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家の前に車を停めた。
陽祐は助手席に回って、ドアを開けてやった。
「……ありがとう」
ようやく美沙は言葉を発し、車を降りる。
陽祐は水着姿のままだが、家に着くまでの間に身体は乾いていた。
車のキーと一緒にキーホルダーについていた父親の鍵で、玄関のドアを開ける。
自分の鍵は後部座席に置いた服のポケットだ。あとで回収すればいいだろう。
いまは、早く休みたい。玄関の鍵は、しっかり閉めた。
居間のソファに腰を下ろして、陽祐は言った。
「ひでえ目に遭ったな。いろいろ置いてきちまったけど、取りに戻る気にならねーや」
足元に転がっていたリモコンを拾い、エアコンを入れる。
窓は開ける気にならない。ここまで狼が追いかけてくることは、ないと思うけど。
思いたいけど。
眼の前に立ちつくしている美沙に、笑いかけた。
「おまえ、先にシャワー浴びて着替えろよ。下が水着のままじゃ、気持ち悪いだろ?」
「……お兄ちゃん」
美沙は眼を上げた。
じっと、陽祐の顔を見て、
「もし本当に、きょうで世界が終わるとしたら、お兄ちゃんは何をしたい?」
口をきいたと思ったら、おかしなことを言い出した。
あきれながらも、陽祐はきき返す。
「この世界が終わったら、元の世界に戻れるという前提か?」
「この世界も元の世界も……みんな、終わっちゃうとしたら」
「最後にやりたいことなんて、思いつかねーな」
陽祐は言って、首をかしげた。
「海外旅行は一日じゃ無理だし、もう何日か余裕があったとしても、交通手段がない」
ソファに座ったまま、軽く腕を回してみる。
ずっとハンドルを握っていたせいで、肩がこってしまった。
運転の緊張と、狼から逃げたい気持ちで、力が入りすぎていたのだろう。
「元の世界にいたとしても、世界に終わりが来ることがわかったら、飛行機なんて飛ばないだろ?」
「もっと身近でできることは?」
「そうだな、旨い寿司が食いたいけど、寿司屋もやってねーだろうし」
「手巻き寿司でよければ作ってあげるよ」
「それは是非お願いしたいな。あとは、そうだな……」
陽祐は、しばらく考えてから、妹に向かって微笑み、
「おまえが最後にやりたいことがあったら、つき合うよ。海に行くのでも、一日アニメ鑑賞会でも」
「……ありがとう、お兄ちゃん」
美沙も笑顔を見せた。
「世界が終わるときが来たら、そのときは、お願いね」
「さあ、さっさとシャワー浴びて来い」
「ついて来てくれないの、お兄ちゃん?」
「わかったよ。まったく手のかかる子供だな、おまえ」
陽祐は苦笑いして、立ち上がった。




