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堤防の下に車を停めて、草の斜面を二人で登った。
川を見下ろし、並んで腰を下ろす。
少し風があったが、むしろ心地よい。草はなびき、水面はきらめく。
「……静かだね」
美沙が言って、陽祐はうなずく。
「ああ。誰もいないからな、俺たちのほか」
「そっか……」
「人間も動物もいないけど、木や草があって、風や水が流れて……」
陽祐は草の上に寝転がった。
雲が流れていくのを見送りながら、
「……いまが一番、地球が平和なときかもしれねーな。人類が生まれて以来の何万年かで」
「平和って……人間がいないから?」
「人間がいないから戦争がない。事故や犯罪もない。地球を汚す公害も起こらない」
「いないほうがよかったってことかな、人間は……」
「地球にとっては、そうかもな。だから、みんな消されちまったのかも。地球だか神様だかの意志で……」
「…………」
美沙が陽祐の手を握った。
視線を向ける陽祐に、微笑みかけて、
「美沙は……この世に生まれて来ないほうがよかったなんて思ったこと、一度もないよ」
ほんの少し、手に力を込めて、
「ママやパパの子供に生まれて……お兄ちゃんと出会えて、よかったと思ってる」
「……まあ、俺も……」
陽祐は気まずく視線をそらし、
「生まれて来なきゃよかったとか、死にたいと思ったことは、まだねーけど、人間が消えたこの世界で……」
「……いるよ」
美沙は力強く言い、にっこりとする。
「人間は、いるよ。お兄ちゃんと美沙が。二人きりだけど、ゼロじゃないんだよ」
「それはそうだけど……」
「ママもパパもいないこの世界だけど、お兄ちゃんと二人だから、美沙は頑張れるんだよ」
「ああ……そうだな」
陽祐は美沙の顔を見て、苦笑いした。
「泣きごと言ってる場合じゃねーや。オヤジやオフクロが帰って来たとき恥ずかしくないようにしなきゃ」
「この世界は、夏休みをもらったと思えばいいんじゃないかな?」
「夏休み……?」
怪訝に問い返す陽祐に、美沙は微笑みながらうなずき、
「だって、世界を『二人占め』できるって、考えたらすごいことだよ。二人で何をしても自由なんだもの」
「それは、まあ……」
「でしょ? お兄ちゃんは免許がないのに車を運転してるし、美沙だって……」
「ん? おまえは……どうしたって?」
「……なんでもない。さあ、サンドイッチを食べようよ」
美沙は繋いでいた手を離すと、傍らに置いたバスケットを探り、サンドイッチを陽祐に差し出した。
「はい、お兄ちゃん」
「……どうも」
美沙が何を言いかけたのか少しばかり気になった。
しかし、相手の屈託のない笑顔を見て、きっと大したことではないのだろうと陽祐は思い直した。
無免許運転をしのぐような勝手気ままを、真面目な妹がしているとも思えない。
美沙はバスケットに入れて来た紙コップに水筒のアイスティーを注いで渡してくれた。
よく冷えたところに、ほんのり甘みが利いていた。
サンドイッチの味も上等で、妹が料理上手でつくづくありがたいと陽祐は思う。
「……あしたは、もっと遠出するか?」
ふと思いついて陽祐が言うと、美沙は眼を輝かせた。
「ホント、お兄ちゃん? どこに連れて行ってくれるの?」
「せっかく夏だし、山奥の川とかどうだ? ガキの頃によくやったろ、家族で河原でバーベキュー?」
「いいね、やろうやろう!」
美沙の嬉しそうな顔を見て、我ながら良いことを考えついたものだと陽祐は内心で自画自賛する。




