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世界の黄昏に愛する人と  作者: 白紙撤回
第四章  美沙(三)
21/90

4 - 2

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 朝食のあと、陽祐は洗い上がった服やタオルを洗濯機から引っぱり出してカゴに移した。

 両親の服まで出てきたのは、きのう洗濯していないからだ。洗濯当番が自分でよかったと、陽祐は思う。

 父親や母親の服を見たら、二人が消えたことを思い出して、美沙が悲しむかもしれないから。

 女物の下着もあった。妹のものと母親のもの。

 意識しても仕方がない。無造作につかんでカゴに放り込む。

 二回目の洗濯をセットしてから、洗い上がったものを抱えて庭に出た。

 一枚ずつハンガーにかけて物干し竿に吊るしていく。天気がいいから、すぐに乾きそうだ。

 家の中に戻って、掃除の続きをした。サンドイッチを完成させた美沙も途中から手伝った。

 最後は二人で二回目の分の洗濯物を干して、一通りの仕事が終わった。

 美沙は「ふうっ……」と満足げに吐息をついて、にっこりとした。

 

「これで出かけられるね」

「運転の練習のつもりで、車で行こうぜ」

 

 陽祐は両親の寝室を掃除したついでに持ち出しておいた車の鍵を、ちゃらりと振ってみせる。

 美沙は苦笑いして、

 

「絶対、安全運転ね。お巡りさんがいなくても制限速度守ってね。それが一番、安全なんだから」

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 バスケットと水筒を提げた美沙を門の外で待たせて、陽祐は車に乗り込んだ。

 父親がどうやっていたか思い出しながら、キーを差し込み、エンジンをかける。

 あっさり始動した。さすがオートマ。

 美沙が何やら手ぶりをしている。肩から脇腹へ手を動かして、何やってんだ?

 陽祐は窓を開けて顔を出し、たずねた。

 

「……何?」

「お兄ちゃん、シートベルト」

「ああ……」

 

 陽祐は渋々ながらベルトを締めた。必要ないと言いきれるほど運転に自信があるわけでもない。

 右がアクセル、左がブレーキ。それくらいはゲーセンのレースゲームで学んでいる。

 ブレーキを踏んだままギアを『D』に入れて、ハンドブレーキを下ろし、ペダルから足を離す。

 そろそろと、車が動き出した。おーっ、すげー。

 だが、直進したままでは向かいの家に突っ込む。どこかのタイミングでハンドルを回さないと。

 ゲーセンではもっと広いコースを走ったけど、狭い車庫から車を出すのとは感覚が違う。

 えいっとばかりにハンドルを右に回した。

 

 ──がりっ。

 

 不吉な音がした。

 

「……あーっ!」

 

 美沙が声を上げて、陽祐を睨む。

 

「お兄ちゃんっ!」

「気にするな。車検があるから今年中に買い替えるとオヤジが言ってた」

 

 陽祐は苦笑いして、とにかく車庫から車を出した。

 いったん降りて確かめてみると、右側の後部座席のドアに大きく引っかき傷ができていた。

 

「本当に大丈夫なの、お兄ちゃん?」

「だいじょぶ。こんな狭いところは、もう通らない」

 

 たぶん、な。


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