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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第九章  美沙(狼)
81/90

9 - 11

 

「……美沙の学校の教室だッ! 連れて行けッ!」

 

 ──カシャンッ!

 

 再びスイッチを切り替えたような音がして、次の瞬間、陽祐は学校の教室らしい場所に立っていた。

 いままで一度も訪れたことはないが、ここが美沙の通う女子高の教室なのだろう。

 ただし、本物そっくりに作られた、夢の世界のニセモノだ。

 陽祐の高校の教室と、それほど違うところはない。

 窓は割れ、机や椅子の並びは乱れて、机からこぼれ落ちた教科書やノートが床に散らばっていたけど。

 

「美沙の机はどこだ?」

 

 陽祐は、教室の前方の戸口に立った、コレクターの女にたずねる。

 女の背後にはホテルのロビーが見えている。

 しかし、戸口の隣の割れた窓からは、学校の廊下が見えていた。夢の世界の空間をじ曲げたのか。

 

「窓側から二列目の、前から三つ目です、美沙さんの記憶では」

 

 言われた机に駆け寄り、中を覗き込んだ。

 教科書が何冊か入っている。

 引っぱり出してみると、音楽や被服や保健という、予習が必要なさそうな科目ばかりだ。

 あとの教科書は家に持ち帰っているのだろう。さすが優等生。

 

「……ロッカーは?」

「廊下です。扉にネームプレートがついています。ダイヤル錠の番号は『595』です」

 

 後ろの戸口から廊下に出た。

 ロッカーは、ほとんど扉が開いて、中のものが割れた窓ガラスにまみれて床に散乱していた。

 ジャージに体育館履き、楽譜にスケッチブック、書道道具に水着など。

 クラスメートのロッカーの中まで再現したのは、やり過ぎだろう、この世界。

 美沙のロッカーは、すぐに見つかった。ダイヤル錠がぶら下がっているところだけ探せばよかった。

 番号を合わせてダイヤル錠を外し、扉を開けて、中身を引っぱり出す。

 ジャージと裁縫道具セット。違う。

 

「……俺たちの中学!」

 

 陽祐は叫んだ。

 

 ──カシャンッ!

 

 切り替わった先も、学校の廊下だった。しかし、見覚えのある中学校の廊下だ。

 並んでいるのは三年生の教室だった。美沙は三年のときは、確かA組だ。

 A組の教室を目指して、廊下を駆け出す。

 だが、世界が大きく揺れて、陽祐は転んだ。

 

「──痛てッ!」

 

 窓ガラスの破片の上に手をついてしまった。

 手のひらを見る。ぱっくりと二センチばかり傷口が開いて、血が流れ出している。

 それで、ようやく気がついた──


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