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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
終章  兄妹
87/90

10 - 4

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 そして、八月最初の土曜日──

 どこかで鳴く蝉の声を聞きながら、陽祐と美沙は並んでベンチに座り、バスを待つ。

 

「……何か、飲み物買って来るね」

 

 思いついたように美沙が言い、バッグを置いて立ち上がった。

 

「俺が買って来るよ」

 

 陽祐も立ち上がると、美沙は苦笑いして、

 

「ついでにトイレ行きたいから。駅で借りれるよね、駅員さんに頼めば」

「俺、緑茶な」

「割り勘だよ」

 

 笑って言い残し、駅へ戻っていく美沙を、陽祐はベンチに座って見送る。

 駅舎の前で、ちょうど出て来た若い女とすれ違い、美沙は中に消えた。

 女は、こちらへ歩いて来る。

 旅行客だろうか、随分と大荷物だ。

 大きなリュックを背負った上に、両手にトートバッグを提げている。

 服装は水色のワンピースで、麦わら帽子をかぶっている。

 近づいて来た女の顔を見て、陽祐は、どきりとした。

 夏花に似ていると思った。

 だが、よく見れば夏花より髪は長く、背が高い。年は陽祐より少し上のように見える。

 女がバス乗り場まで来たので、陽祐は再び立ち上がった。

 美沙のバッグをベンチの端に寄せて、場所を空けてやる。

 

「どうぞ」

「すいません」

 

 女は、にっこりとしながら会釈して、ベンチに腰を下ろした。

 よほど荷物が重かったのか、「ふうっ」と、ため息などついている。

 

「次のバス、まだあと二十分後ですよ」

 

 陽祐は教えてやった。

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 女は笑顔で答えると、トートバッグを体の横に立てかけるようにして置く。

 だが、柔らかなバッグはすぐに倒れて、中の荷物がいくつか地面に転がった。

 折り畳み傘、化粧ポーチ、書店のカバーのついた文庫本。

 そして、絵筆のようなもの──それは、陽祐の足元まで転がってきた。

 拾ってやろうと陽祐が腰をかがめると、

 

「あ……触らないで!」

 

 女が叫んだが、遅かった。

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 手を触れた途端、陽祐は、それがどんな力を持つ存在か知ってしまった。


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