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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第五章  美沙(四)
39/90

5 - 8

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 家の前に車を停めた。

 陽祐は助手席に回って、ドアを開けてやった。

 

「……ありがとう」

 

 ようやく美沙は言葉を発し、車を降りる。

 陽祐は水着姿のままだが、家に着くまでの間に身体は乾いていた。

 車のキーと一緒にキーホルダーについていた父親の鍵で、玄関のドアを開ける。

 自分の鍵は後部座席に置いた服のポケットだ。あとで回収すればいいだろう。

 いまは、早く休みたい。玄関の鍵は、しっかり閉めた。

 居間のソファに腰を下ろして、陽祐は言った。

 

「ひでえ目に遭ったな。いろいろ置いてきちまったけど、取りに戻る気にならねーや」

 

 足元に転がっていたリモコンを拾い、エアコンを入れる。

 窓は開ける気にならない。ここまで狼が追いかけてくることは、ないと思うけど。

 思いたいけど。

 眼の前に立ちつくしている美沙に、笑いかけた。

 

「おまえ、先にシャワー浴びて着替えろよ。下が水着のままじゃ、気持ち悪いだろ?」

「……お兄ちゃん」

 

 美沙は眼を上げた。

 じっと、陽祐の顔を見て、

 

「もし本当に、きょうで世界が終わるとしたら、お兄ちゃんは何をしたい?」

 

 口をきいたと思ったら、おかしなことを言い出した。

 あきれながらも、陽祐はきき返す。

 

「この世界が終わったら、元の世界に戻れるという前提か?」

「この世界も元の世界も……みんな、終わっちゃうとしたら」

「最後にやりたいことなんて、思いつかねーな」

 

 陽祐は言って、首をかしげた。

 

「海外旅行は一日じゃ無理だし、もう何日か余裕があったとしても、交通手段がない」

 

 ソファに座ったまま、軽く腕を回してみる。

 ずっとハンドルを握っていたせいで、肩がこってしまった。

 運転の緊張と、狼から逃げたい気持ちで、力が入りすぎていたのだろう。

 

「元の世界にいたとしても、世界に終わりが来ることがわかったら、飛行機なんて飛ばないだろ?」

「もっと身近でできることは?」

「そうだな、旨い寿司が食いたいけど、寿司屋もやってねーだろうし」

「手巻き寿司でよければ作ってあげるよ」

「それは是非お願いしたいな。あとは、そうだな……」

 

 陽祐は、しばらく考えてから、妹に向かって微笑み、

 

「おまえが最後にやりたいことがあったら、つき合うよ。海に行くのでも、一日アニメ鑑賞会でも」

「……ありがとう、お兄ちゃん」

 

 美沙も笑顔を見せた。

 

「世界が終わるときが来たら、そのときは、お願いね」

「さあ、さっさとシャワー浴びて来い」

「ついて来てくれないの、お兄ちゃん?」

「わかったよ。まったく手のかかる子供だな、おまえ」

 

 陽祐は苦笑いして、立ち上がった。


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