7 - 6
* * *
二学期に入ると、陽祐の高校の水泳部は日曜も練習日になった。
代わりの休みは水曜日で、陽祐が夏花と会うのも、水曜の放課後が中心になった。
ハンバーガー屋とかショッピングセンターのフードコートで、おしゃべりするか。
たまにカラオケ屋に行くか。
放課後にできることは限られていたけど、夏花は楽しそうにしてくれた。
* * *
九月半ばの火曜日の、部活帰り。
陽祐は、地元の駅前の本屋に寄った。
通学電車の中で読むための歴史小説の新刊を探して、文庫本の売場を見て回っていると、
「──陽祐先輩じゃないッスか?」
声をかけて来たのは、中学の水泳部の水嶋という後輩だった。
陽祐の一学年下で、夏合宿の前まで主将を務めていた。
彼が抱えている高校受験用の過去問題集を見て、陽祐は、
「水嶋おまえ、うちの高校受けるの?」
「ええ、でも第一志望は学費の都合で公立ッスけど。ウチは姉貴も弟もいるんで、すいません」
「謝ることじゃねーよ」
「まあ、そうッスけどね。いちおう仁義ってやつッス」
水嶋は笑ってから、ふと思い出したように真顔になり、
「あの……陽祐先輩って、麻生夏花とつき合ってるんッスよね?」
「え? ああ……」
陽祐は曖昧にうなずいて、
「……誰かから、聞いたの?」
「いやもう、水泳部内どころか学校中の噂ッスよ、麻生が自分で周りに喋ってますから」
「…………」
陽祐は眉をひそめる。
そんなことは初めて聞いた。
学校中で噂が広まっているなら、美沙の耳にも入っているのだろうけど、妹は何も言ってきていない。
自分で言いふらしているという夏花も、何のつもりなのか。
水嶋が言った。
「先輩は、麻生が片瀬たちと揉めたこと、ぶっちゃけどう思ってるんッスか?」
「…………、揉めた……?」
訊き返す陽祐に、水嶋は眼を丸くして、
「知らなかったんッスか? 新人戦の前に、片瀬たち二年の一部が、麻生を退部させようとしたんッス」
片瀬というのは夏花の同級生で、水嶋から主将を引き継いだ女子部員だ。
夏花とは別のスイミングクラブに所属しているが、中学の水泳部の活動にも、しっかり参加している。
種目は背泳ぎだが、いつも全国大会出場にギリギリで届かず、実績では夏花に及ばない。
水嶋は続けた。
「クラブに入ってるヤツが、そっちメインで練習するのは、当たり前ッスよね。でも、麻生の場合は……」
「選手コースを外れて一般会員で泳いでるだけだって、自分で言ってるからな……」
陽祐が言って、水嶋はうなずき、
「それで中途半端に部活に来ては、プールサイドでサボってるでしょう?」
腕組みをして、ふんっと鼻を鳴らし、
「でも上級生は、大会で結果さえ出せば、それで許してきちゃったんッスよね、オレら三年も含めて」
「それが、片瀬たちには気に入らなかったのか……?」
たずねる陽祐に、水嶋は首をかしげ、
「というかまあ、一年への悪影響ッスよね。泳ぎさえ速ければ、何をしても許されるのかって」
「だから、夏花……麻生を、水泳部から追放した……?」
「いえ、二年にも麻生の退部に反対するヤツはいて、三年生が間に入ってくれって頼まれて」
水嶋は自嘲気味に笑って、
「でもオレらが麻生を甘やかした元凶じゃないッスか、片瀬たちにすれば。言うこときくわけないッスよね」
「…………、それは……そもそも、俺たちの代の責任だよ……」
陽祐は、うめくように言った。
さらにいえば、陽祐には個人的な責任もある。
陽祐は夏花にとって、ただの先輩ではなく「彼氏」でもあるのだから。
水泳部関係者として一番近しい立場にある自分が、夏花をたしなめるべきだった。
陽祐たち上級生から見れば、夏花は「憎めないキャラ」の「可愛い後輩」である。
だが、下級生の眼には、いくらサボっても怒られない、要領のいいヤツとしか映っていないかもしれない。
「先輩」と呼ぶには値しないと、思われていても仕方がない。
サボり魔の夏花が、上級生らしい責任を部内で果たしているとも思えないからだ。
陽祐は、たずねた。
「それで麻生は、どうなったんだ……?」
「結局、浜田先生に仲裁してもらおうってことになって──」




