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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第七章  夏花(真)
51/90

7 - 6

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 二学期に入ると、陽祐の高校の水泳部は日曜も練習日になった。

 代わりの休みは水曜日で、陽祐が夏花と会うのも、水曜の放課後が中心になった。

 ハンバーガー屋とかショッピングセンターのフードコートで、おしゃべりするか。

 たまにカラオケ屋に行くか。

 放課後にできることは限られていたけど、夏花は楽しそうにしてくれた。

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 九月半ばの火曜日の、部活帰り。

 陽祐は、地元の駅前の本屋に寄った。

 通学電車の中で読むための歴史小説の新刊を探して、文庫本の売場を見て回っていると、

 

「──陽祐先輩じゃないッスか?」

 

 声をかけて来たのは、中学の水泳部の水嶋みずしまという後輩だった。

 陽祐の一学年下で、夏合宿の前まで主将を務めていた。

 彼が抱えている高校受験用の過去問題集を見て、陽祐は、

 

「水嶋おまえ、うちの高校受けるの?」

「ええ、でも第一志望は学費の都合で公立ッスけど。ウチは姉貴も弟もいるんで、すいません」

「謝ることじゃねーよ」

「まあ、そうッスけどね。いちおう仁義ってやつッス」

 

 水嶋は笑ってから、ふと思い出したように真顔になり、

 

「あの……陽祐先輩って、麻生夏花とつき合ってるんッスよね?」

「え? ああ……」

 

 陽祐は曖昧にうなずいて、

 

「……誰かから、聞いたの?」

「いやもう、水泳部内どころか学校中の噂ッスよ、麻生が自分で周りに喋ってますから」

「…………」

 

 陽祐は眉をひそめる。

 そんなことは初めて聞いた。

 学校中で噂が広まっているなら、美沙の耳にも入っているのだろうけど、妹は何も言ってきていない。

 自分で言いふらしているという夏花も、何のつもりなのか。

 水嶋が言った。

 

「先輩は、麻生が片瀬かたせたちと揉めたこと、ぶっちゃけどう思ってるんッスか?」

「…………、揉めた……?」

 

 訊き返す陽祐に、水嶋は眼を丸くして、

 

「知らなかったんッスか? 新人戦の前に、片瀬たち二年の一部が、麻生を退部させようとしたんッス」

 

 片瀬というのは夏花の同級生で、水嶋から主将を引き継いだ女子部員だ。

 夏花とは別のスイミングクラブに所属しているが、中学の水泳部の活動にも、しっかり参加している。

 種目は背泳ぎだが、いつも全国大会出場にギリギリで届かず、実績では夏花に及ばない。

 水嶋は続けた。

 

「クラブに入ってるヤツが、そっちメインで練習するのは、当たり前ッスよね。でも、麻生の場合は……」

「選手コースを外れて一般会員で泳いでるだけだって、自分で言ってるからな……」

 

 陽祐が言って、水嶋はうなずき、

 

「それで中途半端に部活に来ては、プールサイドでサボってるでしょう?」

 

 腕組みをして、ふんっと鼻を鳴らし、

 

「でも上級生は、大会で結果さえ出せば、それで許してきちゃったんッスよね、オレら三年も含めて」

「それが、片瀬たちには気に入らなかったのか……?」

 

 たずねる陽祐に、水嶋は首をかしげ、

 

「というかまあ、一年への悪影響ッスよね。泳ぎさえ速ければ、何をしても許されるのかって」

「だから、夏花……麻生を、水泳部から追放した……?」

「いえ、二年にも麻生の退部に反対するヤツはいて、三年生が間に入ってくれって頼まれて」

 

 水嶋は自嘲気味に笑って、

 

「でもオレらが麻生を甘やかした元凶じゃないッスか、片瀬たちにすれば。言うこときくわけないッスよね」

「…………、それは……そもそも、俺たちの代の責任だよ……」

 

 陽祐は、うめくように言った。

 さらにいえば、陽祐には個人的な責任もある。

 陽祐は夏花にとって、ただの先輩ではなく「彼氏」でもあるのだから。

 水泳部関係者として一番近しい立場にある自分が、夏花をたしなめるべきだった。

 陽祐たち上級生から見れば、夏花は「憎めないキャラ」の「可愛い後輩」である。

 だが、下級生の眼には、いくらサボっても怒られない、要領のいいヤツとしか映っていないかもしれない。

「先輩」と呼ぶには値しないと、思われていても仕方がない。

 サボり魔の夏花が、上級生らしい責任を部内で果たしているとも思えないからだ。

 陽祐は、たずねた。

 

「それで麻生は、どうなったんだ……?」

「結局、浜田はまだ先生に仲裁してもらおうってことになって──」


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