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誰からか連絡があるかもしれないので、両親の携帯はジーンズのポケットに入れて持ち歩くことにした。
一階にはもう一部屋、六畳の和室があった。
この家が建てられた当時は客間という設定だったようだが、陽祐が知る限り、客が泊まったのは一度きり。
十年ほど前、北海道から母方の祖父母が来てくれたときだけだ。
その客間にも当然のように誰もおらず、念のため開けた押入れも、布団が二組、入っているだけだった。
和室を出て玄関へ向かう。美沙があとからついてくる。
靴入れを開けながら、美沙にたずねる。
「オフクロの靴がなくなってるか、わかるか?」
「ママがどんな靴もってるか、全部は知らないよ」
「オヤジの靴はあるみたいだ。いつも同じのしか履かないから、すぐわかる」
玄関のドアの鍵はかかっていた。鍵が開いたままなら、いよいよ不審だったけど。
サンダルを突っかけて、家の外に出た。
日差しがいやに眩しかった。顔をしかめて、門の脇の郵便受けを確かめた。
手紙などは入っていなかった。それに、朝刊もない。
玄関から心配そうに見ている美沙にたずねた。
「……新聞、とったか?」
「まだとってない。いつもパパがとりに行くでしょ」
「オヤジは何時に起きてる、いつも?」
「美沙より少しあとだよ」
それなら、今朝は父親が新聞をとったわけではないのだろう。配達を忘れられただけかもしれない。
「…………」
ふと違和感を覚えて、家の前の道を左右、見渡した。
物音がしなかった。人も車も通らない。
「……きょう、日曜じゃねーよな?」
「木曜だよ。なに言ってんの」
「そうだよな。日曜ならオヤジたち、二人で早起きして散歩かもしんねーけど……」
もう一度、辺りを見渡す。
景色はいつもと変わりないようでいて、庭木の葉っぱが風にそよぐほか、何も動くものがない。
あまりにも静寂。
「……隣近所をピンポンダッシュして回ったら、怒られるよな?」
「ばか、当たり前でしょ! 冗談を言ってる場合じゃないんだよ!」
「逃げるから怒られるんだ。適当なこと言って、ごまかせばいいのか」
「ちょっと、お兄ちゃん……?」
陽祐は門の外に出た。道を横切り、向かいの家の門の前に立つ。
いつもなら、たちまち吠えかかってくるはずの、玄関脇の犬小屋のラブラドールがいなかった。
もちろん、散歩に出かけているだけかもしれない。
チャイムを押した。
──応答なし。
開いていた門の中に入り、玄関のドアをノックして「すいません」と呼びかけたが、返事はなかった。
その隣の家へ行って、またチャイムを押した。やはり応答なし。
ドンドンとドアを叩き、「すいませーん!」と叫んだ。
反応がないので、そのまた隣の家へ走った。チャイムを押し、ドアを叩いた。
そしてまた次の家で、同じことの繰り返し。
面倒になって、道の真ん中で怒鳴ってみた。
「おーいっ! 誰か、いねーのかっ!」
「お兄ちゃん……」
心配そうな顔をして、そばまで来た美沙に、陽祐は言った。
「おまえ、向こう側の家、チャイム鳴らして回れ」
「ママたちが来てるって言うの?」
「いや。どの家も、誰も出て来ねーと思うから」
「そんなこと……」
美沙は眼を丸くして、陽祐の顔を見つめた。