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「それくらいなら、できちゃいます」
答えた女は、陽祐の横顔を見つめている。
陽祐は、ため息をついた。
「まるで悪魔の道具だな。それって俺か美沙のどちらかが、親との縁が切れるってことだろ」
「そこは細部のデザイン次第ですね。血はつながらなくても、親代わりとして育ててもらったことにすれば」
「オヤジやオフクロ以外の誰かが実の親ってことにもなるけどな。気味が悪いだろ、そんなの」
陽祐は女に《アーティファクト》を差し出した。
「おまけに自分自身の記憶は書き換えられないから、親子の縁を切った罪悪感からは逃げられない」
「それなら兄妹でも結婚できるよう、法律を書き換えちゃえばいいんじゃないですか?」
「…………」
微笑んでいる女の顔を、陽祐は、あきれたように見た。
「誘惑してるのか? 悪魔の手先か、あんたは?」
「道具なんて、使い方次第ですよ」
女は、にっこりと笑って、
「《アーティファクト》に持ち主を必ず不幸にする、しっぺ返しの機能はありません」
「使い方を間違えて不幸になる奴もいるんだろ、使い方次第ってことは?」
「陽祐さんなら大丈夫そうですけどね。ずいぶん慎重なようですから」
「俺がどんな使い方するか、面白がって観察したいだけだろ、あんたは」
「すいません、バレました?」
女は、ぺろりと舌を出し、絵筆に似た《アーティファクト》を受けとった。
「でも、そういうオチもアリだと思ったんです。二人きりの世界が、夢オチでしたから」
「オチとか言うな。これで世界が終わるわけじゃねーんだ、美沙と俺にとっては」
「すいません」
笑っている女に──ひらひらと、金色をした蝶のようなモノが舞い降りて来て、肩にとまった。
陽祐は眼を見開き、
「それ……その蝶みたいなヤツも《アーティファクト》か?」
「護身用の、それですね。可愛く見えて、なかなか頼りになります」
「俺が《アーティファクト》を返さなければ、そいつで攻撃するつもりだったのか?」
「それはないです。陽祐さんになら、この《絵筆》は差し上げてもいいと思いましたから」
「観察対象にするためにだろ」
陽祐は、もう一度ため息をついて、たずねた。
「本当にあんた、何者だ? もしかして、あんた自身が《アーティファクト》を作ってるのか?」
「そうだったら面白いですけど、普通の人間ですよ、《アーティファクト》をコレクションしているだけの」
「どこが普通だよ。《アーティファクト》をうまく使いこなせば、神様みたいに振る舞えるだろ」
「陽祐さんも普通じゃないですよ。せっかく手にしたお宝を、あっさり手放すなんて」
女は言って、また肩をすくめてみせ、
「そういう人が、ほかにもいないわけじゃないですけど」
「俺は……」
答えかけたとき、美沙が駅舎から出て来るのが見えた。
きょろきょろ辺りを見回して、釣具店の前の自販機を見つけ、そちらへ歩いていく。
陽祐は言った。
「俺は、ただの小心者だよ。格好つけてみせても本音は臆病で、罪悪感に耐えきる自信もない」
自嘲するように笑い、
「その《絵筆》で美沙を救ってやれたかもしれないってのにな」
「陽祐さんが責任を感じることじゃないです。美沙さんも、そこまでは望んでないでしょう」
美沙の想いに、陽祐が応えることまでは。
たとえ《アーティファクト》で二人の関係を書き換えたところで、陽祐の美沙への感情は変わらない。
大切な妹。
それは、書き換えられない──




