愛に生きるしかない感じなんですけどという第10話
「プララ=セロー前に!!」
プララが呼ばれたのは俺の試合の数試合後のことだ。
「行ってきます」
「いってらっしゃい。ソコソコ、で行こうか」
「わかりました、ソコソコ怖がらせてきます!」
プララはニコッと笑う。
あんなに怖がられるのは嫌なのに、自分の力を見せつけたいんだなあ。
「孤族、シンファビ、前に!!」
おお、と言って狐顏の男が反対側に立った。
プララが一礼をして、顔を上げるなり、狐は嘲るように、そしてからかうように言った。
「おい、アンタ、名前負けしてるんだってな!!」
「はい?!」
プララが首を傾げた。何をこの人はいっているのだろう、と。
「聞いたぜ、みんなに恐れられたら泣いちゃったとか! ダッサ」
ふんふん、と首を縦に振った。
「あー、はいはい。その通りです。確かに、名前負けしてますね、私。ジャロロ様の再来とか大陸消滅魔法が使えるようになってから言われたいものです」
「ケッ、見掛け倒しならぬ、名前倒しって奴か。ラッキー!!」
「よくわからないのですが、何がラッキーなのです?!」
今度は本当にわからないようだ。
「弱い奴に当たってラッキーって事で!」
大きな、本当に大きなため息がプララの口から洩れた。
「はぁぁぁぁ、頭の悪い方と当たって私はアンラッキーですけどね」
「んだと?この野郎!! 俺、弱い奴は痛ぶることにしてんだ。泣いても口塞いで虐めてやるからな! クソが!!」
「例えば、どのように?!」
蛆を虫を見る目でプララが聞いた。
「そうだなぁ、俺のスピードについてこられないだろうから、生爪を少しづつ剥いでいくことも、できる。!」
「なるほど、それは怖いです。他には?!」
「お前の服だけ毟り取るってのもいいな。あの婚約者の前で裸に剥かれるのも面白いな!」
狐はゲヒヒと笑う。嗜虐的な酷い顔だ。
「くだらない、狐だこと。まあ、いくら剥かれても、いくら恥辱にまみれても、崩せぬものがあるという事を学ぶと同時に、己の品性について問い直すと良いですよ!」
プララが冷静に返すと狐は顔を真っ赤にした。
「ブッコロす!!」
「どうぞ。でも――ライト! ソコソコはやめます! いいですね! ?!」
あそこまで言われたんだ、もちろん認めるが、俺は冷や汗しかでない。
「わかったよ、軽くにしといてやれよ!」
ソコソコをやめるって――地獄の釜の蓋が開くぞ、マジで。
ここ数年でプララのスキルの中で最も伸びたもの。
精神魔法である。プラローロが得意であり、俺が同種のスキルの使い手なので、彼女自身の魔法も異常な進化を遂げている。
「はじめ!! !」
10秒たち、両者見合ったまま――ではなく、狐はそのまま、ゆっくりと倒れた。
「そこまで!!」
観客にとっては全くつまらない。しかし、俺には何をやったかわかった。
――ホウオウゲンマケン!
精神に魔法をかけ夢を見せる。その者の触れられたくない思いを、最も残酷なシーンで葬り去る、という夢だ。
俺が前世で読んでた漫画の精神攻撃を「こんな精神攻撃あるで!」と説明したら、独自開発していた。
一度、俺もくらったが、生後2日で殺されて、食べられた夢を見た。久しぶりすぎてキツい。ついでに俺を殺して食べた相手方の感触付きだ。食べられて、食べさせられる地獄という奴だ。復活まで二日かかった。
狐、復活できるのかな。
「あなたの敗因をお教えしましょう!」
プララは、寝ている狐に語りかける。しかし、聴こえないだろ、それ。
「私は確かに名前負けしている未熟者ですが、それでもあなた如きに負ける者をジャロロ様の再来とは呼びませんよ。!」
あ、言葉に魔力が宿っている! つまり無理矢理昏倒している狐の意識に叩き込んでる。こわっ! 俺がデマゴーグなら彼女のは正しく悪魔だ。
「起きなさい!! !」
「はいっ!」
プララの一喝でビクンと跳ね起きる狐。
「わかりました、ね?!」
狐による完全なる土下座。全身から汗が吹き出している。
「はい、はい!」
「わかりました、許します!」
狐は、その一言が終わるや否や脱兎のごとく逃げ出した。かわいそう。精神崩壊は免れたけど、アレ、マジで地獄だからなぁ。
プララは俺の冷や汗に気づくことなく、こちらにピースサインを送りながら降りてくる。
「勝ちました!!」
「ああ、ホウオウゲンマケン、試したのか?!」
「ええ! よくわかりましたね! ホウオウゲンマケン1/100です! 精神の後処理も完璧なんですよ!!」
こっわ、この子こっわ!
魔法の名前も、ホウオウゲンマケンになっている。
周囲は何が起こったかわからないだろうが、いずれ知る事になるだろう。相手を全く傷つけずに地獄めぐりをさせるこの魔法の名前と、その効能を、だ。
怖がられるようなあ。また、恐れられるなあ!
「まあ、なんにせよ、順当だ――おめでとう」
「ええ!!」
実はこの戦いに勝ち負けは関係ない。ただ、最後まで参加の意思を表明し続けることができるか、の一点に絞られる。たとえば兎人などの人族よりも先頭向きでない種族は、逃げることでも評価されるし、模擬戦場に立つだけでもいい。そもそも戦績も種族も加味されて、マッチングをされるので、そういう意味ではあまり難易度に差はない。
「そうなると、ライトの今度の敵はシャラ家の御曹司よりも強いんでしょうね!」
「いや、なんだろうな、そうはいないと思うぞ。うーん、どんなのが来るんだろうな!」
そんなことを話していると順番が回ってきた。
「んじゃ、行ってくるわ!」
「ご武運を――!」
ああ、といつものように返した。
「淫魔族ミラー前へ!」
――淫魔?サキュパスか!
俺は少し期待をしながら登壇する。
――つまんね。
第一印象だ。そりゃそうだ、淫魔と言っても10歳程度の女のお子様だ。なんだそれは、と思ってしまう。
しかし油断はしない。評価して、それを検討する。
げ!
常時発動型の催淫魔法って――すぐに防壁を張る。
「あれ?かからないんだ」
「そうだな――もう少し遅かったら不味かったな」
「ふーん、すごいんだね。許嫁さんの前で恥ずかしい格好にしてあげようと思ったのに」
やっぱり。サキュパスのパッシブ魔法か。常に周りを催淫し続ける凶悪さ――見た目に騙されるところだった。
「それは、こまるぞ――」
そこまで話していたら合図がかかった。
「はじめ!!」
俺は独特の足運びを使い――と思ったら、ミラーが手を挙げた
「参りました!!」
「勝者! ライト=サリス!!」
すぐさま勝ち名乗りを受けた。
「なんでだい?!」
「だってあたしのスキル、これだけだもん。勝てないって!」
なるほど。しかし、それだけで勝ち進んできて、俺の前にいるってことを考えたら、とんでもないスキルではある。
「痛いの嫌だからねー。未来の魔帝候補に嫌われたくないし!」
「へえ、悪く無い目だ!!」
「私、ミラー。まあ、親しい人間はキャスって呼ぶわ。ライト、でいい?!」
手がこちらに差し出される。
「オッケー、キャス。どうぞよろしく。!」
そういって握手をする。
まあ、実力差がある者同士はこうなるパターンも多い。相手の力を見極める能力とやらも試されている。力関係が同じもの同士が茶番をすると、一目で見抜かれて、試験官からどやされるので、そうそう不正は起きない。
「あら、女の子と楽しそうでしたね――!」
切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ――ではなく、切り結んだ台の下こそ地獄なれ、だ。俺は素早くプララの隣に座ると、彼女の手を握りしめた。
「いやいや、いやいやいや、ちがうぞ、ちがう。健闘を称えあっただけだ、いや、ほんと」
「どうでしたか――。ずいぶん親しげに握手なんかしちゃったりして――!」
「ちがう、ちがうって、お前がいるのにそんなことをするわけないじゃないか!」
「そうかしら」
「当たり前じゃないか――俺はお前にベタ惚れなんだぞ」
「ウソ――!!」
「ウソじゃねえ!!」
わかる。下らないのは分かっているが、この一連の動きは大切なのだ。
「じゃあ、好きって言って!!」
「好きだ」
「ほんとに?言わされてるんじゃなくて?!」
「好きだよ、本気だ。ライト=サリスはプララ=セローを好きだ!!」
最後は叫ばされる。周りが冷やかしの目で見るが、それをものともしない精神力が試されている!!
そこまで言うと、満足したように俺の肩に頭を預けてくる。
「良かった。私も好きです、ライト」
「おう、うれしいぞ――!」
ごっそりと精神力を奪われながら、「いつものこと」を繰り返した。プララは思った以上に嫉妬深い。エルフ領からこの町までの旅でも何度同じことをさせられたか。しかし、慣れてきてはいる。
「あと何試合あるのかしら!」
「さあ、負けないけどな」
その後、俺たちは二人とも無敗を誇った。
シャララとプララの戦いもあったが、鎧袖一触、シャララは昏倒した。他者を寄せ付けない地獄の魔法、ホウオウゲンマケンである。
俺は無難に体術を駆使して相手を昏倒させたり、叩き落したり。まあ、ほどほどに技術を使い、ほどほどに相手を叩きのめした。
これは――と気が付く。
大相撲に近い形式だ! と俺は気づいた。最終付近に最も強かった相手同士が戦う設計。それを100人規模でさせている。
言われていないが、最後の試合は無敗のもの同士になるはず。
「最後は、俺たちの試合みたいだな」
「そうですね、この様子ならそうなりますね」
「プララが相手ならば手を抜かない!」
「当然です。私は私の全力よりも弱い方を夫とするつもりはありません!」
プララの瞳が怪しく光った。
「じゃあ、全力で勝つ――!」
「そうしてください。それをもって私への愛を確かめると致します!」
えー、すっごい笑ってるんだけど。なんでそんなに嬉しそうなの。怖いなあ。
「私の魔力があれば、ライトの防壁も破れますよ?大丈夫ですか?!」
「ああ、そうだな――でも何とかするさ!」
俺はやせ我慢で笑って見せた。
「ライト=サリス、前に!」
俺は「応!!」と答えて石卓に上がる。
「続いてプララ=セロー前に!!」
はい、と答えてプララも石卓に上がってきた。
「この無敗同士の戦いをもって、本日の入学試験を終了とする。両者、手を抜くことなく、戦うように」
俺とプララは同時に頷く。
「よろしい、では、はじめ!!!」
と、同時に俺に襲い掛かるホウオウゲンマケン。
やすやすと俺の心の防壁を突破する。そして俺の繊細な部分に突き刺さる。
それは夢を見させる。
俺の最も大切な人――プララを戦いで失う夢を。
心がえぐられるように苦しく、俺も後を追うように胸にナイフを突き刺す――ゆっくりと彼女に覆いかぶさるように俺たち二人は永遠の愛を手に入れた――
そして。
俺は、そんな夢を見ながら倒れこんでいるプララを抱き起した。
「プララ、起きろ――!」
彼女が目を開くと同時に「――愛しているぞ!」といってキスをする。
沸き起こる歓声、目を見開くプララ、キスしたまま抱きしめる俺、プララは目を閉じると静かに俺の背中をタップした。
「勝者! ライト=サリス!!!」
簡単だ。俺は評価で強引に自分の心を鏡化し、ホウオウゲンマケンを跳ね返したのだ。物理ではなく、精神に評価を突っ込んだのだ。もっとも、評価自体が精神に作用するものだから、相性は物理より良いだろう。
原作にあった上位者に手玉に取られる使用者の話を秘密にしておいてよかった。
俺は勝ち名乗りを受けると、そのまま彼女を両手で抱えて石卓を降りる。先程のキスで彼女の腰が抜けてしまったのだ。
「負けて嬉しいなんて、あるんですね――!」
「勝たなきゃ、嫁さんにできないなら勝つよ。良かった。まだ、俺にプララを抱いて歩ける資格があって!」
「もう、バカ!!」
バカじゃねえよぉ、とかなんとか言っていると、魔法で拡声された放送が響いた。
『以上で、全入学試験を終了とする。今回全勝を成し遂げたライト=サリスは入学生の総代として、今後動いてもらうからそのつもりで』
予想されたこと。俺は「はいッ」と大きな声で返事をした。
『さて、本年度から――本校に赴任された校長より挨拶を賜る――』
うっへ。最後にどっかのお偉いさんの話かよ、と俺は思った。
『平伏せよ!皆の御前におわすお方をどなたと心得る!!』
ん?と俺は頭をひねりながら膝をついて首を垂れた。――なんで水戸黄門のような文句が出てきているのだ。
『ここにおわすお方は先の大魔王――リャララ=リャラ様なるぞ――!!控えおろう!!』
俺はゆっくりと顔をひねってプララを見る。プララも俺の方をギギギっと音が出ているように首を向けた。
『ああ、みんな、顔を上げよ。まずは良い戦いであった、と褒めたい。子供らの素晴らしい戦いにこの老体も久々に血がたぎる思いだった』
ん、見てないのかもしれない。と、ほっとしつつ、すぐに思い直して首を振る。そんなわけがない。俺の試合を見落としても、プララの試合を見落とすわけがない。
『さて――優勝したライト=サリスに尋ねる』
――えー!まじかよ
『我が娘を皆の眼前でよくもあのような目に――いや、違った』
――違わないでください。
怒ってるよ、マジ怒っているよ。前魔王様!
『対戦相手にキスをしたのはなぜだ!』
変わってないじゃんか! ひでえ!
「恐れながらリャララ様! 私は彼女を愛しています。この手は彼女を守るためにあり、彼女とともに歩むためにあります。彼女を傷つけるためでは決してない! なら、あの場で彼女を傷つけずに、なおかつ降参を引き出すスベが他にありましょうや、いや、ない!!!」
「――ありません! お父様! ありません!」
プララの声も重ねてくる。だからなんでそんなに嬉しそうなんだよ。
『あー、あーー、もう、わかった。わかった。うるさい、はい、はい、もう不問とするわ。まあいいぞ、みんなよくがんばったな、りっぱりっぱ、じゃ、あ、はいはい、かいさーんしていいぞー』
そこで放送は落ちる。
「最後、すげえ、なげやりだったな――」「娘に手を出した男を叱りに来たら、返り討ちにあってたぞ」「やっべえな、あの人族、マジやばいぞ」「あれ、俺たちと同い年ってありえんだろ、10才だろ――」
ざわざわが大きいまま、その日は幕を閉じた。
――えー、なんかとっても不条理臭いんですけど。
やっと5万字を超えました。100万字とか超えている諸先輩方はすごいっす。がんばろう。




