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「……おまえが、どれだけ麻生を嫌っているかは、よくわかった」
陽祐は言った。
「だけど電話帳の登録順は、おまえがあとから携帯を買ってもらったからだ。五十音順でも麻生が先だけど」
「ネックレスは? おととしのクリスマスの前に、お兄ちゃん、ネックレスを買ったでしょ」
美沙は言う。
「でも麻生さんと別れちゃって、そのまま机の引き出しにしまってあるの、美沙は知ってるんだよ」
「見たのかよ? べつに見られても構わねーけどさ」
憮然とする陽祐に、美沙は、にんまりと口の端を吊り上げる。
その眼は、しかし笑っていない。
「知ってる? お兄ちゃんの机と美沙の机、引き出しの鍵が一緒なんだよ?」
「知ってたよ。だからって、俺はおまえの引き出しは覗いてねーけどさ」
本当のことをいえば、引き出し自体は覗いたけど、日記の中までは読んでいない。
「覗いてくれてもよかったんだよ? しまってあるのは日記だけど、可愛いことしか書いてないもの」
美沙は、「あはっ♪」と、声を弾ませて、
「お兄ちゃんへの美沙の想いは、大事に胸の中だけにしまってあるから」
日記は《アーティファクト》を見つけ出す手がかりではなかったようだ。
陽祐は、ため息まじりに首を振り、
「ネックレスが気に入らねーのも、わかったよ。でも、仕方ねーだろ、一万円も出して買ったんだ」
口をとがらせて、
「捨てるわけもいかねーし、買取りに出すには、高校生は親の承諾が必要だ。オヤジに頼めるか、そんなの」
「嘘つき。お兄ちゃん本当は、まだ麻生さんのこと好きなんでしょ?」
「それはない」
「嘘。また、嘘ついた。だからネックレスを捨てられないんだ」
「いますぐ捨てれば納得するか? 家に帰ったら、すぐに捨てるよ」
家というのは、夢の世界か現実か、どちらのことになるのだろう。
陽祐は、また、ため息をついて、
「俺にだってプライドがある。ああいう別れ方をして、麻生とよりを戻すことはありえない」
「麻生さんはお兄ちゃんを、まだ好きだと思う。だから、お兄ちゃんを追いかけて同じ高校に入ったんだよ」
美沙は、にんまりと意地の悪い笑みを浮かべて、
「あんな別れ方したくせに、図々しいよね。本当に大嫌い」
「麻生がどんなつもりだろうが、俺にとっては終わった話だ。どうすれば納得するんだ、おまえは?」
「麻生さんより何億倍も、美沙はお兄ちゃんを愛してる。美沙は決してお兄ちゃんを裏切らない」
「麻生なんかと張り合っても仕方ねーだろ」
「美沙は、ずっとお兄ちゃんが好き。ずっと前から、この先もずっと」
美沙は笑った。
笑いながら、眼から涙の粒をこぼした。
「幼稚園の頃からだよ? 覚えてる、お兄ちゃん? 美沙をお嫁さんにしてくれるって言ったの」
「…………」
陽祐は眉をしかめ、記憶をたどる。
美沙が幼稚園に入ったとき、陽祐は小学一年生だった。
兄である自分が妹と結婚できるわけがないことは、理解していたはずだ。
いや、どうだろう。それもわからないほど、自分は子供だったのか。
そもそも、どういう状況で、美沙と結婚したいなどと幼い自分は言い出したのだろう?
美沙は微笑んだ。頬を涙で濡らしたまま。
「美沙が、自転車にぶつかられて怪我をしたときだよ。お兄ちゃんの言葉で、家族みんなが救われたの」
──思い出した。




