4 - 1
第四章 美沙(三)
「──お兄ちゃん、朝だよ」
美沙に起こされた。
「あ……?」
陽祐は眠たい眼を瞬かせ、
「……いま何時?」
「時計まだ見てないけど、もう明るいよ」
「そりゃ夏だし、早い時間から明るいっつーの」
「でも、きのうお洗濯してないし、サンドイッチも作らなきゃだし」
「洗濯……?」
あきれてきき返す陽祐に、美沙は口をとがらせて、
「だって、普通の生活するんでしょ? お掃除とお洗濯くらい、ちゃんとやらなきゃ」
「そしたらおまえ、俺は受験勉強しなくちゃな」
「するなら邪魔しないよ」
「やる気になるわけねーだろ」
陽祐は眼をこすりながら、起き上がった。
美沙が自分のタオルケットを畳みながら、
「お兄ちゃんはお洗濯と、お布団を干してもらって、ごはんのあとは、お掃除ね。美沙はごはんを作るから」
「わかった、わかった」
あくびしながら、うなずいた。まったく、生真面目な妹だ。
* * *
この家では、脱いだ服はそのまま洗濯機に入れることになっていた。
ただし、靴下と汚れのひどいもの、色落ちしそうなものは脱衣カゴに入れ、あとから分けて洗濯する。
優等生の美沙は「パパと美沙の服を一緒に洗濯しないで!」などとは言ったことがない。
一度だけ文句を言ったのは、母親が間違えて父親の靴下を他の洗濯物と一緒に洗ったときだ。
「パパのだから嫌とかじゃなくて、できれば靴下は分けたほうがいいと思って……」
洗剤を入れて洗濯機をスタートさせてから、和室の布団を庭に持ち出し、塀に引っかけて日に当てる。
手が空いたのでキッチンへ行き、料理をしている美沙に声をかけた。
「家事なんかするの、すげー久しぶりだよ」
美沙は振り向いて微笑み、
「なるべく二人で協力しようね。そしたら早く片付くじゃない?」
「まあ、しょうがねーな。手が空いちまったから、居間から掃除始めてもいいか?」
「うん。お願い」
物置から掃除機を出しながら、陽祐は、ふと考える。
シャワーはついて来てほしいと美沙だが、料理や洗濯で手分けしている間、離れているのは平気なのか。
理屈ではないのだろう。シャワーについて来てと言ったのは、甘えただけかも。
四六時中、泣いて怯えて世話を焼かされるよりはマシだろう。
陽祐は居間に戻って、掃除を始めた。




