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フィットネスルームの大きな窓からも、周囲のビル群が一望できた。
エアロバイクやランニングマシンは、その窓の前に並べてあり、景色を楽しみながらトレーニングできる。
ウエイトマシンだけは置き場所の都合だろう、窓から離れた壁際にある。
「美沙、これやってみるね」
と、さっそく美沙が、エアロバイクにまたがった。
陽祐は笑って、
「自転車なんて毎日、学校行くときに乗ってるだろ」
「でも、眺めがいいもん。このまま空に飛んで行けそうだよ」
そう言いながら、楽しそうに漕ぎ始める。
「どうせお遊びだし、まあいいか」
陽祐も隣のエアロバイクにまたがって、ゆっくり漕ぎ始めた。
窓の外は大都会。
オフィスビルに、高層マンション、新幹線と在来線の駅などが見渡せる。
だが、線路の上にも、ビルの谷間の道路にも、動くものは何も見当たらない。空を飛ぶ鳥もいない。
雲だけが静かに流れている。
これが夢ではなく現実ならば、世界の終わりは、すでに始まっているのだろう。
ビルや道路は誰にも手入れをされず、やがてボロボロになっていく。
落雷や漏電が原因で火事が起きれば、どこまでも燃え広がってしまう。
人間は、たった二人きり。それも兄と妹である。
子孫など残せるわけもない。二人が死ねば、それで終わりだ。
けれども、この世界は美沙の夢であるらしい。
美沙は、兄のために料理をすることが幸せだと言った。
おそらく、それを可能にするために、電気やガス、水道の供給は続いている。
肉や魚は手に入らなくなるとしても、野菜を育てれば、台風などの災害にも遭わず収穫できるのだろう。
それとも、決定的には困らない程度の不作は、イベントとして起きるのだろうか。
兄妹は、おそらくいつまでも生き続ける。年をとることさえないかもしれない。
そんな都合のいい世界を、どうして美沙は、崩壊させてしまうのだろうか。
隣にいる美沙を見た。
エアロバイクがよほど気に入ったのか、額の汗を拭いながら、にこにこしてペダルを踏んでいる。
「……美沙」
「えっ?」
美沙は振り向く。
ペダルを踏み続けながら、微笑んだ。
「なに、お兄ちゃん?」
「おまえは、この世界、気に入ってるか? 神様がくれた夏休みだって言ったよな?」
「あたしは……」
美沙は窓に視線を向ける。
「……お兄ちゃんは、どう?」
「俺は、悪くないと思ってる。世界を『二人占め』なんて、すげー贅沢だろ」
陽祐は言う。
「そのうちスーパーの食材がなくなったら、野菜を育てたり。たまには旅に出てみたり」
「……お兄ちゃんと美沙、二人きりだよ?」
「一人きりじゃなくて、よかったじゃねーか。俺たち二人で、のんびり生きていくのも悪くねーだろ」
だから、世界を崩壊させたりするな。
そこまでは、口にしなかったけど──
「……ふうっ」
美沙は足を止めた。もう一度、兄に微笑みかけ、
「ちょっと休憩。足が疲れちゃった」
「疲れるの早すぎじゃねーか? これが自転車なら、まだ家から駅にも着いてねーだろ」
あきれる陽祐に、美沙は笑って、
「だって、いつも乗ってる自転車よりペダル重いもん」
「オヤジの車も車検間近だぜ。もし壊れたら、歩きか自転車の旅になるんだ。いまから足腰、鍛えとけよ」
「元の世界に戻れるのと、どっちが先かなあ」
「戻ったら文化祭で声優やるんだろ、どっちにしろトレーニングは必要じゃん?」
「うーん、わかった、もう少し頑張る……」
美沙は苦笑いで、またペダルを漕ぎ始めた。
夢の世界でのトレーニングに、効果があるのかは、わからないけど。




