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夏花の言う通り、中学校の校門は開いていた。
いくつかの教室の窓に明かりがともっており、自主練習だろうか、楽器の音色がまばらに聞こえてくる。
「今夜は打ち上げを兼ねて、夏祭りに行くって話でしたけど、学校に残ってる子もいるみたいですねぇ」
夏花は言いながら、ためらう様子もなく校門を通り抜ける。
陽祐は、そのあとを追って、夏花の横に並び、
「いまさらだけど……よその部が合宿してるところに、勝手に入ってマズくねーか?」
「校舎には入らないから、大丈夫ですよぉ。それに吹奏楽部って大所帯ですしぃ……」
夏花が向かうのは、校庭の端にある運動部の部室棟のほうだ。
「見つかっちゃっても、お疲れさまでぇすとか挨拶しとけば、暗いし部員の誰かと思ってもらえるでしょ?」
「そんなうまくいかねーだろ……」
釈然としない陽祐に、夏花は愉しげに、
「あたし、男子の水泳部の部室って、いっぺん入ってみたかったんですよぉ」
「男の部室なんて、きったねーぞ」
「でも、陽祐センパイが、どんな場所で青春を送ったのか興味ありますしぃ」
「青春って、部室に大した思い出があるわけでもねーけど」
陽祐は苦笑いする。
「部活が終わったあと、みんなでだらだらとダベったりとか、そんな程度だよ」
「だけど、それが楽しいんじゃないですかぁ?」
「おまえこそ、どーなんだよ? まだ二年だし、いまが青春、真っ盛りだろ?」
「あたしはサボり魔ですからねぇ、いつもセンパイが言う通り」
夏花は悪びれずに言って、くすくす笑う。
部室棟の前まで来た。
男子の運動部の部室が一階に並び、女子の部室は外階段を上がって二階にある。
水泳部男子の部室のドアには南京錠タイプのダイヤル錠がついている。
夏花がスマートフォンの簡易ライトで番号を照らしてくれた。
「よかった、鍵は変わってねーや」
陽祐は番号を合わせてダイヤル錠を外し、ドアを開けた。
「あ……だけど、電気をつけたら、俺たちがここにいるの、スイ部の連中にバレちまうんじゃねーか?」
「だったら電気をつけなきゃいいんじゃないですかぁ? お邪魔しまぁす」
夏花は物おじもせずに部室に入る。
陽祐は、あとに続いて、
「暗いままじゃ、男子の部室がどんなふうか、何も見えねーだろ?」
「雰囲気だけわかれば、大丈夫ですよぉ。あっ、ドアは閉めて下さい」
「ああ……」
陽祐がドアを閉めて、夏花に向き直ると──
相手は、すぐ前に近づいていた。
「セ・ン・パイッ♪」
窓の外は完全な闇ではない。
そこから差し込む、ほのかな光で、夏花の悪戯っぽい笑顔が、なんとか見分けられる。
ここまで来て、夏花の目的が「男子の部室の探検」だけだとは、陽祐も考えない。
いまの部室の主である後輩たちに申し訳ない、とは思わないでもなかったけど──
「…………、……夏花……」
陽祐は、夏花の背に手を回す。
キスはパイナップルシロップの味がした。




