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家に帰って、きのうと同様に交代でシャワーを浴びた。
Tシャツと短パンに着替えた陽祐が脱衣場を出ると、外で待っていたパジャマ姿の美沙が言った。
「お兄ちゃんの中学の卒業アルバム、見せてくれない?」
「え……なんで?」
「なんでって、なんでも。合宿のときの写真が載ってたりしないの?」
「水泳部は集合写真が一枚きりだぞ」
「それでもいいから、見せてよ。ね?」
にっこり笑顔で言われると、嫌とも言えない。
二人で陽祐の部屋へ行く。
陽祐は押入れを漁って卒業アルバムを引っぱり出し、美沙に渡した。
「表紙は美沙たちのと、全く一緒だね。書いてある卒業年度が違うだけで」
「そりゃそーだろ、卒業アルバムなんて」
美沙は床に座って、アルバムのページをめくる。
陽祐も隣に座って、覗き込んだ。
「あ、最初のページの、校舎と校長先生の写真まで一緒だよ。すごい手抜き」
「本当かよ? あとで、おまえのも見せろ」
「えーっ、やだ」
「やだって、なんだよそれ」
「美沙、クラス写真の撮影のとき、親知らずを抜いた次の日で、ひどい顔だから」
「面白れえじゃん、見せろって」
「やだ、絶対やだ」
「いまみたいな、ふくれ面で写ってるのか?」
笑う陽祐に、美沙は口をとがらせて、
「ほんっと、お兄ちゃんって、ときどき意地悪だね」
「ときどきな。いつもは神様か仏様のように、やさしさに満ちあふれてるけど」
「それ絶対、嘘。それより水泳部の写真って、どれ?」
「後ろのほうじゃねーか?」
美沙がページをめくっていくと、各部活の集合写真を載せたページがあった。
水泳部はジャージ姿で、プールサイドで撮影していた。
「下級生も一緒なの? お兄ちゃんの代だけで、こんなに人数いないよね?」
「俺たちの代は四人だからな。寂しいから下級生も入れて撮ってもらったんだ」
陽祐たち当時の三年生四人は後ろに立って、その前に二年生が六人、しゃがんで並んでいる。
一年生の五人は、三年生の左右に分かれて立っていた。
「これ、お兄ちゃんだ。なんか可愛い」
後列の男子部員の一人を指差して、美沙はくすくす笑った。
陽祐は仏頂面で、
「しょうがねーだろ。その写真のときは、いまのおまえより年下だよ」
「美沙から見たら、お兄ちゃんはずっとお兄ちゃんだから、こんなに可愛いなんて気づかなかった」
「可愛い可愛いって、何度も言うな」
「あれ? この隣って……」
「ああ、麻生だな」
自分の隣に夏花が写っていたことを、陽祐はすっかり忘れていた。
「この当時は、痩せてて黒くてゴボウみたいだよな。泳ぎは、やたらと速かったけど」
「ふーん。なんか馴れ馴れしい。お兄ちゃんの肩に、手なんかかけて」
美沙はページをめくってしまった。
次のページからは修学旅行や体育祭など学校行事のスナップだった。
「……おまえ、麻生と仲悪かったっけ?」
たずねる陽祐に、美沙は「え?」と顔を上げ、苦笑いして、
「そんなことないよ。仲良しでもないけど。どうして?」
「いや……そんな口調に聞こえた」
「だって、馴れ馴れしいと思ったから。運動部は上下関係に厳しいもんじゃないの?」
「うちは緩やかなほうだし、野球部みたいな厳しいトコも、記念写真までは、うるさいこと言わねーだろ」
「そうなの? どっちでもいいけど」
美沙はアルバムに眼を戻した。
「お兄ちゃん、どこかに写ってる?」
「体育祭の……いや、どこも写ってない」
「えっ、何? どこか写ってるんでしょ?」
美沙は体育祭の写真をじっくりと眺めて、やがて一つの写真に気づき、手を打って笑い転げた。
「あはは、やだ、これがお兄ちゃん?」
それは応援合戦の様子で、陽祐はテニス部の女子に無理やり着せられたスコート姿だった。
手にはポンポンを持ち、頭にロングヘアのカツラをかぶってる。
「可愛い、すごい似合ってる!」
「もういいだろ、クソッ」
陽祐は美沙の手からアルバムをとり上げた。
「今度は、おまえのを見せろ」
「えーっ」
美沙は、机の上の時計を見やり、
「きょうは、もう遅いよ。またそのうちね」
「逃げるのか、卑怯者」
「そのうち見せるよ、気が向いたら」
美沙は笑って立ち上がり、陽祐の手をつかんで引っぱった。
「さ、寝よ寝よ、お兄ちゃん。あしたはバーベキューだよ」
「しょうがねーな……」
陽祐も渋々と立ち上がる。
* * *
こうして、二人きりの世界の二日目が終わった。




