5 - 9
* * *
狼のことを思い出させないように、美沙の気を紛らわしたほうがいいだろう。
そう考えた陽祐は、交代でシャワーを浴びて着替えたあとは、二人でDVDを観ることにした。
スパイアクション物と刑事アクション物。
美沙の気に入るか自信はなかったけど、意外と真剣に見入っていて安心した。
それから、二人で晩ごはんを作って食べた。
冷凍しておいた鯖とごはんと味噌汁、それにホウレンソウが悪くなりかけていたのでソテーにした。
ビールも飲んだ。
食後の予定は、まだ考えていなかった。
皿を洗いながら、陽祐は言った。
「ビデオ屋で、もっといろいろ借りてくればよかったな」
「そうだね……」
赤い顔でテーブルに頬杖をついた、美沙が答える。
テレビゲームで対決しても、酔った美沙が相手では勝負にならないだろう。
「おまえが友達から借りたDVD、あれは面白かったか?」
「観たいの、お兄ちゃん?」
「そういうわけじゃないけど、おまえは一度観てるんだし。漫研のドラマCDと、関係ある話?」
「ううん、ドラマは別の漫画が原作で」
いかにも少女漫画らしいタイトルを、美沙は言った。
美沙はヒロインの少女役を頼まれているが、ほかの登場人物は全て男だという。
もちろん、女子高だから演じるのは全員、女性だ。
「うちにも漫画あるよ。読んでみる?」
皿洗いが終わって、二人で美沙の部屋へ行き、並んでベッドに寄りかかって座り、読書会となった。
陽祐は一巻から読み始め、美沙も読み返したかったからと言って、途中の巻から読む。
ドラマCDで取り上げるエピソードが、その巻から始まるらしい。
ヒロインの周りに次々と格好いい男が現れる、いかにも少女漫画らしい話だった。
とはいえ絵柄は綺麗だし、ときおりギャグもあったりで、なかなか楽しめた。
二巻まで読み終えたところで、陽祐はベッドの枕元の時計を見た。
「ちょっと早いけど、そろそろ寝るか。きょうは遠出して疲れたろ? シャワー、もういっぺん浴びるか?」
「ううん、このまま寝ちゃう。エアコンのおかげで汗もかいてないし」
美沙があくびしながら答え、二人で和室へ行って寝ることにした。
寝るときもエアコンをつけて、窓は閉めたままにした。
美沙が布団から手を伸ばしてきたので、陽祐は握り返してやった。
美沙は安心したように、すぐに寝息を立て始めた。
* * *
夜中に目を覚ますのは、ここ最近なかったことだ。
陽祐は、ぼんやりと天井を眺める。
昼間の狼騒ぎで、まだ興奮しているのかも。
いや、そうじゃない。
──かつんっ。
何かが、窓に当たる音がしたのだ。
いまも、また。
美沙とつないでいた手を離し、揺り起こそうとした。
「ん……」
美沙は小さく声を上げたが、目を覚まさない。
──かつんっ。
くそっ。
陽祐は舌打ちして起き上がった。
障子を開けて、窓の外を見る。
庭に何かがいる様子は……ない。
いや。
塀の外だった。
家の前の道に、月明かりを浴びて立つ人間の姿があった。
* * *
麻生夏花だった。




