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「おまえに片瀬や、ほかの部員をバカにする資格なんてねーだろ!」
陽祐は声を荒らげた。
「いつも練習サボりまくって、たまに顔を出したと思えば、プールサイドでふらふら遊んで!」
「そんなあたしに、誰も勝てないんですよねぇ、うちの学校の水泳部」
夏花は、にっこりと笑って胸を張った。
「積み重ねた練習の質も量も違うんですよぉ。こっちはオリンピック代表選手の隣で泳いでたんでぇ」
「…………、おまえ……」
陽祐は言葉に詰まる。
あきれた暴言だが、正論でもあった。
夏花は、ただのサボり魔ではない。全国レベルの大会での実績がある。
それは小学生時代までの夏花自身が打ち込んだ練習の成果なのだ。
「……それだけ努力してきたことを、どうして全部投げ捨てて、サボり魔なんかになってんだよ?」
「いつも言ってることですよぉ? 六年生のときのJOCで四位に終わって、燃え尽きたってぇ」
笑ってみせる夏花を、陽祐は、じっと見据えた。
「悪ぶってるのかカッコつけてんのか、そういうのヤメろよ、おまえ」
「べつに、悪ぶってなんてないですけどぉ?」
「おまえにとって、俺は何なんだ? 真面目な相談ができねーような、頼りない彼氏なのか?」
「…………」
夏花は口をつぐみ、陽祐を見つめ返す。
陽祐は、言った。
「俺は水泳選手としてのおまえに、正直なところ憧れてる。泳ぎが綺麗で、見て惚れ惚れする」
「…………、そう……ですか……?」
この流れで泳ぎを褒められると思わなかったのか、夏花は、きょとんと眼を丸くした。
陽祐は言葉を続ける。
「俺も小学生でスイミングクラブをやめたけど、それは中学の年代では選手コースに誘われなかったからだ」
笑ってみせ、
「県で決勝に残れるかどうかのレベルじゃ、仕方ねーけどさ。百メートルフリーはライバルが多いし」
「……もしかして、陽祐センパイ、あたしが全中に出るような選手だから、つき合ってくれたんですか?」
じっと見つめてくる夏花に、陽祐は苦笑した。
「そういうわけじゃねーよ。おまえが一年のときは、つき合うことになるなんて考えもしなかったし」
「昔のあたし、ゴボウみたいでしたもんねぇ。あんまり可愛くなかったでしょ」
夏花は、くすくすと笑う。自覚があったらしい。
陽祐も笑い、
「彼女として好きなのとは別に、水泳選手としてのおまえに、俺は惚れてるんだ」
だから……と、陽祐は言い添える。
「おまえがサボり魔やってるのが、俺は、もったいないと思う」
「そう、ですか。わかりました……」
夏花は、やれやれ……と首を振りながら、肩をすくめてみせた。
「じゃあ、あたしの彼氏であり熱烈なファンでもある陽祐センパイに、話しますねぇ、あたしの家の恥」
「家の……恥?」
思わず、きき返す陽祐に、夏花は肩をまたすくめ、
「いえ、そこまで重い話じゃないんですけどぉ」
そして、にっこりと笑ってみせて、言った。
「あたしは、水泳しか知らないバカな子になりたくないだけなんですよぉ」




