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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
終章  兄妹
86/90

10 - 3

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 その朝は駅のホームで、夏花と出くわした。

 

「おはようございまぁっす。センパイいつも、もう一本前の電車でしたよねぇ?」

「朝メシゆっくり食べてたら遅くなった。おまえは、いつもこの時間か」

 

 陽祐が言うと、夏花は笑って、

 

「前はもっと遅かったんですけどぉ、遅刻の回数、やばくなってきたんでぇ……」

「まだ一年の一学期からそれじゃ、しょうがねーな、おまえ」

 

 陽祐は、あきれた顔をする。

 いつもと変わらず混み合うホームで、陽祐は、夏花と並んで電車を待つ。

 夏花が言った。

 

「あの……センパイには、なかったことにしちゃいたい黒歴史って、ありますかぁ?」

「……はあっ?」

 

 陽祐は夏花の顔を見る。

 いきなり何の話かと、あきれながら、

 

「そりゃ、いままで生きてきて、失敗は大きいのも小さいのもやらかしてるけどさ」

 

 夏花とつき合ったことも、その一つかもしれない。結局、長くは続かなかったのだから。

 だが、それは口には出さず、

 

「失敗をなかったことになんて、できねーだろ? 過去は変えられないんだから」

 

 そして、言い添える。

 

「変えられるとすれば未来だろ。現在は過去の結果だけど、未来の結果は出てないんだ」

「センパイ、前向きですねぇ」

 

 くすくす笑う夏花に、陽祐は渋い顔になり、

 

「笑うところか、これ。おまえが振ってきた話じゃねーか」

「はい、すいません。でも、参考になりましたぁ」

「参考? 何の?」

 

 陽祐は夏花の顔を、じっと見て、

 

「……おまえ、本物の麻生か?」

「えっ?」

「なんでもねーよ」

 

 陽祐は眼をそらし、

 

「なんでそんなこと、きいてくるんだ?」

「なんで、でしょうねぇ?」

 

 夏花は陽祐の顔を下から覗き込むようにして、にっこりと笑い、

 

「陽祐センパイ、来年あたしがインターハイに出たら、応援に来てくれますかぁ?」

「出られたら、な。甘くないのは自分でわかってるだろ、今年はついにインハイ逃がして」

「ですから、ついに反省する気になりましたぁ」

 

 夏花は敬礼してみせて、にまぁっと笑い、

 

「約束ですよ、センパイ? 来年、応援よろしくお願いしまぁっす♪」

「毎年、インハイの遠征は直近のOBが手伝うのが伝統だからな」

 

 陽祐は真面目くさった調子で答える。

 

「俺たちの代も、みんなで行くことになるだろ」

「みんなで……ですか。そうですよねぇ……」

 

 夏花は、ふむふむとうなずいている。

 電車がホームに滑り込んで来た。

 ドアが開き、並んでいた客たちが、順番に乗り込み始める。

 陽祐も前に進んだが、夏花は足を止めたまま、

 

「センパイ、先に行っちゃってくださぁい」

「おまえは?」

 

 振り向いてたずねた陽祐に、夏花は笑って、

 

「友達と待ち合わせてたの、思い出したっていうかぁ……」

 

 待ち合わせを忘れるとか、いい加減すぎるだろう。

 あきれる陽祐だったが、後ろの客に背中を押され、夏花を残して電車に乗り込んだ。

 ドアが閉まって、電車はゆっくりと動き出す。

 窓越しの夏花の姿は、すぐに見えなくなった。


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