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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第四章  美沙(三)
28/90

4 - 9

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 家に戻って、車は門の外に停めた。車庫入れは手間だし、正直なところ自信もない。

 夕食は陽祐も協力してハンバーグを作り、今夜はビール抜きで食べた。食後は再び車で出かけるからだ。

 デザートは桃が出てきた。スイカはバーベキューに持って行くことにした。

 全て平らげたあと、美沙が、

 

「お兄ちゃん、お皿を洗うのお願いしちゃっていい?」

「いいけど……」

 

 陽祐が引き受けると、美沙はそそくさとダイニングを出て行った。

 何するつもりだ?

 皿を洗い終えたが、美沙は戻らない。見てない隙に、ビール飲んじまうぞ。

 パソコンを立ち上げ、地図のサイトで、あした出かける川への道順を調べた。

 子供の頃に父親の運転する車で出かけたきりで、うろ覚えだったからだ。

 国道から高速に乗るまでは簡単だけど、高速を降りてからが難しかった。

 車に道路地図が積んであったはずだ。ネットの地図を印刷するより、わかりやすいだろう。

 ついでに発電所の仕組みについても調べた。

 この世界で怖いのが停電だった。冷蔵庫が使えなくなった場合、食料の保存が困るのだ。

 当然のことだが、火力発電所や原子力発電所は、燃料が切れれば停止する。

 問題は、それまでどのくらい余裕があるかだった。

 しかし、燃料の残量がネットで公開されているはずもない。

 頼みの綱は水力発電や太陽光発電だが、それもいつまでも正常に働き続ける保証はない。

 もっとも、この世界が美沙の言うように「神様がくれた夏休み」であるのなら。

 停電の心配なんて取り越し苦労だろう。

 リアルに思えて、この世界は嘘だらけなのかもしれない。

 兄と妹が二人きりで取り残されたこと自体、すでに嘘のような話なのだ。

 

「──お待たせ、お兄ちゃん」

 

 声をかけられ、振り向いた。

 浴衣姿の美沙が立っていた。

 白地に紺で朝顔を描いた、落ち着いた雰囲気の浴衣だ。

 綺麗に結んだ赤い帯も、当然、自分一人で着付けたのだろう。

 

「帯の結び方を思い出すのに時間かかっちゃったけど、せっかく花火だから」

 

 照れたように笑う美沙を、思わず見つめてしまう。

 悪くない、と思う。

 兄貴なんかじゃなくて、誰かいい男がいれば、そいつに見せたほうが絶対いいだろう。

 世界が元に戻ったら、いい彼氏を見つけることを勧めてやろう。

 そんな空想を振り払うように、陽祐はパソコンに向き直って電源を切りながら、

 

「さっさと出かけるぞ。花火は山ほどあるからな」

「うん」

 

 素っ気ない態度にも、美沙が気を悪くした様子はなかった。花火がよほど楽しみなのだろう。


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