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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第二章  美沙(一)
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2 - 2

 誰からか連絡があるかもしれないので、両親の携帯はジーンズのポケットに入れて持ち歩くことにした。

 一階にはもう一部屋、六畳の和室があった。

 この家が建てられた当時は客間という設定だったようだが、陽祐が知る限り、客が泊まったのは一度きり。

 十年ほど前、北海道から母方の祖父母が来てくれたときだけだ。

 その客間にも当然のように誰もおらず、念のため開けた押入れも、布団が二組、入っているだけだった。

 和室を出て玄関へ向かう。美沙があとからついてくる。

 靴入れを開けながら、美沙にたずねる。

 

「オフクロの靴がなくなってるか、わかるか?」

「ママがどんな靴もってるか、全部は知らないよ」

「オヤジの靴はあるみたいだ。いつも同じのしか履かないから、すぐわかる」

 

 玄関のドアの鍵はかかっていた。鍵が開いたままなら、いよいよ不審だったけど。

 サンダルを突っかけて、家の外に出た。

 日差しがいやに眩しかった。顔をしかめて、門の脇の郵便受けを確かめた。

 手紙などは入っていなかった。それに、朝刊もない。

 玄関から心配そうに見ている美沙にたずねた。

 

「……新聞、とったか?」

「まだとってない。いつもパパがとりに行くでしょ」

「オヤジは何時に起きてる、いつも?」

「美沙より少しあとだよ」

 

 それなら、今朝は父親が新聞をとったわけではないのだろう。配達を忘れられただけかもしれない。

 

「…………」

 

 ふと違和感を覚えて、家の前の道を左右、見渡した。

 物音がしなかった。人も車も通らない。

 

「……きょう、日曜じゃねーよな?」

「木曜だよ。なに言ってんの」

「そうだよな。日曜ならオヤジたち、二人で早起きして散歩かもしんねーけど……」

 

 もう一度、辺りを見渡す。

 景色はいつもと変わりないようでいて、庭木の葉っぱが風にそよぐほか、何も動くものがない。

 あまりにも静寂。

 

「……隣近所をピンポンダッシュして回ったら、怒られるよな?」

「ばか、当たり前でしょ! 冗談を言ってる場合じゃないんだよ!」

「逃げるから怒られるんだ。適当なこと言って、ごまかせばいいのか」

「ちょっと、お兄ちゃん……?」

 

 陽祐は門の外に出た。道を横切り、向かいの家の門の前に立つ。

 いつもなら、たちまち吠えかかってくるはずの、玄関脇の犬小屋のラブラドールがいなかった。

 もちろん、散歩に出かけているだけかもしれない。

 チャイムを押した。

 

 ──応答なし。

 

 開いていた門の中に入り、玄関のドアをノックして「すいません」と呼びかけたが、返事はなかった。

 その隣の家へ行って、またチャイムを押した。やはり応答なし。

 ドンドンとドアを叩き、「すいませーん!」と叫んだ。

 反応がないので、そのまた隣の家へ走った。チャイムを押し、ドアを叩いた。

 そしてまた次の家で、同じことの繰り返し。

 面倒になって、道の真ん中で怒鳴ってみた。

 

「おーいっ! 誰か、いねーのかっ!」

「お兄ちゃん……」

 

 心配そうな顔をして、そばまで来た美沙に、陽祐は言った。

 

「おまえ、向こう側の家、チャイム鳴らして回れ」

「ママたちが来てるって言うの?」

「いや。どの家も、誰も出て来ねーと思うから」

「そんなこと……」

 

 美沙は眼を丸くして、陽祐の顔を見つめた。


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