、お相伴に預からせていただきます」
「遠慮せずに食べてってくれ」
「はいっ」
モツ煮込み使わなかったモツも、野菜に絡めて炒めて塩コショウで味付けをすると瞬く間に消えていった。
「プララ、ほんと美味しいわ」
「私もライトから食べるって聞いたときは半信半疑だったんですけどね。とっても美味しいです。」
シュシュトリとプララが談笑をしている。その周りでは女子寮の面々も集まってきている。4,5回生は女王ではないため、実質この二人が寮の代表である。4,5回生の女子の中には妬むものもいないわけではないようだが、「力こそ正義」の風潮がそれを表面化させない。
ついでにシュシュトリは先輩を上手に敬っているので、プララもそれに倣ってうまくやってもらえるといい。
それにしても思ったよりも人の出が多い。
――ちょっと肉足りないかもしれないな。
まあ、いい。うまいものをつまんでお喋りして、仲を深めていく。それが重要だ。
俺も摘まみながら、シャララや他の1回生、2回生と親交を深める。顔を覚えるのが昔から苦手で、それはこの肉体でも変わらないようだ。まあ、それでも、言葉を交わしていれば向こうの印象は良くなっていくだろうから良しとしたい。
「ライト、そろそろ、こちらも落ち着いたんじゃないかしら」
火から降ろして1時間ほどたった。味も沁み込んだに違いない。もう一度鍋を火にかける。
「うわぁ」
誰かが声を上げたが、ほんとうにそんな声が漏れるくらい食欲をそそる匂いだ。
「これはもつ鍋といいます。内臓を使った料理ですが、美味しいのでぜひどうぞ」
俺が声をかけるとみんなが椀をもって殺到した。大量に作ったので、まあ、なんとか配り切れそうだ。
「はあぁあ!!うまあい!」
と、声を出しているのはラビとキャスだ。どうやら二人とも仲が良くなったらしい。死線を共に乗り越えて飯を食ったら仲良くならない方がどうかしている。
「これは、ほんと美味しいですねライトくん。」
「でしょ?ジャリリさんも昨日、ずいぶん死んだんですからしっかり食べて精をつけてください」
「あ、ええ、あんなに死が軽い状況はそうはないですよ――」
「でしょうね」
俺は頷いた。実際死んでいるわけではないのだが、死ぬ直前の事切れた瞬間、師匠のアイテムによって命が全回復するということを繰り返す。
師匠曰く、「死ぬ間際がもっとも効率がいい」だそうだ。
「でも、ライトくんの最高死んだ記録を聞いたら、もっとゾッとしてね」
「ああ、それはもういいです。思い出さないことにしています」
「その気持ち、わかりますよ」
ジャリリは力なく笑う。
「でも、確かにプラローロ様の指導はすごい。テムジンさんも体に流れる魔力の流れが変わってますよ。無論、僕も変わりました。一日で一年くらいかけてもたどり着けないレベルの向上があります」
俺は心の中で精神と時の部屋と言っていたので、ジャリリの言葉がとてもしっくりくる。
「師匠の指導は一流ですよね、地獄ですけれど」
「ああ、同感」
「で、師匠はとてもいい人なんですよ。面倒見もいい。そう、面倒見がいい、という意味が分かりますか?」
俺はジャリリに意地悪く笑って見せた。ジャリリは思い当たることがあるようだが、首をフルフルと横に振った。
「二人はもう弟子扱いですからね、たぶん。帰省とかでエルフ領に戻るときは付いてきてもらいますからね」
「やめてください――いや、ホントやめてください」
色白な顔が真っ青になっている。
「まあ、今のうちに精力と実力をつけましょう。ここ最近、自分は死ななくなったんですよ」
俺はもつ鍋を一口すする。
ああ、上手くできた。トマトの酸味も柔らかく、野菜から出た甘みが口の中に豊かに広がる。そしてモキュモキュとワイルドな歯ごたえのワイルドボアのモツ。これが野生の猪のモツか、と感動する。
「美味いわ――」
つい声を上げてしまう。俺は顔を上げて辺りを見回すと、みんなが俺の方を向いてうんうん、頷いている。
美味しいものを食べるとみんなニコニコした顔になるのがいい。
そこでハープを持ち出したシュシュトリが、緩やかなバラードの曲を奏でて歌を歌い始める。
とてもいい。暮れかけた空に星が出始めて、オイルランプの柔らかな光が広場を包んでいる雰囲気と、シュシュトリの声がマッチして独特の雰囲気を醸し出す。
――故郷の空を懐かしく思う。友は、親は元気にやっているだろうか。自分は元気にやっているから心配しないでほしい――
シュシュトリの歌詞の意味に気づくと、1回生の数人の瞳に涙が溜まっていく。それはなんとなくあたりの空気にのって伝染していく。
うん、6月の試験休みには、プララを連れて一度ゼナの町に戻るのもよいかもしれないな、と思う。
シュシュトリが歌い終わると、辺りからは割れんばかりの拍手が鳴り響く。
「ありがとう!もう一曲引かせてもらいます。今度は明るい曲なので皆さん、踊ってくださいな」
テンポが速くでも流れるような曲。
俺はプララの手を取って軽くステップを踏みながら踊る。周囲も不器用に男子が女子をさそって踊り始めている。
やっぱり、男子と女子が会して飯を食べるのは良い。昨日の新歓とは違った盛り上がりのある夜となった。
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こんこん、と俺の部屋がノックされた。
「だれだ?」
「私だ、シャララだ」
俺は「どうぞ」と声をかけるとシャララが入ってきた。
祭りのように盛り上がったので、その終焉を少し寂しく思いながら片づけをした。部屋に戻ったら、消灯まで1時間なかったので、手早くシャワーで汗を流して、無刀で型の繰り返し練習をしているところだった。
「美味かったよ、ライト」
「だろ?」
なんだかそんなことを言いたくて来たわけではなさそうだ。モジモジしている。
「あんな、内臓の食べ方があるんだな」
「ああ」
俺は適当にジビエ料理の話をしていたが、シャララは曖昧な返事を繰り返している。
「あれはコンソメ・ドゥ・ジビエというスープを作ったんだが、あれのコツは――」
「へえ、そうなのか――」
「鳥だともっとあっさりしていてな」
「おう、なるほど――」
ずーっと生返事である。だが、もちろん、この年頃のプロフェッショナルとしては彼が何を話しに来たかわかる。
当たり前に女である。
プレ思春期を迎えて、男と女の差が気になり始めて、恋人がいる同級生がいるのである。そして決定的なのは今日、女子の手を握ったこと――。
「んで、誰が気になったんだ?」
「――へ?」
シャララは間抜けな声を上げる。
「いや、どうせ何人かと踊ってたんだろ。で、お前、気になる子ができたんだろ?」
「ちょっとまて!!何で知っている??」
「いや、分かるだろ、で、誰?」
シャララは逡巡し、目を上に向けて下に向けて、俺を見つめて「秘密だが」と言った。
「4回生の人だ。15歳って言ってた。名前はピリン=ピリャという妖魔族の人」
「年上じゃん!」
「なんか可愛い人でな、なんどか踊りながら躓いて、あ、それで、こう、なんか胸が私にあたるんだよ、よくわからんのだけど、なんかもうこう、いてもたってもいられなくて、顔も熱くなるし、すごいいい匂いだし」
ほほう。面白い。
「私は焦りながら踊っていたんだけど、ピリンさんもなんかずっと焦ってて二人で体がぶつかっては笑ってたりして」
「へえ」
「それでな、踊り終わったら『とっても楽しかった、また踊りましょ』と耳元で言われてな。これなんだ?なんかすごいな、ドキドキが収まらない」
これは完全に狙われているな。シャララは純血魔族。この魔国でも貴族と呼ばれる地位にある。この学校では関係ないが、シャラ家の嫡男ということは将来貴族官僚としての地位が約束されているはず。
しかし、そのピリンの狙いも悪くない。見目もいい、能力も高い、家柄もいい。ここで唾をつけずにいつつけるというのか。魔族は一夫多妻だというから問題もなかろう。
「それは、いや、いいじゃないか。お前は名門の頭領になる男。恋はたくさんした方がいい」
「そ、そうなのか?」
「どんな人だ」
「ああ、体が柔らかくてな――」
俺はシャララの惚気に似た話を聞きながら、今度プララに話を聞いてみよう、と心の中で思った。
料理の話は書いていて楽しいですね。




