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そして、八月最初の土曜日──
どこかで鳴く蝉の声を聞きながら、陽祐と美沙は並んでベンチに座り、バスを待つ。
「……何か、飲み物買って来るね」
思いついたように美沙が言い、バッグを置いて立ち上がった。
「俺が買って来るよ」
陽祐も立ち上がると、美沙は苦笑いして、
「ついでにトイレ行きたいから。駅で借りれるよね、駅員さんに頼めば」
「俺、緑茶な」
「割り勘だよ」
笑って言い残し、駅へ戻っていく美沙を、陽祐はベンチに座って見送る。
駅舎の前で、ちょうど出て来た若い女とすれ違い、美沙は中に消えた。
女は、こちらへ歩いて来る。
旅行客だろうか、随分と大荷物だ。
大きなリュックを背負った上に、両手にトートバッグを提げている。
服装は水色のワンピースで、麦わら帽子をかぶっている。
近づいて来た女の顔を見て、陽祐は、どきりとした。
夏花に似ていると思った。
だが、よく見れば夏花より髪は長く、背が高い。年は陽祐より少し上のように見える。
女がバス乗り場まで来たので、陽祐は再び立ち上がった。
美沙のバッグをベンチの端に寄せて、場所を空けてやる。
「どうぞ」
「すいません」
女は、にっこりとしながら会釈して、ベンチに腰を下ろした。
よほど荷物が重かったのか、「ふうっ」と、ため息などついている。
「次のバス、まだあと二十分後ですよ」
陽祐は教えてやった。
「そうですか。ありがとうございます」
女は笑顔で答えると、トートバッグを体の横に立てかけるようにして置く。
だが、柔らかなバッグはすぐに倒れて、中の荷物がいくつか地面に転がった。
折り畳み傘、化粧ポーチ、書店のカバーのついた文庫本。
そして、絵筆のようなもの──それは、陽祐の足元まで転がってきた。
拾ってやろうと陽祐が腰をかがめると、
「あ……触らないで!」
女が叫んだが、遅かった。
* * *
手を触れた途端、陽祐は、それがどんな力を持つ存在か知ってしまった。




