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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第八章  美沙(夢)
65/90

8 - 2

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 掃除のあと、二人でネットで調べて、都会のオフィスビルの上層階にあるホテルを選んだ。

 三十二階建てのビルの二十六階から上がホテルであるらしい。

 ロビーの天井は七フロア分、吹き抜けで、それを取り巻くかたちで各階に客室が並んでいるという。

 ホームページに掲載されたロビーの写真が、いかにも都会的でお洒落で、ここがいいと美沙が決めたのだ。

 地図サイトで道順も調べた。都市部の道はややこしいけど、なんとかなるだろう。

 一泊分の着替えを用意してバッグに詰め込んだ。

 昼食と夕食は、美沙が弁当を用意していた。最初からそのつもりで早起きしたのだという。

 二人で車に乗り込んで、出発した。

 

「普段行けないところなら、セレブの豪邸とか、テレビ局や映画の撮影所でもよかったんじゃねーか?」

 

 陽祐が言うと、美沙は「うーん」と、首をかしげ、

 

「他人の家なんて行っても落ち着かないし、鍵もかかってるでしょ。テレビ局はどうせ誰もいないし」

「そりゃそーか」

 

 高速のインターまで来て、きのうとは逆の都会方向に進んだ。

 

「遊園地も営業してねーし、動物園や水族館は空っぽだし、遊び場は限られてるかもな、この世界」

「山とか海なら、いいんじゃない? ほかに人間がいないから、思いきり自然を味わえるよ」

「そうだな。ついでに温泉も貸切で」

「旅館に泊まっても、お食事は出て来ないけどね」

「調理場に入り込んで、二人で作ろうぜ。食材はそのへんの山菜になりそうだけど」

 

 二人で笑い合う。

 やがて、行く手に都会のビル群が見えてきた。

 道は片側二車線になったが、ほかに車がいないので混み合うことはない。

 目的地まで、もうすぐだろう。

 美沙は陽祐がセットしたCDの曲に合わせて口ずさんでいる。

 去年くらいのヒット曲。

 

「……おまえ、人に見せたくない秘密の宝物とか、あったりするか?」

 

 何げないふうを装って、きいてみた。

 

「え? いきなり何よ、お兄ちゃん?」

 

 美沙は笑って、

 

「お兄ちゃんこそ、秘密のお宝をベッドの下とかに隠してない?」

「ベッドの下? なんだそりゃ?」

「きのう読んだ漫画にあったでしょ、男の子の部屋のベッドの下は、宝の山だって」

「エロ本かよ」

 

 陽祐は苦笑いして、

 

「そんなもん隠してなんてねーよ、だいたいベッドの下とか、オフクロが掃除に入ったらバレるだろ」

「どこならバレないの?」

「知らねーよ、そんなん家では読まねーし」

 

 陽祐は笑うしかない。うまくはぐらかされてしまった。

 そう思っていたら、美沙が言った。

 

「……美沙だったら、誰にも渡したくない宝物は、どこかに隠すんじゃなくて、肌身離さず持ち歩くよ」

「そっか……」

 

《アーティファクト》も、そうしているのだろうか。

 だとすれば、それを美沙の手から取り上げることは不可能なんじゃないか?


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