悪・即・斬!といった感じの第12話
「5匹分の耳、確かに確認させてもらった」
俺とプララは冒険者ギルドで手続きを済ませた。
「これで2人は問題なくDランクとして認められた。これがギルドカードな」
俺たちは名前とランクが書かれたギルドカードを受け取った。
「なるほど、テストも兼ねていたんですね」
「そう、俺の目も証明されて、ホクホクだぜ」
俺たちの目の前に銅貨20枚が並べられたので、数を確認して受け取る。
「もしかして、俺たちの他にも試験を受けていましたか?」
「お、どこかであったか?」
「ええ、取ったばかりの耳をよこせ、と言ってきましたので」
「あー、それは悪いことしたなあ。アイツら素行があんまりよろしくないんだが、冒険者に対する思いは強いみたいでな。ということは、アイツらまた失敗か。」
「なんでそう思われるんです?」
と聞き返したのはプララだ。俺たちが耳をもってきているからじゃないか、と思ったが、黙って置いた。
「目は確かなんだよな。アイツらでは万が一にもお前たちに勝てないだろ。――んで、アイツらは生かしておいてくれたかい?」
冒険者の手柄の横取りは一応御法度で、そのまま殺されても文句は言えないらしい。残念ながら拘束力は弱い。まあ、ここでも求められるのは強さだ。
「先輩なので、殺しはしませんでしたが――」
「ああ、それで十分ありがたい。自分の実力も相手の実力も計れないヤツは、この稼業ではやっていけない。アイツらがまだやっていこうとするなら、とても大切な経験だった。辞めるなら死ぬ前で良かった」
なるほど、と俺は頷いた。優しいシステムだ。
「まだガキなんだから選択肢はいくらでもある。それを示してやるのも大人の務めだ。と言っても――一年生のウチから王や女王のアダ名を貰っちまうようなヤツは、選択肢を狭めてやるのも大人の務めってヤツでね」
「もう狭まっていますから、お構いなく」
「同じく――」
ワギュウは、だろうな、といって肩をすくめた。
冒険者ギルドを出て俺たちは宿屋のカフェに入る。もう夕暮れ時で、あたりは薄暗く、魔力でつけられたランプの灯りが街を照らしていた。
「俺、野豚のスープに黒パンで」
「じゃあ、私は鳥雑炊とオレンジジュースで」
2人とも料理を注文をして腰を下ろす。うん、確かに自分のお金で座るカフェはいい。金には困らないが、困るとか、困らないという話ではない。矜持の問題かもしれない。
「思ったよりも自分で稼ぐというのは悪くないね」
「あ、私も思いました。でも――」
プララは声を細める。
「前世ではお仕事もされていたんでしょ?」
「ああ、その前もしていたよ。なんというか、今回は裕福な家庭に生まれたので、そういう自活することから離れていたからね。満たされてないとわからないのが自立の大切さ、だよ」
「私は今の世界しか知りませんが、自立とか自活するっていうのは、精神的に安定しますね。頑張れば自分の力で生きられる、という強さ、みたいなものです」
俺はなるほど、と思う。
「ああ、それだな。当たり前なんだが、自分が小さいと不安が多いんだ。特に俺は、中身は大人だろ? だけど小さい。親に飯を食わせてもらわないと生きていけないのは、危険をコントロールするという面から不安がデカかったんだな」
「そうですね、なんとなくわかる気がします」
俺は世間話のように続けた。
「俺はいずれイル教主となる、――が実のところそれをアテにしたくない」
「ええ?」
「生きるアテにしない、という意味だよ。それに縛られて、もし食い扶持を失ったら死ぬ。プララに、そして俺たちの子に苦しい思いをさせる。それは嫌だ。俺は俺の力で飯を食い、家族と共にありたい。神託の御子として、なんてのは、まあ、人生のオマケだ」
プララは目を見開いて大きく頷く。
「そういう風に俺たちの人生を大切にする。それはイル教を蔑ろにすることではなく、さっき言ったリスクコントロールだ。今日はしみじみとそれを感じた。働いた後に食う飯はうまい」
「ええ、私も大切にします、ライトと私たちの家族を」
俺たちは互いにうんうんとうなずいて笑いあう。父ちゃんの金じゃなくて、自分の金で恋人と食べるご飯もおいしいんだぜ?
部屋に戻るとすっかり辺りは暗くなっていた。
それぞれが湯浴みを終え、寝床の用意をする。すると、持ってきた手紙を届ける魔道具が一通の手紙を吐き出した。
差出人は師匠。俺たちは顔を見合わせ、少し唾を飲み込んで、その手紙を開いた。
簡潔に一言書いてあった。読んだ瞬間、俺とプララの顔が火を噴く。
『おめでとう!良いプロポーズだったね!!』
「覗いている!?」
『覗いてない!』
と、手紙が吐き出された。
ヤバイわ。完全に覗かれている。
「まあ、師匠、実は俺、とっくに覚悟も決まってるんで、ほんとは大丈夫なんすけど、とりあえずプライベートは保証してほしいっすよ」
俺はプララに向かって話した。
「ほえ?」
と、プララが間の抜けた声を上げる。
「予想なんですけど魔道具に仕込みましたね?」
チーンと手紙が吐き出されて『分かった、控えるわ!!バレたみたいだけど魔道具の指輪に軽い通信装置がついているから、なんかあったら言うんだよ!』と書いてあった。
「わかりました。一応切っておいてくださいよ!」
評価:指輪――
「ああ、分かった右手の親指のアイテムがそう。魔力をちょっとずつ吸い取って音声を師匠に送るタイプなのか」
「え、全然わかりませんでした」
「ああ、昔師匠が言ってたな。プララは魔力量なら半島くらい消滅させられるって。大きな湖からコップで水をすくっても誰もその量の変化に気づかないってことか」
プララは素早く指輪を外した。
「もう、お母様ったら――」
「ああ、でもそれ出かけたりするときは付けてね。効果は音声通話だけじゃなくて、魔力の流れを整えて、暴走しにくくさせているから。疲れにくくなるし、精神的にも安定するから」
「はい、でもお母様には困ります」
「まあ、いいよ。俺たちが一緒になるのは、俺は既定路線だと思っているし、そう願ってもいる。だから、いいんだ」
「――はいっ」
俺は恥ずかしさを押し殺して、無理やり笑って納得している風を装った。まあ、師匠にモラルを期待することも無駄だ。
「この火照りを冷やしたいわ。夜風にあたりついでに、ちょっと刀振ってくるけど行く?」
「私はちょっとお母様に文句を言いたいので――手紙を書きます」
「わかった。じゃあ、行ってくる」
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外の広場でモノホシをもって息を整える。
一の型――抜刀から逆袈裟に切り上げ、足を継ぎながら両手での正面切り、血振り納刀
二の型――抜刀から横薙ぎ、足を継ぎながら両手での正面切り、血振り納刀納刀
三の型――立てに抜刀して振りかぶり正面切り、手を返して逆袈裟、血振り納刀
四の型――抜刀せずに柄で相手のみぞおちに一撃入れ、腰をひねる形での抜刀し後ろ方向を突く、血振り納刀。
などなど。一連の動きを体に沁み込むまでやる。極・極・初歩の型。ただし初歩にこそ極意が宿る、というのが俺の剣の師匠の言葉。とにかく繰り返しやることで研ぎ澄まされ、ぶれない剣が作られるだそうだ。秘匿剣「犬の顎」なんて技は、果たし合いなどで免許皆伝者の跡取りを死なないための奇襲技であり、それは『ズル』に属すほどの技だ。
とにかく基礎訓練は大切だ、という話。
「――あのさ、見られていると落ち着かないんだけれど」
俺は闇の方に向かって声をかけた。相手は気配を隠匿しているが、まだ熟練には至っていない。
「あ、すごい、分かるんだ」
俺が闇に向かって言うと、闇の中から返答があった。
「ああ、あと5秒で姿を現さなければ切る。5-4-3-2-1」
「なにを馬鹿なことを! 見えないくせにーー」
5秒立った。俺は縮地法ともいわれる足運びで、闇に隠れている人物の潜伏先まで飛ぶと、そのまま下から上に、腕を切り飛ばした。
「え―――ぎゃあああ!」
きれいに右手が空を舞う。
「警告はした。俺は暗殺者に容赦することなどないので」
血振り、納刀。
「引くか、戦うか決めろ。次は命だ。3-2-」
ヒュンッと風がなり、闇の相手は陰に消えた。良い判断だ。
俺は息を深く吐くと、足早にその場を立ち去った。良い判断だろう?
<><><><><><><>
部屋に戻るとプララがいぶかしげな顔でこちらを見ている。
「どうかしましたか?かすかに血の匂いがします」
「ああ、今、よくわからないやつに覗き見されていたので、腕を切り落としてきたんだわ」
「あら、大丈夫でした?」
「ヘーキヘーキ」
俺は部屋を見渡した。3人の男が倒れている。口から泡を吹いている。
「で、これは?」
「無理やり窓から入ってきたので、ホウオウゲンマケンでちょっと」
「手加減は?」
「する必要はありましたか?」
「ないな。俺もしない」
俺はプララの頭をポンポンと撫でると、宿の一階にいる女主人に大声をかけた。
そして同時に倒れている者を評価。あら、若いと思ったら2年の先輩らしい。3人とも13歳。へー、珍しい拳法家に神聖術師に暗器使いか。でもまあ、保安兵に引き渡しをしてもらおう。
「あ、あの、これは?」
部屋の惨状に宿主は顔を強張らせた。
「俺が席を外している間に、突然男達が窓から飛び込んできて、連れに乱暴しようとしたんです。連れは魔法使いなので撃退したんだけれど、物騒なので保安兵に引き渡しをお願いしたい」
すると女主人は少し困った顔で言った。
「――あの、申し訳ありません、この子たちはサスティラ魔校の2年生の子たちなのですが」
「だとしたら何なのでしょう?」
「毎年、入学前のこの時期に次期1年生の上位者を襲撃して――というのが、恒例らしいのですが」
「関係ありますか? 自分の恋人を襲撃するようなヤカラを私は野放しにしておけないのですが。 それともこの宿はそういう場所なのですか?」
「い、いえ、申し訳ありません。すぐ手配します――」
男たちは泡を吹いたままロビーに移動させられた。
30分ほどすると、男たちは保安兵に連れていかれたようだ。もっとも、保安兵から学校の方に引き渡されるはずだ。大したお咎めも期待できないが、その後がどうなろうが関係ない。だが、まあ、ホウオウゲンマケンをフルで食らっている。まともな精神ではいられないだろう。
それと入れ替えに、俺たちの部屋がノックされた。
「はい?」
俺が不機嫌そうに答える。ここで来るのは、後は責任者くらいだろう。
「夜分に失礼する。自分は魔学校2回生筆頭クローリストだ」
プララはドア越しに返答をする。
「なんでしょうか――」
「この部屋はライト=サリス1回生とプララ=セロー1回生の部屋だと思うが、開けていただきたい」
「プララ、夜分に、と言われるなら帰っていただきなさい」
「そうですね、お帰りください。クローリスト様。明日出直してくださいませ」
ドアの外の気配が変わる。これは怒気だ。
「なんだと――」
「なんでしょうか? その怒気はやりあう気ですか? さあ、返答はいかに。3秒以内に返答されたし。返答なき場合は、敵対するとみなして切る――」
「やりあう気はない――」
クローリストは即答した。
「分かりました。ではお帰りください」
「――まってくれ!!」
ドアの向こうの怒気が哀願に代わる。
「なにを待つというのでしょうか」
「話を聞いてほしいのだが――」
「聞く必要を感じませんね。今日だけで、2回生の皆さんには、会ったこともないのに愛想が付きました。私やプララが持っていた、まだ見ぬ先輩を敬おうという思いをすべて砕かれました。」
実のところ、俺は本気で怒っていた。なんだというのだ。俺たちの手柄を奪おうとするわ、暗殺系の称号を持つ奴を張り付けてくるわ、挙句にプララを襲ったのだ。俺たちが無事なのは、ただただ『強かった』という一点に過ぎない。
ドア越しに会話を続ける。
「それから、その様子では、バッツとか言うヤカラの話は聞かれたのですね」
「あ、いや――」
クローリストは答えに窮することが証拠になることを知らない。
「なるほど、あの馬鹿どもは俺との約束を破ったのですね――プララ、あいつらを明日やるぞ、許さん」
「分かりました。とりあえずもう目印は打ってありますので、いつでも」
プララも怒っている。怒気が溢れている。
「ひ、被害はなかったではないか」
「被害がなければいいのではない。被害が起きなかっただけなのだ。クローリストさん、私たちが強かっただけで、弱かったら被害にあっていた。尋常ならざるほどに――ならば、それ相応に報いを受けていただく。もし、我が同輩が同じ目にあっていたら、その分を2回生の幹部連にも受けていただく。これは1回生の代表としての通告だ」
「ば、バカな、行き過ぎて――」
「行き過ぎてなどいない。俺には同輩も守る義務が、代表となってしまった今はある。」
俺は容赦がないのではない。容赦する理由がないのだ。
「ところで、いいのか。早く2回生全体に通告を出した方がいいぞ」
「まて、まて、ちょっとまってくれ、頼む」
「待たぬ、待てぬ、待つわけにはいかぬ」
すると、モスキート音に似た笛が吹かれる。
「止めた。今、止めた。だから、待ってほしい」
「分かった。2回生筆頭たるクローリストさんの言を受け入れる。ただし、もしも同輩に被害があったとしたら、明日の朝までに現状を回復することだ。そして、明日、クローリストさんのもとに話とやらを聞きに行こう。俺が――いや、俺とプララが学園の2回生の広場に出向く。」
「わかった」
「もし原状復帰がなされていない場合は――地獄を見せてやろう」
俺は一方的に言い放った。ドアの外でばたばたとクローリストが走っていく音が聞こえるが、複数の足音も聞こえる。
――つまり、複数で押し込みに来た可能性もあるということだ。
「ちょっと腹が立っちゃった」
俺が緊張を解いてプララの方に向いて言った。
「あら――ぐうぜん。私もです」
言って二人で笑った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
書くのは楽しいです!




