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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第七章  夏花(真)
63/90

7 - 18

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 陽祐のバイトは二十五日までだった。

 勤務に入る前に顔を合わせた鮎川先輩は、にやにや笑いながら「きのうの首尾」を聞いてきた。

 

「どう? ネックレス、喜んでもらえた?」

「いや……渡さなかったです。いろいろあって……」

「いろいろって、何があったのよ? 待ち合わせに遅れて行って、彼女を怒らせちゃったとか?」

「まあ、そんなところです……」

 

 曖昧に笑う陽祐に、鮎川先輩は真顔になり、

 

「それ、ただ喧嘩しただけって顔じゃないよね?」

「…………」

 

 答えないでいる陽祐の肩を、鮎川先輩は、ぽんっと叩いた。

 

「わたしもプレゼント選びに協力して、無関係じゃないし。後悔しないための相談なら乗るよ?」

 

 にやりと笑って、

 

「ただの愚痴なら、聞かないけどさ。バイト終わるまでに考えといて」

「ええ、はい……ありがとうございます」

 

 そして最終日のバイトが終わり、ミニスカサンタの女性陣は、打ち上げに行こうと盛り上がった。

 陽祐も誘われたが、用事があるからと断った。

 鮎川先輩は、何か言いたげだったが、結局は何も言わなかった。

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 そして、それきり。

 陽祐は自分から夏花と連絡をとる気はなかったし、夏花も連絡をしてこなかった。

 他人に経緯を話せば、意地っぱりだといわれるかもしれない。

 だが、陽祐にとっては譲れない一線だった。

 ノブという男の行動は不意討ちであったにしても、そのあとの夏花の態度は、受け入れがたかった。

 雪だるまサンタの中身が陽祐であることなど、夏花には想像もできなかったろう。

 だが、陽祐に見られていようと、そうでなかろうと、あのような反応は、してほしくなかった。

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 それから一年と三ヶ月少しあと。

 夏花は陽祐と同じ高校に入学して、同じ水泳部に入って来た。

 彼女のほかに、中学の水泳部の後輩は入学して来なかった。

 久しぶりに顔を合わせた夏花は、ただの「同じ中学の後輩」としての態度で、陽祐に接してきた。

 陽祐も同じように「ただの先輩」として、夏花に接した。

 夏花の練習態度も、ごく普通で、サボり魔の片鱗は見せなかった。

 もっとも、クラブではオリンピック代表選手と同じコーチの下で指導を受けていた夏花である。

 高校のパートタイム勤務のコーチが組んだ練習メニューが充分なものであったか、陽祐にはわからない。

 そのうちに、夏花と陽祐が昔、つき合っていたという噂が広まった。

 水泳部員ではなくとも同じ中学の出身者には、夏花と陽祐の関係は知れ渡っていたことである。

 噂の出所は、いくらでも考えられた。

 夏花は、それを否定しない代わりに、

 

「あたしがちょっとやらかして、フラれちゃいましたぁ」

 

 と、笑い話にして済ませた。

 それ以上の詮索をされたときは、

 

「勘弁してくださいよぉ、あたしのトラウマ、えぐる気ですかぁ?」

 

 やはり笑って、軽く流した。

 やがて噂は沈静化して、ときどき陽祐や夏花をからかうネタに使われるだけになった。

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 夏花がサボり魔を卒業した理由を、陽祐が聞く機会はなかった。


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