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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第五章  美沙(四)
35/90

5 - 4

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 河原より一段高い駐車場に車を停めて、何度か往復して荷物を運んだ。

 まずは二人で浅瀬に石を積んで小さなせきを作り、スイカを冷やす。

 続いてバーベキューセットを組み立てて、火を起こす。

 火の番は美沙に任せておいて、陽祐はパラソルを立て、その下にチェアを二つ並べる。

 クーラーボックスも日が当たらないよう、パラソルの下に置いた。

 バーベキューセットのそばにテーブルを広げて、紙皿や紙コップ、焼肉のタレのボトルなどを並べた。

 その間、美沙は野菜を焼き始めている。

 クーラーボックスから缶ビールを出し、二つのコップに注ぎ、一つを美沙に差し出した。

 

「美沙はいいや。酔うと動けなくなりそうだから」

「なら、俺が飲んじまうぞ」

「お兄ちゃんも、ほどほどにしてね。あとで美沙に泳ぎを教えてくれるんでしょ?」

 

 そういえば、そういう約束だった。

 美沙には代わりにコーラを注いでやり、陽祐は焼き網に肉を並べ始めた。

 すぐに、肉が焼けるいい匂いが辺りに漂い始めた。

 

「お兄ちゃん、食べ始めていいよ」

「おまえから食えよ。ほっといても俺は食うんだから」

「そう……?」

 

 美沙は遠慮がちに肉をとり、紙皿に出した焼肉のタレをつけてから、口に運ぶ。

 

「……おいしい」

 

 そう言って、にっこり微笑んだ。

 

「やっぱ、焼きたては最高だよな」

 

 陽祐も笑って、自分の肉をとり始める。

 だが、バーベキューに来ても、美沙の少食は相変わらずだった。

 

「せっかくだから、もっと食えよ」

 

 勧める陽祐に、美沙は恥ずかしげに笑って、

 

「でも、このあと泳ぐし」

「泳ぐから食わなきゃならねーんじゃんか」

「じゃあ、もうちょっとだけ」

 

 そう言いながら、野菜ばかり何切れか皿にとっている。

 陽祐はあきれて、

 

「ほんとに少食だな。無理に我慢して食わないようにしてるんじゃねーよな?」

「無理してないよ。おなかいっぱいなんだよ、ほんとに」

 

 美沙は苦笑いする。

 

「それにママを見てると、きっと食べたら太っちゃう体質だと思う、美沙も」

「オフクロの場合はビールのせいだろ。元インカレの女王が見る影もねーやな」

「ママの学生時代の写真を見ると、綺麗だもんね」

「というより、たくましいってやつだろ、ありゃ」

 

 陽祐は笑い、

 

「とにかく、食わねーで痩せようなんて不健康は許さん。よく食って、よく運動すること。この夏の目標な」

「うーん、どっちも苦手だなあ……」

 

 肉と野菜を平らげたあとは、スイカの登場だった。

 

「でも、包丁、忘れちゃった。どうしよう……」

「しょうがねーな。ちょいと河原を汚すことになるけど、スイカだし自然に還るだろ」

 

 陽祐はスイカを抱え上げると、大きな石の上に叩き落した。

 割れたスイカを手で小さく分けて、ひと切れを美沙に渡す。

 

「おなかいっぱいで、全部は食べきれそうもないね」

「俺が食うよ。残ったらクーラーボックスに入れて持ち帰ってもいいし」

 

 結局、スイカも陽祐ばかり腹いっぱいに食べたあとは、パラソルの下で休むことにした。

 

「美沙、いまのうちに着替えてきちゃうね」

 

 ビールも飲まなかったのに、何故だか赤い顔をして美沙は言う。

 

「どこで着替えんだ?」

「あっちの岩場の陰とか。ずっと話しかけてるから、お兄ちゃん、返事してね」

「了解」

 

 声さえ聞こえていれば、一人になっても安心ということだろう。

 岩陰に回った美沙が、さっそく呼びかけてきた。

 

「お兄ちゃーん、ビーチボールふくらませておいてー」

「あー、わかったー」

 

 まったく注文が多い。

 

「バーベキューとスイカ、おいしかったねー」

「そうだなー」

 

 返事をするには、いちいち空気を吹き込むのを中断しなければならない。

 

「泳ぎは、何を教えてくれるのー?」

「まず、バタ足からだな。俺もこっちで着替えちまうから、声かけるまで戻るなよ」

「わかったー。でも、ちゃんと返事してー」

「甘えてるな、こりゃ完全」

「なんか言ったー?」

「なんにもー」


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