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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第八章  美沙(夢)
70/90

8 - 7

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 いい汗を流して、部屋に戻った。

 夕食の前に風呂を済ませることにして、バスルームの造りを確かめる。

 ビジネスホテルのようなユニットバスと違い、思いのほか広かった。

 バスタブと洗面台の間にガラスの仕切り壁があり、トイレはタイル張りの仕切り壁に隠れている。

 しかし、それぞれ個室になってはいない。

 

「そこそこ広いんだから、風呂とトイレは分けてほしかったな」

 

 陽祐がぼやくと、美沙が笑って、

 

「基本は一人部屋の造りなんだろうね。美沙が先にお風呂入ってもいいかな?」

「構わねーけど」

「お兄ちゃん、バスルームの外で待っててね。何かあれば、すぐ声をかけるから」

「何かって、何があるんだよ」

「いいから。すぐ声が届くところにいてくれなきゃ、イヤだからね」

「相変わらず甘えてるな……」

「何か言った?」

「なんでもねーです」

 

 陽祐は、バスルームのドアに寄りかかり、家から持参した歴史小説の文庫本を読んだ。

 美沙が使うシャワーの音がBGM代わりで、相変わらず色気のないことだ。

 窓の外は日が傾いている。街並みが黄色く染まっている。

 やがて、シャワーの音が止まる。

 しばらくして、美沙の声がした。

 

「お兄ちゃん、出るよ……」

「おう」

 

 陽祐はドアの前を離れて立ち上がる。

 かちゃりと、ドアが開き──

 

「……おい」

 

 陽祐は、ぎょっと眼をむいた。

 美沙はシャワーで上気した肌に、バスタオル一枚巻いただけの姿だった。

 心細げな華奢な肩。

 白い素脚が、タオルの裾から伸びている。

 

「おまえ、その格好、ふざけすぎだろ」

 

 苦笑いする陽祐に、美沙は眼を伏せながら、

 

「お兄ちゃんも、シャワー、浴びて来て」

「おう、わかった、行ってくるから、ちゃんと服は着ておけよ。俺が出たら、ロビーで晩メシだから」

「ううん……このまま待ってる」

 

 美沙は眼を伏せたまま、首を振って言う。

 そして思いきったように顔を上げ、美沙は、微笑んだ。

 

「お兄ちゃん……。美沙は、お兄ちゃんが好き。大好き……愛してる」

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 ──それが、美沙がこの世界を作った理由なのか。


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