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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第九章  美沙(狼)
78/90

9 - 8

 

「……美沙」

 

 陽祐は、美沙の肩に手を置いて、言った。

 

「一緒に帰ろう。二人で一緒に。オヤジやオフクロが待ってる世界に」

「…………」

 

 美沙は首を振る。両手で涙を拭いながら。

 陽祐は、なおも言う。

 

「俺は兄貴として、おまえを守ると誓った。だから、俺の代わりに、ほかの誰かが──」

 

 俺よりもイケメンで、おまえに釣り合うような優等生で。

 

「おまえを守ってくれるヤツが、現れるまで。俺は、おまえのそばにいるから……」

「…………」

 

 美沙は、また首を振る。

 涙を拭って。

 そして顔を上げ、泣き笑いながら、たずねた。

 

「もしも美沙が妹じゃなかったら、お兄ちゃんは、美沙みたいな女の子を彼女にしてくれた?」

「…………」

 

 陽祐は、しばらく間を置いてから、言った。

 

「……俺にとって、おまえは、生まれたときから大事な妹だ。それ以外のことは、想像つかない」

 

 ほかに何と答えればいいのか。

 是と答えれば、断ち切るべき想いへの未練を残すだけだ。

 否という答えは、いまの美沙が受け止めきれるとは思えない。──いや。

 それを美沙に突きつける勇気が、陽祐自身に、ない。

 

「…………、……美沙は、お兄ちゃんが大好き……」

 

 美沙は言った。泣き笑いのまま。

 

「……でも、美沙は、お兄ちゃんの妹である美沙が、大嫌い」

 

 美沙は陽祐に背を向けて、部屋を飛び出した。

 

「──美沙っ!」

 

 陽祐は叫び、あとを追って廊下に出る。

 

 ──ドオォォォォォ…………ンンンンンッッッッッ!

 

 音が、轟いた。

 思わず足を止め、吹き抜けに面した窓を見る。

 全てのガラスが砕け散り、ロビーへ向けて降っていた。

 天窓のガラスも、ことごとく砕けて、夕陽にきらめきながら、ロビーへ降り注いでいる。

 

「…………ッ!」

 

 美沙を振り返る。

 駆け去る美沙の身体から、バスタオルがはだけて落ちて、裸の背が見えた、次の瞬間。

 白い裸身が黒く変じ、その背は丸まり、手足は縮こまり──

 黒い狼の姿に、変貌した。


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