教育心理が専門なんですよ!という第13話
俺は関係各所に連絡をつけた。いわゆる根回しだ。根回しが悪いとは全く思わない。根回しこそ安全な活動の基本だ。うまくいくかどうかは分からないが。
「こういう時にこの手紙が送れる魔道具はありがたいな」
「ですね。お父様からも、了解した、との返事がきました。ただ、できれば命までは取らないでほしい、と」
「そうだな。命はとらないでおくか。ただ、向こうが俺たちとの力の差を理解してないと、それは無理になったりするんだけどな。」
うーん、と考える。
クローリストを評価したが闇魔という種族らしい。闇魔法系統のスペシャリスト。影縛りと、影殺というそこそこ威力のある技を使う。
「落としどころは決めてあるんだけどな――」
「どうします? ホウオウゲンマケンを打ち込むならしますよ?」
「ああ、いや、今回は俺が全部したいんだけどいい?」
目をパチクリして、数瞬考えた後、プララはいたずらな笑みを作った。
「あら、残念です」
「今回は、俺が制圧するよ。なんか、昨日の多対戦は全部プララに任せちゃったからさ。多対戦の制圧を練習したいのと、まあ、正直な話、ちょっと腹を立ててる。プララを襲ったことも、許せないし、このクソみたいな恒例行事についても」
「ちょっとうれしいですね――」
この恒例行事は新入生の子どもにマウントを取って先輩風を吹かせたいだけなのだ。学園の秩序が、とか言い出すのだろうか。正直、下らない。
――希望通り、俺がマウントを取ってやろう。
まあ、そこまではしないと思うが、もし俺の嫌な予想が当たった時のために、保険をかけることも忘れてない。
ガキどもめ。大人の力を思い知るがいい。
「さ、じゃあ、いこうか」
「ええ、どちらにでもご一緒させていただきます」
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黒いコートに黒い革のパンツ。腰にはモノホシ。そんな俺のいでたちだ。ちなみにプララは漆黒の皮ドレスに黒のルージュを引いた若干ゴスの入った服装だ。俺の希望でそんな恰好をしている。
「1回生代表、ライト=サリス、2回生筆頭クローリスト氏のお招きにより参上した」
「1回生、プララ=セロー同様に」
俺たちは名乗りを上げた。コロセウム型と言えばいいのだろうか。2回生の広場の創りは舞台であり、今俺たちが経っている場所を中心としてすり鉢状に観客席が広がっている。
ざわ、と観客席がうねって座っていた2回生が一堂にこちらに視線を向けた。100人近くはいるだろうか。
「よくきた――まずはよく来たと褒めたい」
観客席の中頃――つまり、コロセウムの最高の席にクローリストはいた。あんな格好をしているとは思わなかった。闇を司る魔、と聞いていたが、目の前のクローリストはいわゆる真っ赤なコートを着ており、抜けるような白い肌に赤色の目、二対の角を持っていた。
「褒めていただかなくて結構だ。俺は今、ここに釈明を聞きに来た」
俺の言葉が2回生のプライドを抉る。言葉にのっけた評価は嘲り。言葉が強く嘲りを含んでいるので、より心に突き刺さる仕様だ。
「なんだと!ガキが生意気に」「昨日、ザイドの腕を切り飛ばしたらしいぞ」「ベル、ジダ、ゾフはまだ意識が戻らないらしい」「――バッツたちがいないのもあいつらのせいらしい――」「調子に乗ってるぜ」「ぶち殺すか」「一斉に魔法打ち込めば余裕だろ――」
徐々に2回生の声が大きくなっていき、もう少しで暴動といった様相を呈してくる。
俺は大きく息を吸い込んだ。そして――
「だまれ!!」
と俺は一喝した。
「どこまでも愚かな者どもよ。すべて身から出た錆ではないか!! 話を聞いてくれと言ってきたから来てやったが、このままなら全員ぶち殺す!!!」
俺は言葉に力を込め、評価:恐怖を乗っけた。プララとクローリスト以外の聞いているものすべてに等しく恐怖の匂いを流し込んだのだ。
「―――――――――――」
全身が泡立って、首筋がきゅっと持ち上がり、睾丸持ちの生命体は腹の下に鈍い痛みを感じ縮こまる。足の裏と手のひらにじっとりとした汗を吹き出させ、ひざ周りに力が入らない。ただの純粋な、評価の力による恐怖。原因が分からないので振り払えない。
俺はその原因をわかっているが、目の前の2回生にとっては、これまで感じたことのない純粋な恐怖を俺に感じているのだ。つまり生物だったら、『あ、こいつ関わっちゃいかんタイプだわ』と感じるほどの恐怖。
「やめろ!!!」
クローリストはその場に立ち上がり叫んだ。
「お前に先輩に対する礼というのはないのか。このままでは強硬手段を取らないといけなくなるぞ!!!」
「は?」
俺は声をさらに荒げた。
「クローリスト!俺は話したはずだ。昨日、サスティラ森林でバッツとか言うヤカラどもに脅迫された、暗殺の称号もちに監視された、極めつけは俺の恋人に三人がかりで乱暴をしようとした――」
俺は言葉にさらに一段上の評価:恐怖を乗っける。
「だから許さないと――しかし話は聞こうと出て来たらこの始末か」
俺の恐怖に晒されて、鍛えてないであろう2回生の一部がその場に倒れ込んで気を失う。だが、俺は言葉に評価:恐怖を込めることをやめない。
「俺は1回生代表のライト=サリス。お前たちに売られた喧嘩を買おう」
俺は見栄を切った。と、同時にプララに注意するようにとの合図を送った――その瞬間だった。
「ならば!!!!!しねええええええ!」
クローリストは叫んだ。そして、俺の後方2mに円錐状の影の槍を出現させ、俺に向かって放つ。
「逃げられまい!!!」
勝ち誇ったようにクローリストは叫んだ。
――だが。俺はすぐさまその影の槍を、モノホシで抜き払いをする。キッンと高い音を立てて影の槍――闇魔法:影殺が霧散する。
「なんだ、今のは――」
俺は問うた。
「そ、それは俺のセリフだ。完璧な角度からの影殺にいったいどうやって消したんだ!」
その言葉を聞いて、俺は溜息を吐く。
「なんと下らない。切ったんだ」
そう、切った。闇魔法:影殺の評価の術解析によって知覚した魔法の術式を切断したのだ。
俺は魔導士ではない。攻撃手段は基本近接、ゆえに遠隔魔法に対する防御が弱い。
そのため、師匠にこの術式解体を繰り返し練習させられた。まあ、切れる量はまだ少ないし、プララレベルの魔法になると射出速度や量の点で逃げ一辺倒になるのだが。
「ちなみに、俺の『なんだ、今のは』は、この程度の魔法を俺に打ち込んでくるのは、どういう意味だ?バカは死にたいのか、だ」
俺はこちらを見つめる2回生全員に視線を送る。どれだけの者が耐えきれているのだろう。
ちなみにクローリストは評価の対象から意図的に外している。
「う、うるさい!貴様は今から倒す。ここにいる2回生全員の力でもってぶっ殺す!!」
まずは己の力量を読んで欲しい。
「一つ聞いていいか」
俺は少し静止しながら訪ねた。
「俺を倒したとする。殺したとする。どうするつもりだ?」
「さすがの貴様も恐怖するか――そのままだ。人族のガキには想像つかんかもしれんなあ。ここは魔学。決闘の果てならばさほど問題にはならないからな」
「なるほど、それは理解した」
――バカなのかな。
俺は怒りを通り越して呆れた。
「じゃあ、俺も決闘と認める。ここにいる2回生全員も認める、でいいか?」
「もとよりそう言って集めた面々だ」
まあ、そうだよな。バカだからな。しょうがない。俺は手を挙げた。
「だそうですが、先生方――証人となっていただけますね」
「なにを――」
「認めよう。これはライト=サリスとここにいる2回生の決闘であると」
俺の声に応えるように返事がある。
俺の後ろから声がする。連絡を頼んでおいた生徒指導担当と2回生の主任教諭だ。
「な――」
「ああ、心配するな。今からの決闘について、つまり2回生の主任教諭の先生方と話がついた、というだけだから、本当に気にするな。手出し無用もお願いしてある」
クローリストはしばし沈黙、そして破顔させる。
「つまり、お前はお前が殺された後の始末まで考え、主任先生らを呼んでくれたってことか!!お前はホンモノのバカか!?」
「まあそういう見方もあるだろう」
俺は肩を竦めた。バカはいつだって希望的観測で生きている。まあ、リャララ様との信義もあるのでなるべく殺さないでいてやろう。
控えめに言っても俺と2回生の間には圧倒的な差がある。先程の影魔法:影殺が一撃必殺を狙ったものだとしたら、もう勝負は終わっている。
クローリストがトップで、あれ以上の技が無いのならば、ここにいる100人近い2回生の中で俺を倒せる奴はいないだろう。
「なあ、プララ、後ろに座っててよ。終わらせるから」
斜め横に控えていたプララにそう言って笑う。
「もう終わっている、と思いますよ」
「だろ?」
実は仕込みは上々。あとは成果をご覧あれ、という感じ。
「では、みなさん、お聞きしよう」
俺は声を張り上げた。そして、今までの言葉に込め続けた評価:恐怖をさっと解いた。代わりに乗せるは評価:寛容と評価:慈愛。
「俺と戦うか――俺に従うか、どちらだ?」
俺は含みを持ってゆっくりと見渡す。
「なにを言っている?! お前は!!! 今の状況で誰が貴様なんぞに従うというのか!!」
「ああ、いいんだ。いいんだ。お前は一人で責任を取ってくれればいいんだ」
俺は寛容を装い、笑って見せた。
「俺に従う、という者は手を挙げろ――それをもって従うことを許す」
次の瞬間だった。うむ、壮観である。これは確かに壮観だった。うふふ、と後ろでプララの楽しそうな笑い声がこぼれている。
「―――――――――――――え」
クローリストは呆然とした顔で辺りの光景を見つめる。
体調を悪くした者も、そうでない者も一斉に立ち上がり、俺に向けて70度の角度で手を挙げていた。
そう、そして大半の人間が涙を流している。そして――
「我らがキングよ!」
と、誰かが叫んだ。
「「「「「我らがキングよ!!!!!」」」」
大音響で復唱される。
「寛大な御心に感謝を!!」「「「「寛大な御心に感謝を!!!」」」」
「わかった。許す。その場に控えろ」
「「「「は!!!!」」」」
一同、いやクローリスト以外の2回生一同は、その場に片膝をつき首を垂れた。
「――なにをしたのか」
「うーん、見ていた通りだ。お前以外の2回生が俺に下った、それだけだが――」
「ありえない!!!」
クローリストは目の前の事実に反応できない。その時だ。
――そこへ駈け込んできた昨日の野盗まがい先輩ことバッツ。
「――すみません!!」
駈け込んでくるとそのまま地に頭をこすりつけて土下座をする。
「よく、俺の、前に姿を現したな――」
評価:バッツに対する強烈な怒気を四方のすべてに向かって解き放つ。ただ、この評価は受けた人間には恐怖を感じないが、怒っていることは分かる。バッツにとっては恐怖しか感じないが。
「お、俺のことは仕方ない。だが、他の6人については許してもらえないだろうか――いや、許してください、お願いします」
「――俺を裏切った理由を話せ、理由次第だ」
俺は評価:バッツに対する強烈な怒気、を切った。
「は、はい。そこのクローリストに仲間を盾に脅された上に、自分の心が弱かったため、です」
俺はふむ、と考える。そして評価:寛容を言葉に乗せて語る。
「――まあ、あれだよな、女だろ?」
「――はい」
「お互い、自分の愛した女ぐらい守りたいものだ、な」
滂沱の涙がバッツにあふれる。
まあ、あまり褒められたものではないが、先程からの評価の切り替えは単なるマインドコントロールである。とことん追い詰めて恐怖を感じさせ、指示に従った瞬間に寛容で包み込む。心の緊張と緩和が心を支配する。
前世ではカルト宗教と小学校教員がよくやる手だったが、この世界においては、生き死にかかった場面で最も効率的かつ平和に物事を進める手段である。魔法を打ち込むよりもずいぶん平和主義で、刀を振り回すよりもずいぶんと優しい。
「同じく女を愛する者としてお前を許そう」
「あ、ありがとう、ございます――そ、その代わり、クローリストはこの俺が倒します、命に代えて」
「控えろ。俺がやる相手だ――」
「はっ」とバッツは膝をついて首を垂れた。
俺は、呆然としたままのクローリストに向かって声を張り上げた。
「降りてこい!! 降りてこないならこちらから行く。――皆、逃がすなよ」
ザッ、と音がして2回生がクローリストの周りを取り囲む。
「な、なんだ、この2回生筆頭たる俺を――」
「貴様はもう俺たちの筆頭ではない!!」
「私たちの筆頭はキング!!」「「私たちの筆頭はキング!!」」
起こる復唱。
「く、くそっ! くらえ、奥義!影縛り!!」
クローリストは印を結んで叫んだ。瞬時に周囲の影から手が伸びて、取り囲んだ人間を拘束した。
ああ、なるほど、あれは筆頭になれる。捕縛と矛を得意とする魔法の使い手なら、入学試験でよほどの相手がいない限り、負けることはないだろう。
「しかし、それも無意味――」
俺はすでにクローリストのところまでコロセウムの観客席の階段駆け上がってきている。
捕縛されている者たちをモノホシで一閃する。いや、正確には捕縛されている者たちに絡んでいる術式を、一閃。
キッィン!!と耳に痛い音を立てて術は解体される。
「どけっ」
俺が叫ぶと、瞬時に人の輪が左右に分かれる。中央にはクローリストが力なく腰を落としている。俺はのど元に切っ先を突き付けた。
「なにか、いうことはあるか――」
「こ、ころさないで……」
「だめだ、な。お前は俺を怒らせ過ぎた。許さぬ」
そう言いながら俺はそわそわした。別に叩っ切ることは問題ではない。しかし、リャララ様の顔も立てたい。
だから、もう一手、不確定要素のある手を打っておいた。できればそちらが実ってほしい。
もちろんそんな思いは顔には出さない。評価:恐怖をクローリストのみに設定し、大声で叫ぶ。
「お前は、絶対に、殺す」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ」
その時だった。
「お待ちなさい!!」
凛とした声がコロセウムに響いた。有無を言わせぬ口調。
「どなたか!!」
俺は大きな声で返した。
シュラシュラシュラと静かな擦れる音を立てながら現れたのは、青い肌にブロンド、赤い目の女性。ただし、下半身はヘビだ。もう一つ、特筆すべき事項として、とんでもない巨乳であることを付け加えておきたい。
「私はラミアのシュシュトリ。3回生の女王の位置にいるものです」
俺はそちらに目をやりながら、息を吐いて納刀する。
「1回生筆頭、ライト=サリスです。お初にお目にかかります」
頭を下げて、俺は内心ほっと胸をなでおろす。
――最後の一手がきた!
まあ、しかし、この結果がどう出るかは、正しく出たとこ勝負、というやつだ。
日が変わってしまいましたが、なんとか更新できました。
読んでいただきありがとうございます。




