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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第六章  夏花(偽)
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42/90

6 - 2

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 この世界は、美沙さんの夢です。

 ほかの全ての人間が消えた世界で、お兄さんであるあなたと二人きりになる。

 それは美沙さんの、心の奥底に秘めていた願望なんです。

 

 ……待って、最後まで話を聴いて下さい。

 異論反論も最後に受け付けますから。

 

 とにかく、あなたは、その夢の中に魂を囚われています。

 美沙さんは、自分が作った夢の世界に、あなたを閉じ込めてしまったんです。

 そんなことができたのは《アーティファクト》の力です。

《アーティファクト》というのは、わかりやすくいえば魔法の道具です。

 でも、漫画とかゲームじゃない現実の世界に、魔法が存在するはずありませんよね。

「存在するはずがないのに存在している」のが《アーティファクト》なんです。

 それは、私たちが知る現実とは、別の世界で作られたものだと考えられています。

 そして、どういう理由でか、ときどき現実の世界に出現してしまいます。

 実験とか特定の目的があって現実世界に送り込まれるのか、偶然の事故か、単なる嫌がらせか。

 それは全くわかりません。

 作っているのが何者かもわからないんです。異世界の人間か、神様か、悪魔なのか。

《アーティファクト》は、それぞれ異なった力を持っています。

 美沙さんが手に入れたのは、望み通りの夢の世界を作り出す《アーティファクト》です。

 手に入れたのは、あなたがたの家の近くの駅の駐輪場です。

 美沙さんが停めた自転車のカゴに入っていたんです。

《アーティファクト》は、よくそういう出現の仕方をします。

 美沙さんはそれを見て、誰かの忘れ物だと思ったようです。

 駐輪場の係の人に渡そうとしましたが、手を触れた途端に、それがどういう存在か知ってしまいました。

《アーティファクト》にはそういう力があります。取扱説明機能といいますか。

 美沙さんは《アーティファクト》の使い道に迷ったようです。

 どんな世界を作れたとしても、それは夢でしかないからです。

 しかし《アーティファクト》を手放すこともできず、家に持ち帰り、夜になって眠りにつきました。

 そして無意識のまま、あるいは夢うつつのまま、この世界を作り出したんです。

 いま、美沙さんは、自らの願望が産んだこの世界に罪悪感を覚えています。

 この世界にあなたを閉じ込めてしまったことも、罪悪感の原因の一つです。

 それが狼や、いま私が姿を借りている麻生夏花さんの存在として現れています。

 夏花さんという同級生は、美沙さんにとって、狼と同様の存在です。

 つまり、あなたと二人きりの世界を終わらせる破壊の権化です。

 この世界の夏花さんは、あなたの場合と違って本人の魂が囚われているわけではありません。

 あくまで夢の中のニセモノです。

 あなたがたの眼には触れなかったようですが、狼と同様、きっかけがあれば姿を現していたはずです。

 世界の破壊者として。

 ですから、この世界は非常に不安定です。

 その状態は、美沙さん自身の精神にも大きな影響を与えています。

 このままいけば、この世界が崩壊すると同時に、美沙さん自身の精神も崩壊してしまう恐れがあります。

 その場合、この世界に囚われているあなたの魂も無事では済まないでしょう。

 そして、たとえこの世界が崩壊しなくても、いまのままでは、あなたがたは永遠に元の世界に戻れません。

 この世界で、あなたがたは三日間を過ごしているはずですが、実際は無限小の時間しか経過していません。

 現実世界では、いまはまだ木曜日の午前一時なんです。

 このままいけば──この世界が崩壊しなければ、ですけど。

 あなたと美沙さんは、永遠にこの世界で暮らし続けることになります。

 それを避けるには、美沙さんに《アーティファクト》を手放して頂くしかありません。

 望ましいのは、美沙さんが自らの意思であなたの魂を解放して、現実世界に帰ろうと決意することです。

 ですが、いまの不安定な精神状態では、それは望めそうにありません。

 それができれば、罪の意識など感じる必要はないんです。

 自分の願望を実現させた夢の世界を放棄するには、相当の決意が必要です。

 ですから、残る道は一つ。

 美沙さんが夢の世界のどこかに隠した《アーティファクト》を、あなたが見つけ出すしかありません。

 そして、それを私に渡してください。

 自分で探すことができればいいのですが、最初に言ったように、この世界への介入は長く続けられません。

 外から覗くことはできますから、あなたが《アーティファクト》を見つけたら、すぐに受け取りに来ます。

 それにしても、私も驚きました。

 現実世界に出現した《アーティファクト》を、それ自体が作り出した夢の世界に隠すことができるなんて。

 これほど安全な隠し場所は、ほかにありません。

《アーティファクト》は、ある種の人たちの間では知られた存在です。

 それを手に入れるために、手段を選ばないような人もいます。

 美沙さんが手に入れた《アーティファクト》は、使いようによっては悪魔の道具になるんです。

 憎い相手の魂を夢の世界に閉じ込めて、永遠の苦痛を与えることができるのですから。

 そうした使い方をする人の手に渡る前に、《アーティファクト》を私自身が手に入れるか。

 それができなければ現実世界から消滅させるのが、私の目的です。

 ちなみに、私が夏花さんの姿を借りて、あなたと話している理由ですけど。

 それは、この世界の構成要素であなたと意思疎通できる存在が、ほかになかったからです。

 何しろここは、あなたと美沙さん二人きりの世界ですからね。

 世界の破壊者である夏花さんを別にすれば。

 それと、申し訳ないと思いましたけど。

 この世界に干渉した時点で、夢の世界における三日間、あなたたちがどのように過ごしたか。

 美沙さんの記憶を覗かせて頂きました。

 この世界は美沙さんの夢ですから、彼女の記憶を探れば、この世界の出来事は一通りわかるのです。

 説明としては、こんなところでしょうか。

 もう、あまり時間がありませんが、何か質問がありましたら、どうぞ。


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