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これが俺の答えだ、美沙。
おまえが妹じゃなかったら──俺にとって、その仮定は成り立たない。
兄と妹の関係じゃなければ、あの日、あの病室で、おまえを一生、守り抜こうと決心はしていない。
だけど、実際のところ、俺は兄貴なんだ。
兄貴として、おまえを守ろうと誓ったんだ。
守り通してみせるよ。永遠に。
だから、この世界が壊れかけてるなら、もう一度、新しい世界を作り上げればいい。
もっと小さい、箱庭みたいな世界で充分だ。
その代わり、牛とニワトリは飼わせてくれ。牛乳や卵は、おまえも料理に使いたいだろ?
そんな世界で、二人きりで暮らすんだ。おまえと俺で。
夢の世界の永遠の中で。
報われない現実に帰らなければ、いいだけのことだったんだ。
おまえの望みは、俺が叶えてやる。
夢の世界に永遠に留まる限り、そうしたところで、誰も傷つけはしない──
* * *
陽祐は、その場に仰向けに転がった。
荒く息をしながら、ガラスが砕け、素通しになった天窓から覗く、黄金色に染まった空を見上げる。
黄昏時、一日の終わり。
この世界の終わりも、近づいている。
「……お兄ちゃん」
美沙が、すぐそばに来た。
人間の姿に戻っていた。白い裸身が眼に毒だ。
狼の咆哮とともに進行していた世界の崩壊は、収まっていた。
だが、これだけ壊れた。元には戻りそうもない。
だったら、また、作り直せばいい……
美沙は眼から涙を溢れさせ、床に膝をついて、陽祐の手を握った。
「ごめんなさい……、美沙は……」
「……今度は、どんな世界にするか考えたんだ……」
陽祐は、美沙に笑いかけた。
「……おまえも、気に入ると思う。俺に作らせてくれても、いいんだぜ……」
「もう、いい……」
美沙は首を振る。
「美沙の望みを叶えるために、お兄ちゃん自身が望まないことなんて、させられない」
美沙の手に、鈍く輝く《アーティファクト》が握られている。
それを見やって、美沙は微笑んだ。
頬は濡らしたまま。しかし、悪い夢から覚めたように。
「お兄ちゃんは、美沙を妹として愛してくれている。それ以外の答えは、なかったんだね」
美沙は《アーティファクト》を放り投げた。
球形のそれはガラスの破片の散らばる床を転がり、大きな瓦礫にぶつかって、止まった。
その様子を見届けて、陽祐は美沙に視線を戻し、微笑んだ。
「……美沙……」
頭を撫でてやりたかったが、もう腕を上げる力も残っていない。
そろそろ限界だろう。眼の前が暗くなってきた。──いや。
美沙が《アーティファクト》を手放したことで、この世界自体が、終わろうとしているのだ。
美沙の泣き濡れた笑顔も、闇に溶け込もうとしている。
──だけど、大丈夫だ。
美沙は、自分で《アーティファクト》を捨てたんだから……
「……世界が終わるときは、おまえのやりたいことに、つき合うと言ったけど……」
陽祐は苦笑いで言った。
「……ごめん。この世界では、ちょっと間に合いそうもない……」
「世界は終わらないよ。悪い夢が終わるだけ」
美沙の笑顔が、遠のいていく──
* * *
──そして、二人で見続けた夢は終わった。




