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「──崩壊が始まりました」
いつの間にか、そばに夏花が立っていた。
いや、夏花の姿を借りた《アーティファクト》のコレクターの女だ。
陽祐は応えて言った。
「おまえに言われなくても、わかってる」
「でも、まだ間に合います。《アーティファクト》さえ見つけ出せば、あなたも美沙さんも助かります」
「この期に及んで、まだ探せってのか?」
「美沙さんを守りたいのでしょう? でしたら、この世界から救い出してあげて下さい」
「いまからじゃ間に合わねーよ。ようやくわかった、俺の部屋の机の引き出しだ」
「探してみますか?」
微笑みながら、女が言った途端。
──カシャンッ!
何かのスイッチを切り替えたような金属的な音が響いて、陽祐は、後ろを振り向いた。
そこにはホテルの非常階段があるはずだった。
だが、そこにあったのは、陽祐の部屋だった。
本棚は倒れ、中の漫画や文庫本が床にぶちまけられて、その上に天井から外れた照明器具が落ちていた。
ガラスが割れた窓の外は、夕陽に照らされている見慣れた町並みだった。
電柱が揺れ、電線は弾むように躍って、家々やビルは震えていたけれど。
「……なッ……?」
陽祐は、狼が咆哮を続けるロビーと、夏花の姿をした女の顔とを、見比べた。
「……おまえ……いったい……?」
「この世界に少しばかり干渉させてもらいました」
笑顔で説明する女に、陽祐はあきれ果てて、
「こんなことして、崩壊を早めちまうんじゃねーのかよ」
「もう壊れ始めてますし、《アーティファクト》さえ見つかればいいんです」
「くそッ! おまえにお宝を渡せば、それでいいんだなッ!」
陽祐は、そこに存在するはずのなかった自分の部屋に駆け込んだ。
机の引き出しの最上段を開ける。
その奥に、ペンや消しゴム、定規などの文房具に埋もれるようにして、黒い細長い小箱が入っていた。
二年前のクリスマスに買った、ネックレスのケースだ。
手にとってみる。
──何も起こらない。
コレクターの女は微笑みながら、戸口で見守っているだけだ。
「……マジかよ……」
目まいのような感覚に襲われる。
美沙がこだわったネックレスが、《アーティファクト》とすり替わっているのではないかと思ったのに。
念のため、箱を開けてみた。
見覚えのある──因縁のネックレスが、収まっているだけだった。
だったら、お宝は何処にある?




