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家に帰ると、エプロン姿の美沙が、パタパタとスリッパで駆けてきた。
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
「たでーま。おまえが晩メシ作ってんの?」
「おかずはママが作って、美沙はお蕎麦を茹でるだけだけど。ママ、いまお風呂だから、お兄ちゃんは先にごはんで」
「オフクロに言ったんだけどな。俺が帰る時間は決まってんだから、風呂に入るなら、その前にしてくれって」
「でもお兄ちゃん、きょうはいつもより遅かったでしょ」
「…………」
陽祐は気まずく口をつぐむ。きょうは本屋に寄り道したのだ。
美沙は笑って、
「ママもさっきまでテレビ観てたから、お兄ちゃんの言ったこと忘れてたと思うけど。美沙からママに言っておくよ」
「いや……、自分の都合があるのは、お互い様だよな。オフクロには、そのまま忘れさせておけ」
本屋といえば、イヤな話をもう一つ、思い出した。
夏花が学校で広めているという噂を、美沙も知っているのだろうか。
「……おまえ、学校でさ」
「え?」
キッチンへ戻ろうとした美沙は、振り向いて、
「なあに、お兄ちゃん?」
「……なんでもねーや」
確かめたところで、どうなるというのだ。
兄が夏花とつき合っていることを、美沙が知ったところで、どうということもない。




