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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第五章  美沙(四)
40/90

5 - 9

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 狼のことを思い出させないように、美沙の気を紛らわしたほうがいいだろう。

 そう考えた陽祐は、交代でシャワーを浴びて着替えたあとは、二人でDVDを観ることにした。

 スパイアクション物と刑事アクション物。

 美沙の気に入るか自信はなかったけど、意外と真剣に見入っていて安心した。

 それから、二人で晩ごはんを作って食べた。

 冷凍しておいた鯖とごはんと味噌汁、それにホウレンソウが悪くなりかけていたのでソテーにした。

 ビールも飲んだ。

 食後の予定は、まだ考えていなかった。

 皿を洗いながら、陽祐は言った。

 

「ビデオ屋で、もっといろいろ借りてくればよかったな」

「そうだね……」

 

 赤い顔でテーブルに頬杖をついた、美沙が答える。

 テレビゲームで対決しても、酔った美沙が相手では勝負にならないだろう。

 

「おまえが友達から借りたDVD、あれは面白かったか?」

「観たいの、お兄ちゃん?」

「そういうわけじゃないけど、おまえは一度観てるんだし。漫研のドラマCDと、関係ある話?」

「ううん、ドラマは別の漫画が原作で」

 

 いかにも少女漫画らしいタイトルを、美沙は言った。

 美沙はヒロインの少女役を頼まれているが、ほかの登場人物は全て男だという。

 もちろん、女子高だから演じるのは全員、女性だ。

 

「うちにも漫画あるよ。読んでみる?」

 

 皿洗いが終わって、二人で美沙の部屋へ行き、並んでベッドに寄りかかって座り、読書会となった。

 陽祐は一巻から読み始め、美沙も読み返したかったからと言って、途中の巻から読む。

 ドラマCDで取り上げるエピソードが、その巻から始まるらしい。

 ヒロインの周りに次々と格好いい男が現れる、いかにも少女漫画らしい話だった。

 とはいえ絵柄は綺麗だし、ときおりギャグもあったりで、なかなか楽しめた。

 二巻まで読み終えたところで、陽祐はベッドの枕元の時計を見た。

 

「ちょっと早いけど、そろそろ寝るか。きょうは遠出して疲れたろ? シャワー、もういっぺん浴びるか?」

「ううん、このまま寝ちゃう。エアコンのおかげで汗もかいてないし」

 

 美沙があくびしながら答え、二人で和室へ行って寝ることにした。

 寝るときもエアコンをつけて、窓は閉めたままにした。

 美沙が布団から手を伸ばしてきたので、陽祐は握り返してやった。

 美沙は安心したように、すぐに寝息を立て始めた。

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 夜中に目を覚ますのは、ここ最近なかったことだ。

 陽祐は、ぼんやりと天井を眺める。

 昼間の狼騒ぎで、まだ興奮しているのかも。

 いや、そうじゃない。

 

 ──かつんっ。

 

 何かが、窓に当たる音がしたのだ。

 いまも、また。

 美沙とつないでいた手を離し、揺り起こそうとした。

 

「ん……」

 

 美沙は小さく声を上げたが、目を覚まさない。

 

 ──かつんっ。

 

 くそっ。

 陽祐は舌打ちして起き上がった。

 障子を開けて、窓の外を見る。

 庭に何かがいる様子は……ない。

 いや。

 塀の外だった。

 家の前の道に、月明かりを浴びて立つ人間の姿があった。

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 麻生夏花だった。


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