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「……美沙」
陽祐は、美沙の肩に手を置いて、言った。
「一緒に帰ろう。二人で一緒に。オヤジやオフクロが待ってる世界に」
「…………」
美沙は首を振る。両手で涙を拭いながら。
陽祐は、なおも言う。
「俺は兄貴として、おまえを守ると誓った。だから、俺の代わりに、ほかの誰かが──」
俺よりもイケメンで、おまえに釣り合うような優等生で。
「おまえを守ってくれるヤツが、現れるまで。俺は、おまえのそばにいるから……」
「…………」
美沙は、また首を振る。
涙を拭って。
そして顔を上げ、泣き笑いながら、たずねた。
「もしも美沙が妹じゃなかったら、お兄ちゃんは、美沙みたいな女の子を彼女にしてくれた?」
「…………」
陽祐は、しばらく間を置いてから、言った。
「……俺にとって、おまえは、生まれたときから大事な妹だ。それ以外のことは、想像つかない」
ほかに何と答えればいいのか。
是と答えれば、断ち切るべき想いへの未練を残すだけだ。
否という答えは、いまの美沙が受け止めきれるとは思えない。──いや。
それを美沙に突きつける勇気が、陽祐自身に、ない。
「…………、……美沙は、お兄ちゃんが大好き……」
美沙は言った。泣き笑いのまま。
「……でも、美沙は、お兄ちゃんの妹である美沙が、大嫌い」
美沙は陽祐に背を向けて、部屋を飛び出した。
「──美沙っ!」
陽祐は叫び、あとを追って廊下に出る。
──ドオォォォォォ…………ンンンンンッッッッッ!
音が、轟いた。
思わず足を止め、吹き抜けに面した窓を見る。
全てのガラスが砕け散り、ロビーへ向けて降っていた。
天窓のガラスも、ことごとく砕けて、夕陽に煌めきながら、ロビーへ降り注いでいる。
「…………ッ!」
美沙を振り返る。
駆け去る美沙の身体から、バスタオルがはだけて落ちて、裸の背が見えた、次の瞬間。
白い裸身が黒く変じ、その背は丸まり、手足は縮こまり──
黒い狼の姿に、変貌した。




