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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第五章  美沙(四)
34/90

5 - 3

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 用を済ませて男子トイレを出た陽祐は、あとについて来た美沙に、

 

「おまえはいいのか?」

「うん。それより、お兄ちゃん」

 

 美沙は、売店を指差した。

 

「おみやげ見ていこうよ」

「みやげなんて、誰に持って帰るんだよ?」

「自分たちにでも、いいじゃない。せっかく来たんだから、ね?」

 

 そんなの帰りでいいだろうと思ったが、帰りは遊び疲れて余計に面倒くさくなっているだろう。

 仕方なく、妹の思いつきにつき合うことにした。

 売店に入って、置き物やマスコットの類を、美沙は興味深そうに見て回る。

 そんなもので嬉しそうにしているのは、やっぱり子供だと陽祐は思ったけど、口には出さない。

 陽祐は菓子のコーナーで、どこのサービスエリアでも売っていそうなクッキーやまんじゅうを物色した。

 

「牛もニワトリもいなければ、牛乳や卵も手に入らないから、クッキーなんか食えるのも、いまのうちか」

 

 そう考えると、ありったけの菓子を持って帰りたくなった。

 妙に可愛くデフォルメされた、牛乳瓶を抱えた牛のぬいぐるみを手にした美沙が、

 

「菜食主義者になるしか、なさそうだね」

「あしたは図書館でも行って、農業の研究するか」

「入口は閉まってると思うけど……またガラスを割って、入る気だよね?」

 

 美沙は苦笑いする。

 陽祐は一通りの菓子を一箱ずつ持ち帰ることにした。

 美沙は蕎麦と、うどんを選んだ。

 

「さっきのぬいぐるみは、いいのか?」

「うん。あの子は、元の世界に戻ったときに、また機会があれば」

「いま連れて帰っても、いなくなっちまうってのか?」

「わかんないけど……ここがお兄ちゃんの言うような実験空間なら、そうかなって」

 

 おみやげを抱えて車に乗り込み、再び出発した。

 高速を降りたところにセルフのガソリンスタンドがあったので、満タンに給油した。

 支払いは父親の財布から借りてきたクレジットカードで済ませた。

 ここからは地図の出番だった。残念ながら父親の車にはカーナビがついていない。

 

「おまえは地図……読めないよな?」

 

 たずねる陽祐に、美沙は苦笑いして、

 

「ごめん。美沙が見てもお兄ちゃんを怒らせるだけだと思う」

「どこかのカー用品店から頂いて来ればよかったな、カーナビ」

「すっかりタダで手に入れる発想になってるね……」

 

 美沙には地図を広げるだけの役目をさせて、陽祐は実際の風景と見比べながら車を走らせた。

 迷いかけたときには、すぐに車を停めて引き返す。

 ほかに車がいないので、ふらふら走っていても文句は言われない。

 目的地が近づくにつれて、子供の頃に来たときの記憶が甦ってきた。

 山に入ってからは一本道になり、急カーブに気をつけるだけでよかった。

 周囲は鬱蒼とした森で、ここが動物が消えた世界でなければ、熊でも出そうだ。

 目的地の沢の入口を知らせる案内標識があった。

 陽祐は標識に従って、細い脇道に車を入れ、徐行運転で坂を下った。

 やがて視界が開けると、目の前に渓流があった。


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