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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第九章  美沙(狼)
79/90

9 - 9

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

「────!!!!!!!!!!」

 

 狼は咆哮ほうこうして跳躍し、ガラスをうしなった窓からロビーへ飛び降りた。

 

「……美沙ッ!」

 

 陽祐は窓に駆け寄り、ロビーを見下ろす。

 ガラスの雨が降るロビーに、黒い狼は軽やかに着地すると、もうひと声、咆哮した。

 

「────!!!!!!!!!!」

 

 建物全体が、鳴動した。

 壁面の化粧タイルが、ばらばらと剥がれ落ちて、コンクリートの地肌が露出した。

 バーカウンターの後ろの棚のグラスやボトルが倒れ、床に落ちて粉々になった。

 ガラスの橋が崩れ、池に落ちて飛沫しぶきを上げた。

 水中照明がショートしたらしく、バチバチと明滅して消えた。

 世界が崩壊し始めていた。

 

「……くそッ!」

 

 ロビー行きのエレベーターを見やる。

 扉が開いていたが、中の照明は消えていた。使えそうもない。

 どこかに非常階段があるだろう。

 廊下を走り、非常口を示すマークを見つけ、その下のドアを開けた。

 非常階段を駆け下りる。

 各階の中間の踊り場に、その上下の階数を示す表示があった。

 

 ──三十二/三十一、三十一/三十、三十/二十九……

 

 地震のような縦揺れがきて、足元をすくわれそうになった。

 照明が消えて、薄暗い非常灯に切り替わった。

 手すりに手をかけて揺れに耐えながら、できるだけの早足で階段を下りていく。

 

 二十八/二十七、二十七/二十六……

 

 ようやく二十六階にたどり着いた。

 階段は、さらに下の階まで続いているが、用があるのは、ここなんだ。

 ロビーに通じるはずのドアを開けた。

 砕けたガラスや建材の欠片かけらが散らばるロビーの真ん中に、黒い狼がいた。

 

「────!!!!!!!!!! ────!!!!!!!!!!」

 

 咆哮を繰り返すたびに、建物全体が揺れ、破壊された建材がロビーに降り注いだ。

 コンクリートの塊が、陽祐の鼻先をかすめて足元に落ちた。

 

「ぐ……ッ!」

 

 思わず、のけぞって、非常口まで後ずさる。

 ドア枠の下にいれば、少なくとも頭は守れそうだった。ビル全体が崩れ落ちなければ。

 世界の全てが崩壊しなくても、このビルが崩れただけで、現実世界には戻れないだろうと思った。

 ここまでリアルだ。夢の中でも、たぶん、死ねる。


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