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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第七章  夏花(真)
55/90

7 - 10

「おまえに片瀬や、ほかの部員をバカにする資格なんてねーだろ!」

 

 陽祐は声を荒らげた。

 

「いつも練習サボりまくって、たまに顔を出したと思えば、プールサイドでふらふら遊んで!」

「そんなあたしに、誰も勝てないんですよねぇ、うちの学校の水泳部」

 

 夏花は、にっこりと笑って胸を張った。

 

「積み重ねた練習の質も量も違うんですよぉ。こっちはオリンピック代表選手の隣で泳いでたんでぇ」

「…………、おまえ……」

 

 陽祐は言葉に詰まる。

 あきれた暴言だが、正論でもあった。

 夏花は、ただのサボり魔ではない。全国レベルの大会での実績がある。

 それは小学生時代までの夏花自身が打ち込んだ練習の成果なのだ。

 

「……それだけ努力してきたことを、どうして全部投げ捨てて、サボり魔なんかになってんだよ?」

「いつも言ってることですよぉ? 六年生のときのJOCで四位に終わって、燃え尽きたってぇ」

 

 笑ってみせる夏花を、陽祐は、じっと見据えた。

 

「悪ぶってるのかカッコつけてんのか、そういうのヤメろよ、おまえ」

「べつに、悪ぶってなんてないですけどぉ?」

「おまえにとって、俺は何なんだ? 真面目な相談ができねーような、頼りない彼氏なのか?」

「…………」

 

 夏花は口をつぐみ、陽祐を見つめ返す。

 陽祐は、言った。

 

「俺は水泳選手としてのおまえに、正直なところ憧れてる。泳ぎが綺麗で、見てれする」

「…………、そう……ですか……?」

 

 この流れで泳ぎを褒められると思わなかったのか、夏花は、きょとんと眼を丸くした。

 陽祐は言葉を続ける。

 

「俺も小学生でスイミングクラブをやめたけど、それは中学の年代では選手コースに誘われなかったからだ」

 

 笑ってみせ、

 

「県で決勝に残れるかどうかのレベルじゃ、仕方ねーけどさ。百メートルフリーはライバルが多いし」

「……もしかして、陽祐センパイ、あたしが全中に出るような選手だから、つき合ってくれたんですか?」

 

 じっと見つめてくる夏花に、陽祐は苦笑した。

 

「そういうわけじゃねーよ。おまえが一年のときは、つき合うことになるなんて考えもしなかったし」

「昔のあたし、ゴボウみたいでしたもんねぇ。あんまり可愛くなかったでしょ」

 

 夏花は、くすくすと笑う。自覚があったらしい。

 陽祐も笑い、

 

「彼女として好きなのとは別に、水泳選手としてのおまえに、俺は惚れてるんだ」

 

 だから……と、陽祐は言い添える。

 

「おまえがサボり魔やってるのが、俺は、もったいないと思う」

「そう、ですか。わかりました……」

 

 夏花は、やれやれ……と首を振りながら、肩をすくめてみせた。

 

「じゃあ、あたしの彼氏であり熱烈なファンでもある陽祐センパイに、話しますねぇ、あたしの家の恥」

「家の……恥?」

 

 思わず、きき返す陽祐に、夏花は肩をまたすくめ、

 

「いえ、そこまで重い話じゃないんですけどぉ」

 

 そして、にっこりと笑ってみせて、言った。

 

「あたしは、水泳しか知らないバカな子になりたくないだけなんですよぉ」


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