適材は適所に収めるとよいのでは、という17話
次の日からは普通に授業がスタートした。
1年生は1クラス35人前後の4クラス。俺はA組でシャララがB、Dにプララとなっている。クラスは能力の均等割りのようだが、俺とプララがいるだけですでにもうバランスは有名無実になっていた。
今日のカリキュラムは語学、歴史、体術、サバイバル実習。一週間の科目は前述の4科目に生態学と自然学、算術に魔法体系の計8科目となっている。前世で指導要領と睨めっこするのが好きだった自分としては、とても興味深い。
語学は簡単な読み書きが中心。担当教員が言うには5年生の頃には、公文書の読解と公文書体で文章を書けるようにする、とのこと。魔国の官僚や実力者を輩出するのが役目であることを考えれば、まあ、当然か。
「さ、昼めし食ったらギルド行くよ」
4時間の授業があっという間に終わり、昼飯を魔校の学食で肉野菜炒め定食を食べながら、プララに言った。
「依頼を受けるんです?それともチェック?」
「どっちも。1日目くらいは顔を出したいし、さっさとCランクに挙げておきたい。いいだろ?」
「もちろんです――」
今日は春の陽気を感じさせる暖かな良い日和だ。散歩がてら森林もチェックしておきたい。
飯を食べ終えてギルドに向かうと、1年と2年がすでに溜まっていた。
「あ、キングとクイーン!」
そう言って駆け寄ってきたのは淫魔族のミラー・キャスである。幼児体型だが、常時発動させることができる催淫魔法が強烈で、あまり人が近寄らないようだ。生活している間は切っているようだが。
「よ、キャス。その様子だと組む相手がいなさそうだな」
「そう、いないんだよー。私、狩りとか向いてないからさあ。」
「ミラーさんは、もう少しランクが上がってゴブリンやオークとか多少なりとも知性がある相手を対象にするといいんですけどね」
催淫魔法は知性が高いほどかかる。淫というが、エロい気持ちになるというよりもエロい気持ちをバックドアにして相手を操る魔法だ。知性がなければただの本能と欲求だ。効かないことはないが、効果が薄くなる。ちなみに闇魔法と水魔法にその特性魔法があることが多い。
「プララの言う通りだが、なによりも決め手に欠けるのは痛いな」
「なんかおススメの決め手ない?私に合う感じのやつでー」
「魔法は門外漢なんだよな。んでも、体術なら刺突剣。催淫で鈍った敵をブスっと。これなら力がなくてもやれるし」
俺は空手で刺突の型をやって見せる。
「そうか、いいね! 魔法でなくていいんだよね」
「あとは、そうですね。兎人族のラビさんとかと組まれるといいかもしれませんよ?」
プララはギルドの掲示板に見入っている耳の長い兎人族のラビを指しながら言う。強い奴と組むのではなく、採集系の任務を主とする民族と組ませる。ん、と俺は考える。
「なんでー?」
「ラビさん達は危険感知がものすごく高いんですよ。でも、いつでも危険から逃げられるわけじゃない。採集に集中してたりして、探知に失敗するかもしれない。そこで、常時発動型のミラーさんの催淫魔法があれば、敵の動きは鈍くなる。つまり彼女たちはより確実に逃げられるようになる。PTを組めば、報酬とポイントはちゃんとミラーさんにも入りますよ」
なるほど。それはWIN-WINだ。
「いいね!!さすがクイーン!」
「プララでいいですよ」
「じゃ、私もキャスって呼んでよー」
「いいわ、キャス。じゃあ、ラビさんに話に行きません?」
「いいね!いこう!」
と言って二人でラビのもとに向かう。ラビは一瞬ひるんだ顔をしていたが、プララに説明を受けて耳を大きく振って頷いていた。
「オッケーですって」
「ああ、いい案だな」
「キャスは女子寮でもちょっと浮いていて、悪い子じゃないのは分かるんですけど、淫魔の特性に対する恐れと、あの男子にも親しげに接する感じがどうも嫌われやすいというか」
ああ、この年頃の女子らしい反応だ。年が上がれば、それは苛烈になるかもしれない。プララの提案は彼女を女の子の輪に入れるという意味では、とても正しい。
「まあ、あの子は女の子と混じってくれていた方が、私の方も安心ですし」
と言って、俺の腕を取り、下からにやっとした笑いを俺に向けるプララ。
「ま、まあ、なんにせよ、俺たちも依頼こなそうぜ」
「ええ!」
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キンッと高Hzの音が鳴ると、ゆっくりとワイルドボアの首が落ちた。1.5mを超える大物だったが、一度目の突進で俺のモノホシの切り上げによって死に至る。
「さすがですねー」
「こいつは大きいわ。良かった、アイテム袋のレンタルしてきて」
俺は血抜きの終わったワイルドボアの解体をしながらアイテム袋を出した。ちなみに修業期間には嫌というほど解体したので、食肉解体は得意だ。
「でも3時間で銅貨10枚はそこそこ痛い値段です」
「100㎏まで入るけれど、肉だとあっという間だな」
毛皮と肉、それから牙と内臓を入れると一杯だった。アイテム袋の中は異空間なので、外に血がにじんだりしないし、重さは袋そのものの重さしか感じない。
「あら、内臓と腱まで持って帰るのですか?毛皮と肉と牙だけでしょう?依頼は」
「ああ、ちょっと思い出してね。内臓料理をを作りたくなったんだわ。修業の時も食べてる余裕はなかったし」
「ええ?! それ食べるんですか?」
プララは眉を顰める。
「いやいや、これ上手いんだって。ちょっと下処理で洗ったりしなくちゃいけないけれど、絶対旨いから」
ほんとですか?というような眼を向けたが、それ以上の突っ込みはなかった。
俺はサスティラ森林の林道から10mくらい下った河原に降りると丁寧に内臓を水に晒して洗った。ゴッシゴシと手で揉みあらう必要がある。内容物なんかはもちろん、ちょっとした血なんかも揉みしだき川の流れで洗い落とす。
「すごく楽しそうですね」
「あはは、楽しいな。美味しいものは作ってる時も楽しいんだよ」
しっかり洗うと白い色になってきたので、満足して再びアイテム袋に収納する。
――と、近くで人の声が聞こえた。
「いやぁ、たくさん採れました!キャス!!!」
「ラビ、採れたね!タマル草!さすがの私も覚えたよ!」
林道の方から聞こえた声はキャスとラビだ。低位のポーションの材料になる薬草だが、需要は高いタマル草の採集か。
俺が「おーい」と声を掛けようと思った時だ。
「なに?!」とキャスが声を上げた――と同時に「シーっ」とラビが窘める。
瞬間的に飛んでくる催淫系列の魔法――催淫魔法ではなく、ビーコンを打つような探索魔法のような感じだ。
「ああ、大丈夫、これたぶんライトとプララだよ。」
「おお、正解!」
俺は声を出した。
「キングとクイーンですか。良かったです。」
ラビの安堵の声が聞こえる。
「お疲れさん!夜に女子寮と男子寮の間の広場での前あたりでちょっとした料理やるから食べに来いよ」
俺は河原から上の方に居る二人に声をかけた。
「うん、ぜひ!もうちょっと採ったら私たちも帰るねー」
「気を付けてくださいねー!」
と返したのはプララ。しかし、あの二人はそこそこいいコンビのように見える。派手さはないだろうが、あれなら十分に安全は確保できるだろう。
俺たちはちょっとホッとしながら、街の方へ向かって歩き出した。
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「お、さっそく狩ってきたか。おお、いいな。肉は1.5㎏あたり銅貨1枚で56枚、毛皮はこのサイズなら銅貨3枚というところか。牙は、まあ、そうだな6枚。しめて65枚だ。で、アイテム袋のレンタル代は10枚引かせてもらって55枚の支給だ。解体も完璧。素晴らしい」
ワギュウは嬉しそうだ。
「これなら何頭狩ってきても買い取ってやるぜ。肉の卸先はたくさんあるからな。その都度、依頼は受けなくてもいい。ちゃんとポイントも加算してやろう」
「ありがたい!そうなるとアイテム袋を自前で持ちたいですね!」
「このサイズは高いぞ。金貨で十数枚ってところだ――ん?いや、これはエルフ製品だぞ?なあ?プララちゃん」
「そうなんですけど」
プララは困ったように答えた。
「よし、貯めよう!」
俺は即答した。
俺はプララの母親であるプラローロを頼りたくないという気持ちが痛いほどよくわかった。だから自力で購入しようと提案したのだ。別にプラローロがそんなことを負担に思うとは思っていない。だが、自立のためのギルド活動で親を頼ることの意味を考えてしまったのだ。
「――そうですね!貯めましょう!」
「なるほど。お前たちは面白い。よしよし。レンタル代はかかるが、もう少し大きなアイテム袋を用意しておいてやるから頑張れよ」
「ありがとうございます!」
俺たちにも明確な目標ができた。
「よし!がんばるかあ!」
少し区切りが失敗しまして、短くなりました。




