プライドをへし折るのって大変ですよねという第9話
本日2本目の投稿です。
「人族、ライト=サリス入学希望です――」
ざわついた。さすがに人族の希望は珍しいようだ。
俺たちは魔校の入学試験の受付をしている。といっても、もうすでに願書は出している。ただ、列になって名前を言っていくだけだ。終わった者は遠巻きにその状況を眺めている。
「虎族、ディバ、入学希望」「竜人、ドライ――同様」「人狼族、ローン希望する。」「淫魔族ミラー、希望します」
魔族と亜人――魔族側に位置する亜人がほとんどの中で
「魔族シャララ=シャラ、入学を希望する。」
彼のようないわゆる純血種――と言われる魔族は畏怖の対象であった。魔力容量が高く、血統も当然良い。さほど階級にこだわらない魔族社会の中で、希少性とその純粋な力で他を統べる地位にある。
「シャラ家の嫡男かよ――」
周りがざわめく。俺の時の比ではない。
「当代の魔帝候補筆頭だぜ――」
魔帝といっても魔王ではなく、魔校の生徒会長的な存在である。
シャララと呼ばれた彼は体のサイズは俺と同じくらい、だが、纏っている空気は貴族のそれだ。プライドの高さと、それに負けないだけの実力を感じる。そして、うん、男に言うべきではないのだが、きれいな顔をしている。
「プララ=セロー、希望します」
今度は、ザッ、――っと列が崩れた。そう、一同が大げさでなく3m引いた。
引かなかったのは、俺とシャララだけだった。
「禁忌の鬼子――」「ジャロロ=ジャロの再来――」「あれが同期ってどんな不運――」
囁かれる言葉――これは確かに俺の比ではない。
「みんな、辞めたまえ!!」
おお、シャララ、学級委員みたいにカッコイイ!
俺は奥の方でプララに手招きをする。
「みんな、彼女を恐れるのは、間違っていると思う!彼女は前魔王様のご息女であるし、不敬に当たるぞ!」
――いや、それはさすがにズレてんなあ。
プララは俺に向かって走ってくる。その手前にはシャララ。
――それはいかん!いかん、なんと!いかんぞ、シャララ君!!ああっ!!!そこで手を広げてはいかん!!
俺の心の叫びは当然、無視された。
若干手を広げ気味にシャララがプララ迎えようとするところを、華麗にスルーするプララさん。そのままシャララの脇をすり抜け、俺に抱き着く。
「ライト!」
やだ、シャララくんがこっちを見て羞恥にまみれた顔をしているなあ。しかし、まあ、それよりは俺にとって許嫁の方が大切だ。
「大丈夫だよ、ほら、そんなに泣かなくてもいいから――」
俺は彼女を抱きとめながら背中をさすってやる。そして大きな声で叫ぶ。
「誤解があるやもしれない。彼女の魔力は高い。さらにはプラローロ様とリャララ様の子どもだ。だが、見ての通り、彼女は普通の女の子だ。恐れられれば傷がつくし、生まれによって無駄に敬われたら悲しく思う。だから、そんな目で見ないで上げてほしい」
俺は本心であると同時に、声に評価スキルを乗っけた。最近少しできるようになったが、相手の評価欄に言葉を介して直接叩き込むことができるため、説得力が格段にアップする。
「そして――彼女は俺の恋人だ!!無駄な誹謗中傷をする奴は許さん!!それでもなお、我が恋人を中傷しようとするならば非力ではあるが、このライト=サリス、全力でお相手しよう!」
俺の宣言に、周囲は――とくに周囲の女子はわっと盛り上がる。沸き起こる拍手。
「じ、人族が!!!」
声を上げたのはシャララ君だ。「人族がなにをどう許さないというのだ!!」
おお、そうだよな。キミ、今めっちゃ恥かいたもんな。
「これはシャラ家の御曹司殿――先ほどは我が恋人を庇っていただき感謝申し上げる」
礼は礼。俺は彼女を抱えたまま、ゆっくりと頭を下げる。
「う――うるさい!先程のことなど、お礼など言われるに値せぬわ!!それよりも一体、人族ごときが、どう庇うというのだ!!貴様の言っていることは、ただの詭弁だ。弱い者の遠吠えだ!!」
「――なんですって」
いかん、プララが俺に抱えられて小さな声で切れている。先程の涙はすでに引っ込んでいる。
「大丈夫だよ、プララ。安心して――」
俺は小さな声で囁いた。「俺の強さ、分かっているでしょ」
こくん、と頷いくプララ。可愛い。
「そうですね、詭弁とまで言われては言い返すしかありませんね。この手で恋人を守る程度の力は持っています――もっとも、彼女を物理的な攻撃手段で傷を負わせることなど、不可能に近いわけですが」
俺は小さく咳払いをして、静まり返っている周りを見渡した。
「この気持ちは、広げた手に飛び込んでくる恋人を抱いたことがなければ、分からないでしょうね――」
一瞬沈黙。
その次に爆笑。
みんな先程の光景を思い出したようだ。気づかない者は周りに聞いて、その爆笑の輪は広がっていく。
シャララ君の唇が震えている。これはキミが引き起こしたことなんだけれどね。
「貴様――どこまでこの私を愚弄すれば気が済むのか――」
「私は愚弄などしておりません。愚弄しているのは貴殿でありましょう!」
俺は相変わらず評価を声に乗せている。俺には、いやこのスキルには正確にデマゴーグの才能がある。俺の言葉を聞けば聞くほど、相手は俺に説得されていくのだ。
「人族ごときが、私になんという――」
「シャララ殿――それが愚弄だと言っているのだ!!我々は学友となる身、入学する前からそれほどの差別意識をむき出しにしないでいただきたい!!」
周囲はさすがにざわざわとし始める。もちろん俺に優位な言葉が多い。
「シャラ家の嫡男ってあの程度なの?」「弱いかもしれないけれど、恋人を守ろうとしているあのライトって子になんか問題ある?」「手を広げて勘違いしたの自分なのに」
Booooo、という声が上がるまでにそんなに時間はかからなかった。
「なにをいうんだ!あいつは人族、この魔族の英雄となる私と同列に学友などということが、烏滸がましいのだ!!」
ああ、これは収拾がつかない。どんどん評判が落ちていくぞ、シャララ君。
デマゴーギストはいつだって大衆の感情を言葉で煽る。
だが――この場のデマゴーギスト、つまり俺はそこまで悪い人間ではない。だって教員だったんだよ?小さい子のオイタくらい優しくお尻ぺんぺんですよ。
「みなさん!!」
俺は叫んだ。
「シャララ殿を貶めないでいただきたい!!彼は立派であった!我が恋人を庇おうとしてくれたのも彼だ。私は感謝している――心からだ!」
静まり返る聴衆。
「だが、彼のその差別意識を刈り取るのも学友となる者としての務め!!最弱ともいわれる人族の力をもって、最強の純血魔族の差別意識を刈り取って差し上げよう!」
「ん、な、ななななん、なんだと!!」
いやあ、怒っていらっしゃる。
「試験管殿、至急試験会場に案内されたし!私とシャララ殿の戦いをもって入学試験のスタートとされたい!!」
俺はちらっと、シャララを見やる。
「よろしいか?よもや逃げまいな?」
無駄な煽りを忘れない。彼の心はもう茹りまくっている。
「当たり前だああああああああ、貴様だけは絶対殺す!」
「殺されるのは勘弁ですね」
ふっと笑う。
周囲はもう大熱狂。おおおおお、と声が上がっている。心なしか、周囲で見ていた教員陣も盛り上がっている。
そうして、俺とシャララは戦うこととなった。
―――――――――――――
「ありがとう、ライト――」
会場準備をしている間、隣でプララがボソッと話した。
「ん、なにが?」
「分かってるくせに」
「まあ、ねえ。でも、すっごい盛り上がってたな」
「ちゃんとスキルにかかってましたね、みなさん」
――私は分かってました、と言外にプララは言う。
「プララはよく見てるね。分かってくれる人がいると、やはりホッとするよ」
言って頭を優しくなでる。
そうして、準備されている会場に目をやった。
ルールは半径7mの石造りの円卓の上での模擬戦、殺傷力の強い魔法の禁止、刃のある武具の禁止、相手を殺してはいけない、負けを認めるか、円卓の外に落ちれば負け――その程度だ。
まあ、出たところ勝負で。
話をしていると時間が来た。試験官が俺の名前を読み上げた。
「では、行ってらっしゃいませ。ご武運を」
「ああ、行ってくる」
片手をあげて、軽い足取りで円卓にあがった。
「逃げずによく来た」
「すごい顔ですよ、シャララ殿」
シャララは俺の指摘に顔をさらに赤く染めるが、辛うじて踏みとどまって叫んだ。
「紳士として一言忠告しよう。この学園から出て行け。そもそも人族ごときが、この学園に来ること自体が間違っているのだ。出て行け、そうすれば、殺さないでおいてやる」
「紳士の物言いじゃないですよ、それ」
俺は半笑いで応えた。シャララのこめかみの青筋がはっきりとわかる。
「そうですね、私が負けたらなんでもあなたの言いつけに従いましょう――学園を去れというのならばそれもよし。」
「ならば、同様の誓いを立ててやろう!」
シャララは大きな声で叫んだ。そしてそれは開始の合図を呼んだようだ。
「はじめ!」
と試験官が叫んだ。
「くらえ、我が魔法グラビトン・デイズ」
それは叫ばないと出せない魔法なのか?俺はすかさず評価する。
――なるほど。
重力場が発生し、すべてのものを床に張り付ける――シャララを除いて。
「これはフィールドに7倍の重力を課すもの。お前の体重は今や280㎏にも及ぶ!」
おお、確かに体が重いわ。
「動けない貴様に我が体術をもって屠ってやろう!!!!」
なるほど、動けなくなった俺に容赦なく殴る蹴るをしたいわけか。それは拷問向きだな。
「さっさと命乞いをしろ!!!!」
動かない俺に向かってシャララは大きく振りかぶって殴った。
ゴキン!!!!と派手な音がして、俺の顔面に拳が突き刺さる。
さらに2撃、3撃と繰り返されるシャララの体術、なかなか大したものである。連撃が続く――アドレナリンが湧き出しているから痛くないのだろう。さらに蹴りも入れられた――が、
――その次の瞬間、体が崩れ落ちる。シャララの体が。
そう、シャララの体がドサッと、崩れ落ちた。
「なあ、シャララ殿、痛くねえ?」
俺は立ったまま、シャララを見下ろした。ついでにグラビトンデイズの魔法効果も消えている。
「あああああああ!!!!!」
その場でのたうち回る、シャララ。手は血だらけで手首の位置で折れている。足は脛のところから前側に折れている。
崩れ落ちた瞬間、痛みをカットしていたアドレナリンが切れたのだろう。
「試験管殿、裁定を!」
「あ、ああ、勝者、ライト=サリス!」
おおおおおおお、と地鳴りのような音が会場を埋め尽くす。そして、次の瞬間、静かになる。
誰一人、いやプララ以外は誰もわからなかったのだ。何が起こったのか。
だから、勝者である俺の言葉をみんなが聞きたがった。
「良い勝負だった!シャララ殿の連撃は見事であったし、純血魔族の魔法、とくと味わった!――されど、勝負は時の運。私は隙をついて、彼の腕や足を払っただけだ。たまたまタイミングが良かったことと、体重が280㎏になっていたので威力が増していたのだ」
――うそだけどな。俺は動いてもいないし、当然、払ってなどいない。
「私は先程の約束に従い、シャララ殿に約束を守ってもらいたい」
「わ、分かっている!出ていけばいいのだろう!!」
回復の神聖術を控えていた司祭にかけてもらっているシャララが、悔しげに叫んだ。
「ちがう。違うのだよ、シャララ殿」
「なんだと!貴様、この勝負を愚弄する気か!」
シャララは司祭の手を振りほどいて詰め寄ろうとするが、まだ足が動かない。
「違う、正しく約束を守ってもらうのだ。私がシャララ殿と約束したのは『言いつけを守る』だ。誰も私は退去せよなどと言っていない」
俺は周りを見渡して言った。
「最弱の人族が最強の魔族に勝利した。それは歴史ある魔校でも、なかったことだ!だからこそ、私は示したい。その二人には友情すら芽生えるはずである、と」
「なんだと――」
また会場が少しざわざわとどよめく。
「俺と対等の友となれ、これは男と男の約束だ!シャララ!」
数瞬の時を経て――会場が爆発するような拍手に包まれた。
「あははは!!なるほど、わかった、私は負けたのだ!――そう、完全に今、お前に負けた!!喜んでお前の友となろう」
俺が差し出した手を、たった今修復された右手でガシッとつかむシャララ。そう、もともと悪い奴ではない。ちょっとしたボタンの掛け違いだけだ。冷や水浴びせて、こちらを向けて正してやればいいだけなのだ。
あ、もちろん、心に滑り込みやすいように言葉に評価が乗っていますよ?『乗っかった方が気持ちいいですよ』という実にシンプルなものだが。
弱った心には効果抜群である。
彼に肩を貸してやり、石卓をゆっくりと下りてくるとプララが駆け寄ってくる。それを見たシャララが体をすっと離した。うんうん、先程の恥ずかしさからちゃんと勉強されていらっしゃる。
「心配したかい?」
「ぜんっぜん、してませんよ!」
「ちょっと泣いていたように見えるけれど?」
「意地悪ですね」
言って俺の胸に顔をうずめる。
「じゃ、じゃあ、俺はここで失礼する。我が友ライトよ」
「ああ、まだ、模擬戦に出続けなければならないだろ?またなシャララ」
「ああ!また会おう!」
シャララは背中越しに手を挙げて去っていった。
「上手にやられましたね」
ちょっと顔をこちらに見せて微笑んだ。実は涙の跡などない。分かりきった結果に、誰が動揺などしようか。
「だろ?」
俺はただ、自分の体に評価を付加しただけだ。簡単な鋼鉄化である。皮膚を疑似的に鋼鉄の状態異常を付加する。殴った感触は肌だが、殴った側のダメージは鋼鉄として反射する。全力で何も考えずに殴りつければ、骨折にするのは必然である。
実のところ、魔法っぽく「アストロン」とか叫びたかった。
「魔族の貴族なんて敵に回してられないって――」
この一連の流れで俺が得たもの。高い評判と貴族の坊ちゃんの信頼。ついでにプララの悪評の打ち消し。すでに誰もプララの噂はしていない。
「お母様の課題をクリアするためには仕方ないですが、私としてはあのシャラ家の嫡男の物言いは許せないところでした」
「十分恥かいてたから許してやれよ」
「もう、おこってません。ライトが魔帝になるためですし――」
そう、俺は卒業までに魔帝にならなければならない。それが師匠が出した唯一の課題。それくらいの人心掌握やってみろ、だと――。
――めっちゃ、たいへんなんですけどね。
やっと10部行きました。学園物成り上がり物になっていきますが、どうぞ良しなに。少しでも評価いただけたら幸いです。




