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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第九章  美沙(狼)
76/90

9 - 6

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

「お兄ちゃんの言葉に、ママもパパも、おじいちゃんも、泣いていたおばあちゃんも笑ったよね」

 

 美沙は微笑みながら言う。

 

「病室の空気が軽くなったように感じて、それで美沙も、目を覚ましたの。いま気がついたふりをして……」

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 でも、美沙は、ちゃんと聞いてたんだよ。

 お兄ちゃんが、美沙をお嫁さんにしてくれるって言ったのを。

 もちろん、わかってるよ。あのとき、お兄ちゃんは、まだ子供だったし。

 ママやおばあちゃんが、美沙のことで言い合いになってるのを、止めようとしてくれたんだよね。

 それでも、美沙は嬉しかった。

 お兄ちゃんが、美沙を守ってくれるんだって思った。

 だから、何があっても大丈夫だって思えた。

 美沙のほっぺたの傷、綺麗には治らなかった。

 いまも、お日様とか強い光が当たると、うっすらと見えちゃうんだよ。

 小さい頃は、もっと目立ったから、夏のプールの授業はイヤだったな。

 だから、お兄ちゃんがスイミングクラブに入ったとき、美沙は一緒に入らなかった。

 クラブの練習は屋内プールだけど、水泳自体、美沙は嫌いになってたから。

 でも、傷が理由で水泳がイヤだとは、ママやパパには言わなかった。

 あの病室のイヤな空気を思い出させたくなかったから、ほかの習いごとをしたいとだけ言って。

 こども英語のお教室は楽しかったよ。

 先生とは、いまでもお手紙のやりとりしてるし。

 でも、本当はね。

 お兄ちゃんが、一人でスイミングクラブに行っちゃうの、美沙はイヤだった。

 だって、お兄ちゃんには、いつでもずっと、美沙のそばにいてほしいのに。

 だけど、美沙は我慢したよ。

 もう、我がままは言わない。

 いい子になる。

 おばあちゃんや家族を、悲しませるようなことはしない。

 それで、ずっとやってきたんだよ、美沙は。

 小さい頃から、きょうまで、ずっと。

 お兄ちゃんへの想いを、ずっと胸の中だけにしまい込んで。

 日記にだって書かないで。

 だから──


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