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陽祐のバイトは二十五日までだった。
勤務に入る前に顔を合わせた鮎川先輩は、にやにや笑いながら「きのうの首尾」を聞いてきた。
「どう? ネックレス、喜んでもらえた?」
「いや……渡さなかったです。いろいろあって……」
「いろいろって、何があったのよ? 待ち合わせに遅れて行って、彼女を怒らせちゃったとか?」
「まあ、そんなところです……」
曖昧に笑う陽祐に、鮎川先輩は真顔になり、
「それ、ただ喧嘩しただけって顔じゃないよね?」
「…………」
答えないでいる陽祐の肩を、鮎川先輩は、ぽんっと叩いた。
「わたしもプレゼント選びに協力して、無関係じゃないし。後悔しないための相談なら乗るよ?」
にやりと笑って、
「ただの愚痴なら、聞かないけどさ。バイト終わるまでに考えといて」
「ええ、はい……ありがとうございます」
そして最終日のバイトが終わり、ミニスカサンタの女性陣は、打ち上げに行こうと盛り上がった。
陽祐も誘われたが、用事があるからと断った。
鮎川先輩は、何か言いたげだったが、結局は何も言わなかった。
* * *
そして、それきり。
陽祐は自分から夏花と連絡をとる気はなかったし、夏花も連絡をしてこなかった。
他人に経緯を話せば、意地っぱりだといわれるかもしれない。
だが、陽祐にとっては譲れない一線だった。
ノブという男の行動は不意討ちであったにしても、そのあとの夏花の態度は、受け入れがたかった。
雪だるまサンタの中身が陽祐であることなど、夏花には想像もできなかったろう。
だが、陽祐に見られていようと、そうでなかろうと、あのような反応は、してほしくなかった。
* * *
それから一年と三ヶ月少しあと。
夏花は陽祐と同じ高校に入学して、同じ水泳部に入って来た。
彼女のほかに、中学の水泳部の後輩は入学して来なかった。
久しぶりに顔を合わせた夏花は、ただの「同じ中学の後輩」としての態度で、陽祐に接してきた。
陽祐も同じように「ただの先輩」として、夏花に接した。
夏花の練習態度も、ごく普通で、サボり魔の片鱗は見せなかった。
もっとも、クラブではオリンピック代表選手と同じコーチの下で指導を受けていた夏花である。
高校のパートタイム勤務のコーチが組んだ練習メニューが充分なものであったか、陽祐にはわからない。
そのうちに、夏花と陽祐が昔、つき合っていたという噂が広まった。
水泳部員ではなくとも同じ中学の出身者には、夏花と陽祐の関係は知れ渡っていたことである。
噂の出所は、いくらでも考えられた。
夏花は、それを否定しない代わりに、
「あたしがちょっとやらかして、フラれちゃいましたぁ」
と、笑い話にして済ませた。
それ以上の詮索をされたときは、
「勘弁してくださいよぉ、あたしのトラウマ、抉る気ですかぁ?」
やはり笑って、軽く流した。
やがて噂は沈静化して、ときどき陽祐や夏花をからかうネタに使われるだけになった。
* * *
夏花がサボり魔を卒業した理由を、陽祐が聞く機会はなかった。




