表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第九章  美沙(狼)
71/90

9 - 1

 

 

 

     第九章  美沙(獣)

 

 

 

 陽祐は、ひきつった笑みで応えた。

 

「ふざけすぎだよ、おまえ。本気にするほど俺もアホじゃねーけどさ」

「本気だよ、美沙は。本気でお兄ちゃんを愛してる」

「きょうだい愛ってやつだよな?」

「美沙が女として、男であるお兄ちゃんを愛してるって意味だよ」

「……美沙っ!」

 

 陽祐は声を荒らげた。

 

「やめろ、そんな冗談は!」

「どうして冗談だと決めつけるの? 冗談で誰かを愛してるなんて、美沙は言わない。嘘もつかない」

 

 まともじゃないと思った。美沙の様子は。

 父親も母親も消えて、この世界で兄と二人きりという状況に放り込まれて、混乱しているのだ。

 あるいは《アーティファクト》とかいう呪いの道具が、美沙に本心ではないことを言わせているのだ。

 だが、美沙は微笑みを崩さなかった。

 

「ずっと伝えたかった。お兄ちゃんに、美沙の気持ちを。でも、この世界に来るまでは言えなかった」

 

 微笑みながら、眼を潤ませて、

 

「この世界に来ても決心がつかなかった。でも、ようやく言えたの。美沙は、お兄ちゃんを愛してるって」

「……くそっ!」

 

 陽祐はベッドに座り込み、頭を抱えた。

 美沙は、マトモじゃない。兄である自分を、愛しているなどと言う。

 だから世界が崩壊するのか。

 ここは美沙が望んだ夢の世界。

 でも、ここにいる兄の魂は本物で、美沙の望みには応えられない。

 それを美沙自身が理解しているから──

 

「……お兄ちゃん」

 

 美沙が、陽祐の前に立った。無邪気な声で、たずねた。

 

「お兄ちゃんは、美沙じゃダメなの?」

「いいわけねーだろ! オヤジやオフクロがいつ帰って来てもいいように、普通の生活するんだろ!」

 

 叫ぶ陽祐に、美沙は引き裂くような──いままで聞いたこともない、逆上した声を上げた。

 

「ママやパパは関係ないッ!」

 

 だが、すぐに落ち着いた声に戻り、

 

「お兄ちゃんの気持ちをきいてるの。この世界に、ほかに誰もいなくても、お兄ちゃんは、美沙じゃダメ?」

「消去法でする話じゃねーだろ」

 

 陽祐は、美沙の顔を見上げる。

 

「この世界には、おまえと俺しかいない。俺たちが何をしようと、誰にも咎められることはない」

「だったら……」

「でも、俺には、オヤジやオフクロに恥じるようなことは、できない」

「ズルいよ。ママやパパを言いわけにするなんて、ズルすぎるよ。だったら答えて」

 

 美沙は、陽祐をまっすぐ見つめて言う。

 

「お兄ちゃんは、いままで一度も、ママやパパに恥じるようなことをしてないの?」

「…………」

 

 陽祐は美沙の顔を見つめ返したまま、しばらく間を置いてから、うなずいた。

 

「……ああ」

「嘘つき。おととしの夏祭りの夜、麻生さんと学校に忍び込んで、水泳部の部室でエッチしたくせに」

「……してねーよ」

「嘘。嘘つき。麻生さんが学校で言いふらしてたもの」

「麻生は話を盛ったんだろ。本当のところは、ちょっと抱きしめてキスしただけだ」

 

 恥ずかしい打ち明け話をさせられている状況に、陽祐は眉をしかめて眼を伏せ、

 

「祭りに行ってた吹奏楽部の奴らが戻って外が騒がしくなって、見つからないように窓から脱出して終了だ」

「…………」

 

 美沙は、しばらく黙って陽祐を見つめてから、言った。


「美沙、麻生さんが大嫌い」

 

 だから、夏花が世界を滅ぼす存在なのか──


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ