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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第九章  美沙(狼)
80/90

9 - 10

 

「──崩壊が始まりました」

 

 いつの間にか、そばに夏花が立っていた。

 いや、夏花の姿を借りた《アーティファクト》のコレクターの女だ。

 陽祐は応えて言った。

 

「おまえに言われなくても、わかってる」

「でも、まだ間に合います。《アーティファクト》さえ見つけ出せば、あなたも美沙さんも助かります」

「この期に及んで、まだ探せってのか?」

「美沙さんを守りたいのでしょう? でしたら、この世界から救い出してあげて下さい」

「いまからじゃ間に合わねーよ。ようやくわかった、俺の部屋の机の引き出しだ」

「探してみますか?」

 

 微笑みながら、女が言った途端。

 

 ──カシャンッ!

 

 何かのスイッチを切り替えたような金属的な音が響いて、陽祐は、後ろを振り向いた。

 そこにはホテルの非常階段があるはずだった。

 だが、そこにあったのは、陽祐の部屋だった。

 本棚は倒れ、中の漫画や文庫本が床にぶちまけられて、その上に天井から外れた照明器具が落ちていた。

 ガラスが割れた窓の外は、夕陽に照らされている見慣れた町並みだった。

 電柱が揺れ、電線は弾むようにおどって、家々やビルは震えていたけれど。

 

「……なッ……?」

 

 陽祐は、狼が咆哮を続けるロビーと、夏花の姿をした女の顔とを、見比べた。

 

「……おまえ……いったい……?」

「この世界に少しばかり干渉させてもらいました」

 

 笑顔で説明する女に、陽祐はあきれ果てて、

 

「こんなことして、崩壊を早めちまうんじゃねーのかよ」

「もう壊れ始めてますし、《アーティファクト》さえ見つかればいいんです」

「くそッ! おまえにお宝を渡せば、それでいいんだなッ!」

 

 陽祐は、そこに存在するはずのなかった自分の部屋に駆け込んだ。

 机の引き出しの最上段を開ける。

 その奥に、ペンや消しゴム、定規などの文房具に埋もれるようにして、黒い細長い小箱が入っていた。

 二年前のクリスマスに買った、ネックレスのケースだ。

 手にとってみる。

 

 ──何も起こらない。

 

 コレクターの女は微笑みながら、戸口で見守っているだけだ。

 

「……マジかよ……」

 

 目まいのような感覚に襲われる。

 美沙がこだわったネックレスが、《アーティファクト》とすり替わっているのではないかと思ったのに。

 念のため、箱を開けてみた。

 見覚えのある──因縁のネックレスが、収まっているだけだった。

 だったら、お宝は何処どこにある?


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