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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第四章  美沙(三)
31/90

4 - 12

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 家に帰って、きのうと同様に交代でシャワーを浴びた。

 Tシャツと短パンに着替えた陽祐が脱衣場を出ると、外で待っていたパジャマ姿の美沙が言った。

 

「お兄ちゃんの中学の卒業アルバム、見せてくれない?」

「え……なんで?」

「なんでって、なんでも。合宿のときの写真が載ってたりしないの?」

「水泳部は集合写真が一枚きりだぞ」

「それでもいいから、見せてよ。ね?」

 

 にっこり笑顔で言われると、嫌とも言えない。

 二人で陽祐の部屋へ行く。

 陽祐は押入れを漁って卒業アルバムを引っぱり出し、美沙に渡した。

 

「表紙は美沙たちのと、全く一緒だね。書いてある卒業年度が違うだけで」

「そりゃそーだろ、卒業アルバムなんて」

 

 美沙は床に座って、アルバムのページをめくる。

 陽祐も隣に座って、覗き込んだ。

 

「あ、最初のページの、校舎と校長先生の写真まで一緒だよ。すごい手抜き」

「本当かよ? あとで、おまえのも見せろ」

「えーっ、やだ」

「やだって、なんだよそれ」

「美沙、クラス写真の撮影のとき、親知らずを抜いた次の日で、ひどい顔だから」

「面白れえじゃん、見せろって」

「やだ、絶対やだ」

「いまみたいな、ふくれ面で写ってるのか?」

 

 笑う陽祐に、美沙は口をとがらせて、

 

「ほんっと、お兄ちゃんって、ときどき意地悪だね」

「ときどきな。いつもは神様か仏様のように、やさしさに満ちあふれてるけど」

「それ絶対、嘘。それより水泳部の写真って、どれ?」

「後ろのほうじゃねーか?」

 

 美沙がページをめくっていくと、各部活の集合写真を載せたページがあった。

 水泳部はジャージ姿で、プールサイドで撮影していた。

 

「下級生も一緒なの? お兄ちゃんの代だけで、こんなに人数いないよね?」

「俺たちの代は四人だからな。寂しいから下級生も入れて撮ってもらったんだ」

 

 陽祐たち当時の三年生四人は後ろに立って、その前に二年生が六人、しゃがんで並んでいる。

 一年生の五人は、三年生の左右に分かれて立っていた。

 

「これ、お兄ちゃんだ。なんか可愛い」

 

 後列の男子部員の一人を指差して、美沙はくすくす笑った。

 陽祐は仏頂面で、

 

「しょうがねーだろ。その写真のときは、いまのおまえより年下だよ」

「美沙から見たら、お兄ちゃんはずっとお兄ちゃんだから、こんなに可愛いなんて気づかなかった」

「可愛い可愛いって、何度も言うな」

「あれ? この隣って……」

「ああ、麻生だな」

 

 自分の隣に夏花が写っていたことを、陽祐はすっかり忘れていた。

 

「この当時は、痩せてて黒くてゴボウみたいだよな。泳ぎは、やたらと速かったけど」

「ふーん。なんか馴れ馴れしい。お兄ちゃんの肩に、手なんかかけて」

 

 美沙はページをめくってしまった。

 次のページからは修学旅行や体育祭など学校行事のスナップだった。

 

「……おまえ、麻生と仲悪かったっけ?」

 

 たずねる陽祐に、美沙は「え?」と顔を上げ、苦笑いして、

 

「そんなことないよ。仲良しでもないけど。どうして?」

「いや……そんな口調に聞こえた」

「だって、馴れ馴れしいと思ったから。運動部は上下関係に厳しいもんじゃないの?」

「うちは緩やかなほうだし、野球部みたいな厳しいトコも、記念写真までは、うるさいこと言わねーだろ」

「そうなの? どっちでもいいけど」

 

 美沙はアルバムに眼を戻した。

 

「お兄ちゃん、どこかに写ってる?」

「体育祭の……いや、どこも写ってない」

「えっ、何? どこか写ってるんでしょ?」

 

 美沙は体育祭の写真をじっくりと眺めて、やがて一つの写真に気づき、手を打って笑い転げた。

 

「あはは、やだ、これがお兄ちゃん?」

 

 それは応援合戦の様子で、陽祐はテニス部の女子に無理やり着せられたスコート姿だった。

 手にはポンポンを持ち、頭にロングヘアのカツラをかぶってる。

 

「可愛い、すごい似合ってる!」

「もういいだろ、クソッ」

 

 陽祐は美沙の手からアルバムをとり上げた。

 

「今度は、おまえのを見せろ」

「えーっ」

 

 美沙は、机の上の時計を見やり、

 

「きょうは、もう遅いよ。またそのうちね」

「逃げるのか、卑怯者」

「そのうち見せるよ、気が向いたら」

 

 美沙は笑って立ち上がり、陽祐の手をつかんで引っぱった。

 

「さ、寝よ寝よ、お兄ちゃん。あしたはバーベキューだよ」

「しょうがねーな……」

 

 陽祐も渋々と立ち上がる。

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 こうして、二人きりの世界の二日目が終わった。


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