表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第六章  夏花(偽)
41/90

6 - 1

 

 

 

     第六章  夏花(偽)

 

 

 

 窓を開けて、陽祐は叫んだ。

 

「──麻生!」

 

 小石か何かを投げようとしていた手を止めて、夏花は、悪戯っぽく笑ってみせた。

 

「陽祐さん……」

 

 どういうわけか、夏花は中学時代の制服の紺色のブレザー姿だ。

 陽祐は美沙を振り返った。目を覚ます様子はない。

 

「そこで待ってろ!」

 

 夏花に呼びかけ、陽祐は窓を乗り越えて、庭に下りた。

 しかし塀まで乗り越えるよりは、門へ回ったほうが早い。

 すぐに外の道へ出て、夏花の前まで走った。夏花は、その場で待っていた。

 少し走っただけなのに、息が切れたように感じた。裸足だったので足の裏も痛い。

 夏花は微笑んでいる。

 

「…………、おまえ……」

 

 すぐには言葉が出なかった。

 世界中の人間が消えたはずだった。

 だが、自分たち兄妹と同様に、麻生も取り残されていたのか、この世界に……?

 

「……いままで、どこにいた? おまえ一人か、家族も一緒か?」

「私は、いまここに来たばかりです」

 

 笑顔のままで、おかしな答えを夏花は返した。

 

「あまり時間がないんです。私の話、聴いてもらえますか?」

「いや、ちょっと待て。美沙にも一緒に聞かせたい。うちに入れよ」

「美沙さんは、朝まで目を覚ましません。あなたと話をするために、この世界に干渉しました」

 

 ますます、おかしなことを言う。

 

「でも、私がここにいられるのは長い時間ではありません。直接的な介入は、世界の崩壊を早めますから」

「……おまえ、なに言ってんだかわかんねーぞ」

 

 陽祐は顔をしかめた。

 ようやく現れたと思った自分たち兄妹以外の人間が、どうやら頭がテンパっているらしい麻生夏花だとは。

 夏花は苦笑いして、

 

「順を追って説明します。まず、ここは、夢の世界です。そう、文字通りの夢なんです」

「…………」

 

 陽祐は、うなずかない。

 世界中の人間が消えたこの世界が夢である可能性は、もちろん陽祐も考えている。

 だが、それを夏花に言われて、素直に受け入れたくはない。

 

「……頬をつねって痛い夢があるのかよ?」

「ただの夢ではありません。限りなく本物に似せて作られた、美沙さんの願望を満たしてくれる世界です」

「美沙の願望?」

 

 意味がわからない。

 世界中の人間を消したいと、どうして美沙が願うんだ?

 

「……悪いが、麻生」

 

 陽祐は努めて冷静に言った。内心では、かなり苛立っていた。

 

「昼間いろいろあって、あまり普通の精神状態じゃねーんだ。無駄話にはつき合ってられねーぞ」

「昼間というのは、狼のことですね?」

「…………」

 

 陽祐は眼を見開く。

 

「……おまえが、何でそれを知ってる?」

 

 夏花はそれには答えず、にっこりとして、

 

「あの狼は、美沙さんの罪悪感が、映画で観た狼の姿を借りて具現化したものです」

「罪悪感? 何に対しての罪悪感だ?」

 

 陽祐はたずねたが、やはり夏花は答えずに笑顔のまま、

 

「よほど印象に残った映画だったのでしょうね。違う映画の記憶が強ければ、巨人や怪獣が現れたのかも」

「……おまえ、麻生じゃねーだろ。何者だ?」

 

 陽祐は言った。

 落ち着いて考えれば、奇妙だった。

 中学の制服姿でいることは別としても、夏花から「陽祐さん」などと呼ばれたことは、一度もない。

 つき合っていた当時も呼び方は「センパイ」か「陽祐センパイ」だった。

 夏花は──夏花の姿をした相手は、笑顔のままで答えた。

 

「それも順番に説明します。質問は最後にまとめて受け付けますから、まずは話を聴いて頂けますか?」

「……言ってみろ」

「はい、えっと……」

 

 夏花の姿の相手は、もったいぶって咳払いしてから、語り始めた──


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ