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二階の自室で陽祐が勉強しているうちに、母親が帰って来たらしい。
玄関まで迎えに出た美沙と話す声が聞こえてきた。十時半頃のことだ。
やがて、十一時を回って父親が帰宅した。美沙はまだ起きていたようで、母親と三人で話す声がした。
陽祐は机に広げていた勉強道具を片づけてダイニングへ降りていった。
父親と母親がテーブルについてビールを飲んでいた。
母親は風呂を済ませたらしくパジャマ姿で、父親は背広の上着だけ脱いでいる。
キッチンで素麺を茹でていた美沙が、陽祐に気づいて振り返り、
「お兄ちゃんもまた、お素麺食べる? ママも夜食にするって」
「素麺はいいや」
陽祐は食器棚からグラスを出して、テーブルについた。父親にグラスを突き出して、
「俺も、いい?」
「まあ」
OB会帰りでテンションが上がっているらしい母親は、おどけるように眼を丸くした。
「オヤジと酒を酌み交わそうなんて、一年早いぞ」
言いながらも父親はまんざらでもない顔で、陽祐のグラスにビールを注ぐ。
陽祐は美沙の顔を見て、にやりと笑ってみせた。
美沙は口をとがらせながら、皿に盛りつけたキュウリの糠漬けを運んで来て、
「一年じゃ、まだお兄ちゃん十九じゃないの」
「大学生になれば酒と煙草と賭け麻雀は解禁だよ。なあ、陽祐?」
父親が言って、母親が、
「あら、賭け麻雀はまずいでしょ。せめてパチンコじゃないの?」
「やだもう、この家のオトナ。つき合いきれない。先に寝ちゃえばよかった」
美沙はあきれた顔で、火にかけた素麺の鍋の前に戻る。
その背に向かって母親が、
「美沙ちゃんも一杯やる? 仲間にお入りなさいな」
「結構です!」
美沙は振り返らずに答えた。
本気で怒っているような口ぶりだったけど、母親も父親も笑うばかりだった。
* * *
──そして翌朝、陽祐は異変を知った。




