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* * *
「────!!!!!!!!!!」
狼は咆哮して跳躍し、ガラスを喪った窓からロビーへ飛び降りた。
「……美沙ッ!」
陽祐は窓に駆け寄り、ロビーを見下ろす。
ガラスの雨が降るロビーに、黒い狼は軽やかに着地すると、もうひと声、咆哮した。
「────!!!!!!!!!!」
建物全体が、鳴動した。
壁面の化粧タイルが、ばらばらと剥がれ落ちて、コンクリートの地肌が露出した。
バーカウンターの後ろの棚のグラスやボトルが倒れ、床に落ちて粉々になった。
ガラスの橋が崩れ、池に落ちて飛沫を上げた。
水中照明がショートしたらしく、バチバチと明滅して消えた。
世界が崩壊し始めていた。
「……くそッ!」
ロビー行きのエレベーターを見やる。
扉が開いていたが、中の照明は消えていた。使えそうもない。
どこかに非常階段があるだろう。
廊下を走り、非常口を示すマークを見つけ、その下のドアを開けた。
非常階段を駆け下りる。
各階の中間の踊り場に、その上下の階数を示す表示があった。
──三十二/三十一、三十一/三十、三十/二十九……
地震のような縦揺れがきて、足元をすくわれそうになった。
照明が消えて、薄暗い非常灯に切り替わった。
手すりに手をかけて揺れに耐えながら、できるだけの早足で階段を下りていく。
二十八/二十七、二十七/二十六……
ようやく二十六階にたどり着いた。
階段は、さらに下の階まで続いているが、用があるのは、ここなんだ。
ロビーに通じるはずのドアを開けた。
砕けたガラスや建材の欠片が散らばるロビーの真ん中に、黒い狼がいた。
「────!!!!!!!!!! ────!!!!!!!!!!」
咆哮を繰り返すたびに、建物全体が揺れ、破壊された建材がロビーに降り注いだ。
コンクリートの塊が、陽祐の鼻先をかすめて足元に落ちた。
「ぐ……ッ!」
思わず、のけぞって、非常口まで後ずさる。
ドア枠の下にいれば、少なくとも頭は守れそうだった。ビル全体が崩れ落ちなければ。
世界の全てが崩壊しなくても、このビルが崩れただけで、現実世界には戻れないだろうと思った。
ここまでリアルだ。夢の中でも、たぶん、死ねる。




