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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第七章  夏花(真)
62/90

7 - 17

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 午後八時五十分。

 カラオケ屋の前に、夏花がいた。

 待ちくたびれた顔だったが、陽祐に気づくと、笑顔になった。

 

「センパイ、お疲れさまでぇす。ずいぶん忙しかったみたいですねぇ」

「ああ……」

 

 陽祐は夏花に近づいていきながら、辺りを見回す。

 先ほど見覚えた顔はない。夏花と別れて、五人でどこへ向かったのか。

 陽祐は、夏花の前に立った。

 

「…………」

「……センパイ、バイトで何かあったんですかぁ? なんだか怖い顔しちゃってぇ?」

 

 笑ってたずねる夏花に、陽祐は、言った。

 

「西高の葉山って、野球部の一年生エースなのな」

「え……?」

 

 夏花は、僅かに表情を強ばらせる。

 そしてすぐに、誤魔化すように笑ってみせ、

 

「有名な人なんですかぁ?」

「そこそこ、な。ネットで検索すれば引っかかる。秋季大会でベスト4まで勝ち上がったそうだ」

「へぇぇ……」

 

 夏花は小首をかしげながら、眼をらす。

 陽祐は、ため息をついた。

 

「おまえ、学校で想像以上に噂になってんのな。半分は自分で広めてるみたいだけど。水嶋に聞いたよ」

「水嶋先輩に、何を……ですか?」

「西高生と合コンしたとか、そういう話。イブの日にこんなこと電話で聞いて、水嶋には悪いことしたけど」

「あたしは、いろいろ噂にされやすいんですよねぇ。水泳部からハブられたりもしてますしぃ」

 

 眼を合わさないまま、笑う夏花に、陽祐は言いきった。

 

「自分がしてきたことの結果だろ。水泳バカを卒業したつもりが、勘違いした中学デビューだ」

「中学デビューって……」

 

 夏花は苦笑いで、首を振る。

 

「マリナもユーコも、悪い子じゃないですよぉ? あたしにつき合ってくれてる友達のこと言ってるなら?」

「ケースケと葉山も、そうなんだろうな。たぶん、ノブってヤツも」

「…………」

 

 夏花は笑みを消し、陽祐の顔を見た。

 

「センパイ、バイトって、何してるんですかぁ?」

「ケーキ屋で着ぐるみ着せられてる」

「…………、……はぁ」

 

 夏花は、肩を落として眼を伏せた。

 

「マリナもユーコも悪い子じゃないですけどぉ、ノブさんみたいなチャラいのは、あたし嫌いですよぉ?」

「べつに、そんなこと聞いてねーよ」

「聞いてなくても言いますよぉ、誤解されたままって、イヤですからぁ」

「誤解されたままで、何か困ることあんの?」

「…………」

 

 夏花は、陽祐の顔を見る。

 

「誤解したままでいいと、センパイは思ってるんですかぁ?」

「そもそも誤解じゃないと思ってる」

「…………」

 

 夏花は、また眼を伏せて、握った拳で頬をこすった。

 ノブという男にキスされた頬だ。

 

「……合コン、しましたよぉ、マリナたちとのつき合いでぇ」

 

 夏花は言った。

 頬をこすり続けながら、自嘲気味に笑い、

 

「でも人数合わせですよぉ、向こうも葉山さんとか彼女持ちがいましたしぃ、ノブさんもそうでしたしぃ」

「だとしたら、ノブが彼女と別れたの、おまえに乗り換えようと思ったからじゃねーの?」

「そうだったとしても、あたし、ノブさんは全く眼中にないですしぃ」

「笑ってたけどな、おまえ。あいつにキスされたあと」

「…………」

 

 夏花の手が止まる。

 伏せた睫毛が、僅かに震える。

 だが、また自嘲するように笑った。泣き出したりしなかった。

 

「そこは……だって、あそこで怒ったりできますかぁ? その場のノリがあるじゃないですかぁ?」

「マリナとかユーコは、おまえが俺とつき合ってること、知ってたんじゃねーの?」

 

 陽祐は冷ややかに、夏花を見やる。

 

「それでもノブをけしかけるって、その場のノリでやっていいことなの、おまえの友達の間じゃ?」

「…………、それは……、でも……」

 

 言葉に詰まる夏花に、陽祐は、自分の携帯電話の画面を向けてみせた。

 

「あいつらが悪いヤツじゃないって、おまえ言うけどさ」

 

 ノブという男が夏花の頬にキスをしている様子が、そこに映っていた。

 

「この写真、学校中にバラまいてるみたいだぜ。水嶋にも送られて来たのを、転送してもらった」

「…………」

 

 夏花は、もう何も言わなかった。


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